きらめき神社へ続く大通り。大勢の人の波が、神社へと向かって進んでいる。
あたし−清川 望も、その人波に混じって、神社に向かって歩いている。
今日は、きらめき神社で年に一度の縁日が開かれる日。
この人波は、それを見に行く人たちってわけ。もちろん、あたしも。
日中はうだるようだった暑さも、すっかり宵闇に包まれた今の時間にはさほどでも無くなっている。
時折吹いてくる夜風が、汗ばんだ肌に気持ちいい。
……腕時計をちらっと見る。彼と待ち合わせた時間まで、あと5分ほど。
「あの人、もう来てるかな? ……ちょっと、急がなきゃ。」
少し、早足になる。でも、おろし立てでまだ糊の効いている浴衣では、ちょっと歩きづらかった。
……今年の夏のために、新調した浴衣。
濃紺の地に、桃色の小さな花が控えめにちりばめられた浴衣を、淡い黄色の帯で締めてみた。
去年までの柄も好きだったけど、残念ながら、丈が合わなくなっちゃって。
新しい浴衣は前に比べて少し地味だけど、あたしは結構気に入っている。
ちょっとは大人っぽく見えるかも……なんて思ったりして。
「……何て言ってくれるかなぁ、あの人。この浴衣見て……」
……ふとそう思って、ちょっと照れてしまった。
別に、彼に見せるために、新しい浴衣にしたわけじゃないんだけどね。
でも、心のどこかでは彼の誉め言葉に期待している自分に気が付く。
思わず、苦笑い。
……初めて彼から縁日に誘われたのは、二年前の夏のこと。
彼と知り合ってまだ間もない頃のあたしは、正直言ってあまり気乗りはしてなかった。
縁日なんて、子供の行くものだと思っていたから。
でも、なぜだか楽しかった。理由は、よく判らない。
単に一人じゃ無かったからか、それとも、彼と一緒だったからなのか……
何にしても、それまでは特に何とも思っていなかったはずの彼を、その頃から心の片隅に意識するようになったのは事実。
それから一年経って、また同じ頃縁日に誘われた。
……やはり、楽しかった。それも、前の年よりもずっと。
今度は、理由がはっきりしていた。……彼と一緒だったから。
付き合いが長くなるにつれ、いつの間にか、あたしの心の中で彼の存在が大きくなっていたことに気が付いた。
それが、去年の夏。
そして、また今年も、彼に誘われて縁日へと向かうあたしがここに。
今年は、どうなんだろう……? ふと、自分に問いかけてみる。
(……大丈夫。きっと、楽しめるよ。だって、今年も、一緒なんだからさ。)
胸の内から返ってきた答えに、我知らず微笑んでみたりする。
「おーい、清川さーん! こっちこっち!」
境内の入り口が見えたとき、人波の向こうからあたしを呼ぶ声がした。
声の方を向くと、彼の姿が見える。人々の間を縫って、あたしはそちらへと駆け寄った。
「こんばんは、よし君。ごめん、待たせちゃった?」
待ち合わせの相手、よし君−知場芳久君にそう訊くと、彼は微笑んで……
「いや、俺も今着いたばっかり。」
「そう? 良かった。」
ほっとして彼を見て、初めて気が付いた。彼も、浴衣姿だったんだ。
あたしの浴衣と同じ濃紺の地に、白の絣模様が点々と。それを、黒の帯で締めている。
あたしより頭一つ高い彼の長身に、その浴衣はとても良く似合っていた。
「あ、あれ? よし君も浴衣で来たんだ……は、初めてだね。」
今まで見たことの無かった彼の浴衣姿に、なぜだかあたしの胸は少しドキドキしていた。
「ん? ああ、これ? 実は、親父のお下がりなんだ。いやあ、せっかくの縁日なんだから一度くらいは着てけ、ってお袋が言うもんでね。……でも、こんなの着慣れてないからなぁ……なんか、変じゃない? どうかな?」
浴衣の袖口をつまみ、奴さんの様に広げて彼が訊いた。
「え? ち、ちっとも変じゃないよ。丈もちょうどみたいだし。大丈夫だよ。」
彼はほっとしたように笑った。
「そうかい? 良かった。……そう言えば、清川さんも。」
「え? な、何?」
「その浴衣、去年のと違うね。新しくしたの……?」
……気付いてくれた! 胸のドキドキが、さっきより高くなる。
「う、うん。前のが、ちょっと丈が合わなくなっちゃってさ。それで、新調したんだ。……ど、どうかな……おかしくないかな、これ……?」
「いや、全然。前のも結構良かったけど、それも落ち着いた感じで……清川さんによく似合ってると思うよ……俺は。」
そう言って、頭を軽く掻いている彼。照れてるときの、彼のクセ。
「あ、ありがと。そう言ってくれると、嬉しいな……」
嬉しさと、恥ずかしさとで、あたしは少しうつむいた。
「……そっか。今年は、お揃いの浴衣で縁日見物ってことになるんだな。……なんか、いいね。こういうのも。」
彼が、照れくさそうにポツリとつぶやいた。
「……えっ?」
思わず彼の顔を見上げると、その顔は、夜目にも判るほど赤くなってて。
そして、それを見ているあたしの顔は、たぶんそれ以上に赤く染まってるはず……
(そ、そっか……これ、柄は少し違うけど、彼とペアルックなんだ……ははっ。)
浴衣でペアルック、というのもちょっと変だけど。
彼に言われてその事実に気付いたあたしは、何だか無性に照れまくっていた。
「さ、さあ、そろそろ縁日見に行こうよ。あ、あまり遅くならないうちにさ……」
話題をそらすように、慌てて彼が促す。
「そ、そうだね……」
歩き出そうとした途端、彼は何かを思いだしたようにあたしの方を振り向いた。
「……あっ、そうだ! そう言えばさ、今年は久しぶりに花火大会が行われるんだって。知ってた?」
「へぇ、そうなんだ。しばらくぶりだね。」
「……俺、花火が良く見える場所知ってるんだ……あとで、見に行こうよ。ね?」
「……うん。」
そうして、あたしたち二人は、夜店の並ぶ境内へと歩いていった。
色とりどりの幕を広げた夜店の屋台が、参道の両脇に立ち並んでいる。
毎年変わらない縁日の光景だった。
でも今年はその参道に賑わう人々の数が、去年までよりも多いような気がした。
「ねえ、よし君。なんか今年って、いつもより人出が多くない?」
「そうだね……やっぱ、花火大会を目当てにした人が多いんじゃないかなぁ?」
話しながら歩くあたしたちの脇を、たくさんの人たちがすれ違っていく。
楽しそうな家族連れ、はしゃぎながら走り回る子供たち、あちこちの夜店をのぞく友達同士の集団、そして仲の良さそうなカップル……
(……いいなぁ……)
通り過ぎるカップルをしばらく目で追ってから、視線を再び隣の彼に向け……
じっとその横顔を見つめながら、
「……え、えっと……ね、ねえ、よし君?」
「……何?」
照れくさかったけど……思い切って、彼に訊いてみる。
「……そ、その……あ、あたしたちってさ……周りから、どう見えるかな?」
「え、えっ? ど、どう、って?」
びっくりしたように、彼が聞き返した。
「た、例えば……こ、こ、恋人同士に……見えたり……するのかな?」
「え、ええーっ?!」
彼が大声を上げる。周りの人たちが、何事かとあたしたちの方を向いた。
「ちょ、ちょっと! 何もそんな大きな声上げなくてもいいでしょ?!」
「い、いや、だって、突然そんなこと訊かれたから……」
ずいぶんどぎまぎしながら応える彼。
「だ、だから、例えば、だってば! ……それとも……」
少しばかり不満の気持ちを込めて、あたしは彼を横目で見た。
「……やっぱ、ただの友達同士にしか見えない、って思ってる?」
「え? い、いや、そんなことは……」
大いにうろたえる彼。そんな彼を、詰め寄るように見上げてみる。
「じゃあ……どうなのよ?」
その答えによって、少しは彼のあたしに対する本心を知ることが出来るかも知れない……
そう思って、ちょっとばかり真剣に彼を問い詰めた。
「え、えーっと……あ! ほ、ほら、清川さん、金魚すくいがあるよ! やってみようよ、ね、ほら!」
彼は逃げるように、近くの金魚すくいの屋台に駆け込む。
「こ、こらぁ! 待ちなさいよ、よし君!」
彼を追いかけて屋台の中に入る。水槽の周りに群がる子供たちに割り込んで、彼の隣にしゃがんだ。
「……去年も一昨年も、大してすくえなかったんだよなぁ……よし、今年の目標は五匹だ! ……ほ、ほら、清川さんもやってみなよ。」
あたしの方を見ながら、ごまかすように言う彼。
「……そんなことより、どうなんだよ? さっきの答えはさ?」
はぐらかされたのに腹が立ったので、思わず男言葉になってしまった。
「そ、それは……まあ、いいじゃないか。他人からどう見えようが、俺たちは俺たち。それでいいんじゃないかな?」
そう言って彼は、ニッコリと微笑んだ。それを見て、あたしはそれ以上何も言えなくなってしまった。
(うーん、なんか上手くごまかされたような気もするけど……弱いんだよなぁ……彼のこの笑顔には。まあいいか……)
苦笑いしながら、あたしも屋台の小父さんにすくい網を頼んだ。
「……おっ、そっちの姉さんもやってみるかい? にしても、ずいぶんと仲良さそうじゃねぇか、お二人さん。いいねぇ、若いもんは……」
網を差し出しながら小父さんが冷やかす言葉に、思わずあたしもよし君も顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
……さっきは自分じゃあんなこと言ってたのに……何だかなぁ……
その後も、あたしたちは色んな夜店を見て回った。
射的、輪投げ、くじ、焼きそば、ホットドッグ、綿飴……お互いの成果に一喜一憂してみたり、夜店ならではの味に舌鼓を打ったり。
「……楽しそうだね、清川さん。」
うきうきとはしゃぎ回るあたしを見て、彼が笑いかけてきた。
「うん! やっぱり、いいもんだね、こういうの。今年も、来て良かった! ……ありがと、よし君。誘ってくれて……」
「そう言ってくれると、俺も嬉しいよ。清川さんに喜んでもらえたんなら、俺も誘った甲斐があったってもんだからね。」
微笑む彼をじっと見つめて、それからふとつぶやく。
「……でも……」
「……ん? 何?」
彼に問い返されたので、慌てて両手を振ってごまかした。
「あ! いいのいいの、何でもないの。さ、さあ、また別のとこ行きましょ。」
彼はそれ以上何も訊かず、うなずいて歩きだした。
(……でも……何だかちょっとだけ……物足りないな……)
その彼からちょっとだけ遅れて歩きながら、あたしはさっき言いかけた言葉を心の中でつぶやいてみた。
……彼と一緒に、こうやって夜店を見て回って。
それが、あたしにとって楽しかったのは間違い無かった。それこそ一昨年にも、去年にも増して。
だけど、今年もそれだけで終わってしまうのは、何だかもったいないなぁ……と、いつの間にかあたしはそう思っていた。
仲良く見て回るだけなら、友達同士でだって出来る。そう、ただの友達同士でだって……
(……やっぱり、よし君はあたしのこと……その程度にしか思ってないのかなぁ……)
さっきの問いかけだって、結局ははぐらかされたままになってしまったし。
(……もし……それ以上に思ってくれてたとしたら……でも、それならそれで、もうちょっとムードってものを考えてくれたって、さ……)
……柄にもなく、そんなことを考えてしまうあたしだった。
花火大会の開始時間が迫ってか、境内の人の数はますます多くなってきていた。
段々と人混みがきつくなり、歩きづらくなってきた。
「大丈夫? 清川さん。混んできたから、はぐれないよう気を付けて。」
心配そうに、彼が声をかけてくる。
「う、うん。判った……」
そう応えたものの、あたしはまた、心中ちょっとだけ不満を覚えていた。
(心配してくれるのは嬉しいんだけど……こんなときは、「ほら、手をつなごう。」くらい言ってくれたっていいのに……)
……ふと心に浮かんだ自分の考えに、あたしは同時にとても驚いていた。
(や、やだ! あたしったら、何てこと考えてんだよ! か、彼と手をつなぐだなんて、そんな……いくら何でも……)
考えただけで、顔から火が出そうな思いだった。
「……どうしたの?」
あたしの様子が変なのに気付いてか、彼が訊いてきた。
「え! べ、別に何でもないよ……あは、ははは。」
笑ってごまかすあたし。……その時。
不意に、あたしの左手を、誰かが掴んできた。
「ひゃっ!!」
あたしは大いに驚いた。……あんなことを考えていた矢先に、本当に手を掴まれるなんて……!
(ま、まさか……よし君……あたしの気持ちが伝わって……そ、そんな……?!)
うろたえまくって、あたしの右隣を歩く彼の方を向いた。
……え? 右隣……?
確かに、彼はあたしの右側にいて、あたしをきょとんとした顔で見ている。
そんな彼が、あたしの左手を掴むなんて器用な真似が出来るわけがない。すると……?
あたしは急いで左手の方を向いた。
すると、そこには小さな女の子が、あたしの左手をしっかりと掴み、泣きそうな顔をして立っていた。
「び、びっくりしたぁ……ど、どうしたんだい? お嬢ちゃん?」
動揺を抑えながら、その女の子に声をかけてみた。
すると、彼女は半べそをかきながら……
「……おかあさん……いなくなっちゃった……おかあさん、しらない……?」
……あっちゃあー。迷子かぁ。無理もないな、この人出じゃ。
(参ったなぁ……あたし、子供は苦手なんだよなぁ……)
そう思いつつもあたしはしゃがんで、努めてにこやかに彼女に話しかけてみた。
「大丈夫、すぐ見つかるって。心配するなよ……な?」
……だけど努力の甲斐なく、彼女は見る間にぐずりだしてしまい……
「……うえぇぇぇ〜ん! おかあぁ〜さぁ〜ん!!」
……大声で泣き出してしまった。
(とほほ……)
「どうしたんだい? 清川さん。その子……」
脇から、よし君が声をかけてきた。あたしは彼と女の子を交互に見ながら、
「うん、迷子らしいんだけど……泣き出しちゃってさ……どうしよう。弱っちゃったなぁ……」
すると彼は、軽く肩をすくめると、腰を屈めて女の子に優しく話しかけた。
「そっかあ、お母さんいなくなっちゃったんだ。困っちゃったね。よし! お兄ちゃんたちが、一緒にお母さん捜してあげるよ!」
女の子はいくぶんか泣き止んで、彼の方を見た。
「……うっ……グスン……ほ、ほんとう……? さがしてくれる……?」
「ああ、大丈夫。……それじゃ、ちょっとゴメンよ。」
そう言って彼は、女の子をヒョイっと持ち上げ、肩車をした。そして……
「この女の子が、お母さんを捜していまーす! ご存じの方はいらっしゃいませんかぁー?」
そう、大きな声で周りに呼びかけた。
あたしはそれを見て一つうなずき、彼に合わせて声を出した。
「すみませーん! この子のお母さんは、いませんかぁー?」
……そうして呼びかけながら歩いているうち、程なく彼の肩の上の女の子が……
「あっ! おかあさんだ!」
と、前方を指さしながら嬉しそうに言った。
そちらに目を向けると、浴衣姿の若い女性が、あたしたちの方に走ってくるのが見えた。
よし君が女の子を肩から降ろすと、女の子はその女性に駆け寄っていった。
「すみません。見て回っている内に、この子とはぐれちゃって……本当に、どうもありがとうございます。お二人には、何とお礼を言ったらいいか……」
女の子の母親は、恐縮しながらあたしたちに向かって、何度も頭を下げた。
あたしとよし君とは、お互い照れ笑いしながら顔を見合わせるばかりだった。
「いいんですよ。困った時にはお互い様ですから……良かったね、お嬢ちゃん。今度は、お母さんから離れないようにね。」
彼がそう女の子に呼びかけると、女の子はニッコリ笑ってうなずいた。
「うん! おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」
やがて、その母子はしっかりと手をつないで歩いていった。
女の子がこちらを振り返り、空いた手であたしたちに向かって一生懸命手を振っているのを、やはりあたしたちも手を振って見送った。
「ふう……まあ、何にしても無事お母さんが見つかって良かったね。」
彼女らが人混みに紛れて見えなくなると、よし君は一息ついて実に嬉しそうに微笑んだ。
「うん、そうだね……ところで、ありがと。よし君……」
あたしの言葉に、彼は少し不思議そうな顔で……
「え、何のこと?」
「あの女の子……もしあたし一人だったら、あそこまで面倒見てあげられなかった……よし君が面倒見てあげたから、お母さんも見つけることが出来て……本当、よし君がいてくれて助かった……ありがと。」
言いながら、彼をじっと見つめた。そしたら彼は、照れくさそうに頭を掻いて、下を向いた。
「べ、別に、そんな大したことしたわけじゃないよ……参ったなぁ……」
「やだ、何もそんなに照れなくったっていいのに……ふふっ……」
大いに照れている彼の、そんな仕草が何だか可愛くて、あたしはついクスクスと笑ってしまった。
「は、ははは……」
つられるように、彼も笑った。
『……皆さま、大変長らくお待たせしました。間もなく、花火大会を執り行います……』
場内アナウンスが鳴り響く。
「あ、そろそろ今日のメインイベントが始まるみたいだね……じゃ、行こう。清川さん。」
彼の呼びかけに、あたしも大きくうなずいた。
「うん! 見に行きましょ。」
彼が連れてきてくれた場所……神殿の裏にある高台からは、打ち上がる花火が確かによく見えた。
……ただ、そういう良い場所には当然他の人たちも目をつけるわけで……
あたしたちだけの特等席、といかなかったのはちょっと残念だけど。
ともあれ、あたしとよし君とは、並んでそこから花火を見ている。
夏の夜空に、大小さまざま、色とりどりの花火が次々と広がり、その度に周りの人たちから歓声が上がっていた。
「……綺麗だね……」
光の花々に見入ったまま、あたしはそうつぶやいていた。
「ああ……ほんと、綺麗だよね……」
隣にいるよし君も、同じようにつぶやいた。
花火から視線を外し、彼の方を向いて言った。
「今夜は……色んなことがあったけど、ホント楽しかったよ。最後には、こんな綺麗な花火まで見られて……本当に、ありがと。よし君……」
彼は何も言わず、ニッコリ笑ってうなずいた。
そこに連発の花火が打ち上げられ、あたしはまた空に目を向けた。
……すると、脇に下ろしていたあたしの右手に、誰かの手がそっと触れて……そのまま、軽く握ってきた。
「!」
驚いて、その握られた手の方を見ると……
今、あたしの右隣にいるのは……よし君だけ。今度は間違いなく、彼があたしの手を握っていた……
ドキドキしながら彼の顔をのぞき込むと、彼は素知らぬ顔で花火を見ている。しきりに頭を掻きながら……
とっても恥ずかしかった。でも、同時にとっても嬉しくって……
あたしはそのまま顔を空の方に向けて……彼の手をきゅっと握り返した。
……彼の手の温もりが、あたしに伝わってくる。
「……嬉しいな。」
あたしがそっとつぶやいたとき、夜空に一際大きな花火が広がった。
【Postscript】
「桜は春風に揺れて」以来、久しぶりに書いたSSでした。
文章のコツを忘れているようで、発表時にはかなり心配だったのですが……
とりあえず悪い評価では無かったようなのでホッとしました(^^;(ホントのとこは知らんけど(爆))
つき合って3年目ともなると、清川さんもかなり「恋人」というものを意識しているようで……
前2作での「ひたすら照れまくる清川さん」よりは少し前進してるみたいです。
それでも3年目でようやく手を握るだけなんて……まるで西○知美みたい(笑)
(作品初出) 97/08/21 NIFTY-Serve内ときメモSSパティオ「ときめき文庫」
◇この作品への感想は、きゃのん(cannon@seagreen.ocn.ne.jp)までお送り下さい。