……かたん、ことん……カタン、コトン……
……規則的なリズムで刻まれる音と振動。
それが、身体の中からぽかぽかと暖められてる、今のあたしには気持ちよくって。
そして、あたしの隣りに座り、ぽーっとしているこの頭を快くもたれさせてくれる……
この男性(ひと)の肩の温もりがとっても心地よくって。
……いつの間にやら、あたしは……こっくり、こっくり……と浅い眠りに落ちてしまってた。
「……よかわさん。清川さん……」
……どこから聞こえてくるのか判らないような、でも、すごく安心出来る聞き慣れた呼び声。
その声と共に、あたしの肩が軽く揺さぶられている。
「…………ん……? ……なぁに……?」
いきなり起こされたので、頭はまるっきり働いてない。けど、反射的にそう返事をする。
心地よい眠りを邪魔されたので、ちょっぴり不機嫌な気持ちが、その声に混じってたかも知れないけど。
「……せっかく眠ってたとこなのに、ごめん。……でも、そろそろ降りなきゃいけないから……」
聞き慣れた声は、そう優しく話しかけてくる。
あたしは、自分の離れたがらない両瞼を無理矢理なだめすかし、やっと半分くらいこじ開けた。そして、声の方を見上げる。
目の前には、隣りに座る彼の苦笑する顔。ちょっとぼやけて見えるのは、眠気のせいか、それとも……
「……あ〜、そっかぁ……もう、着いちゃうんだ……」
ようやく、彼の言葉を理解できる程度には働きだした頭。
でも、目が覚めてもぽーっとしてるのは相変わらず。
「うん。……ね、大丈夫?」
心配そうに彼があたしの顔をのぞきこむ。
「ん〜? 大丈夫だいじょぶ。ちゃんと帰れるよ〜。ふふふ……」
彼には悪いけど、なんだか意味もなくくすくすと笑いがこみ上げてきちゃう。
「……ほんとに大丈夫かなぁ……?」
半ば呆れ顔の彼。
……うーん……ちょっと、飲み過ぎちゃった、かな……?
でも、いくら久しぶりに高校時代の友達と会い、勢いで飲み会になったからと言って……
あたしがこんな風になっちゃったのは……はっきり言って、止めなかった彼が、悪い!
……確かに、今日は今までにないようなペースで色々飲んでた。それは、認める。
だけど、彼だって、あたし以上に張り切って飲んでたんだからさぁ……
おかげで、結局最終電車にギリギリセーフの時間までになっちゃったし。
そのくせ、彼ったらあたしよりもわりとしゃきっとしてる。なんか、不公平だよね。
あたしが悪いんじゃない! そうだ、全部彼が悪い! そう決めた!
……なぁんてね。うふふふ……
やっぱり意味もなく、こみ上げてくる笑い。……あ、かなり効いてるなぁ、こりゃ。
そうこうしているうちに、電車はスピードを緩め……
やがて、社会人になってからすっかりお馴染みとなった駅のホームが見えてきた。
普段会社に通うときとは違い、人影はまったく見えないけど……
当たり前か、もう真夜中近い時間だもんね。車内も、あたし達二人の他にはまばらにしか乗客がいないし。
「さてと、降りなきゃ……立てる? 清川さん。」
シートから腰を浮かせながら、彼が言う。
「だ〜いじょぶだって! 鍛えてるんだから、これくらいで……よっこらしょっ、と。」
でも、言ってるわりには身体に力が入らない。
先に立ち上がった彼の身体につかまりながら、なんとかシートから離れたけど……
なんか、足が、ふらふら……としちゃって……ありゃりゃ……
「……やっぱり。しょうがないなぁ……」
ため息一つついてから、彼はあたしの左腕をぐっと抱え込んで、あたしをちゃんと立たせてくれた。
「あ、ありがと……」
そしたら、彼はそのままあたしの腕を引き寄せて、肩が触れ合う程に深く腕を組んで。
「……あっ。だ、大丈夫って……言ってるじゃない……」
「だーめ。危なっかしくてしょうがないよ。もうちょっとシャンとするまで、こうやって俺が支えてるから……さ、降りよう。」
そうして、彼は開いたドアに向かって歩き出した。当然、あたしも半ば彼に引っ張られながら進む。
「……ね、ねぇ……だ、誰かが見てたら……ちょっと……恥ずかしいよ……」
小声で、彼に抗議。何だか顔が熱いのは……お酒が残ってるせいだけじゃ……ないような……?
「ん? ははは、こんな時間だもの、誰も見てやしないって。平気平気。」
あたしの顔を見て、ニヤッと笑う彼。
……まったく。彼ったらいつの間に、こんな大胆なことが出来るようになったんだろ?
高校時代なんか、ろくにあたしの手を握ってもくれなかったくせに、さ。
ま、あたしの方も、だけど……ね。
……でも、確かに照れくさいけど……ふふふ……何だか嬉しい。
考えてみれば、こんなことが出来るのも……あたし達が、恋人同士だから……だもんね。
思わず、抱えられた腕にギュッと力を入れちゃったりして。
「こ、こら! 急に力入れたら、バランス崩れちゃうだろ!」
「何よぉ、つべこべ言わずに、ちゃんと責任持って連れてってくれなきゃ。ほぉら。」
服の上からでも判る彼の太い二の腕に、わざとぶら下がるようにしてみた。
「あっ! だ、だから、体重かけるなってば!」
とまどってる彼。でも、何だか嬉しそうな声の響き。それを聞いて、あたしもちょっと嬉しくなってしまう。
「これくらい平気、でしょ? さ、行こ行こ。」
……誰もいない、真夜中の駅のホーム。
聞こえているのは、あたし達のはしゃぐ声と、再び動き出した電車の駆動音だけ……
「わぁ……綺麗なお月様……」
家までの帰り道を二人並んで歩くあたし達。ふと、夜空を見上げてあたしは言った。
頭のてっぺんには、煌々と青白く光る満月が浮かんでた。
周りに星はほとんど見えない。夜空全体が薄青く染められてる。
そして、その月の光に照らされ、あたし達が歩く足元もはっきりと見えていた。
「うん、そうだね……でも、いつの間にあんなに高く……」
「そうね……最初の居酒屋に入ったときは、東の空に見えてたんだけどね。」
「うーん、すっかり遅くなっちゃったな……まずかったなぁ。」
ちょっと申し訳なさそうにつぶやく彼。
「?」
彼のほうを向いた。その顔も、お月様のせいで白く光って見える。
「あ、いや……俺はともかく、清川さんまでこんな遅い時間までつき合わせちゃったからさ……」
「ん? ああ、大丈夫よ。家にはちゃんと連絡入れてたから。それに……」
「……それに?」
あたしは、悪戯っぽく笑って彼の顔をのぞき込んだ。
「それに、その時、あなたが一緒だって言ったら……」
「い、言ったら?」
一瞬、ドキッとした表情を彼は浮かべた。
それを見て、軽く笑いながら続けるあたし。
「……『じゃあ、心配無いね。ちゃんと送ってきてもらいなさいよ。』って、お母さん笑ってたしね。」
「……そ、そうなの?」
「うん。ふふ……大丈夫よ。あなたは、もううちの親にはすっかり信用されてるんだから。」
彼、途端にホッとした顔になって。
「ふ、ふーん……それはちょっと、嬉しいな……」
照れくさそうに、頭を掻く彼。昔っから変わってないその癖。それを見てると、なおもクスクスと笑いがこみ上げてくる。
「で、でも……やっぱり、着いたら清川さんのご両親には謝らないといけないな。いくら何でもこの時間じゃ心配してるだろうから……」
「うん。……ありがと、気を使ってくれて。」
あたし達以外には誰も歩いてない夜道。あたし達の靴音だけが軽く響いている。
「……それより、清川さん、身体の具合はどう? 気分悪くなったりしてない?」
「え? うん、大丈夫よ。まだ、結構お酒は効いてるけど……ね。」
電車から降りた時よりは、いくらか足取りはしっかりとしてきた。でも、まだ普段の半分ぐらいしか力が入らない。
気分の方は、すっかりご機嫌。……それは、お酒のせいだけじゃないけど、ね……
「うーん……でもさ、清川さん、今日はいつもよりかなり飲んでたでしょ。」
「そ、そうかな? だって……ほら、あの二次会で出たカクテル、あったでしょ? あれがとっても美味しくって……ちょっと、ね。」
軽く肩をすくめて、ちろっと舌を出すあたし。
「ああ、確かにあれは……い、いや、でもね、あんまり飲み過ぎちゃ駄目だよ、うん。」
少しとがめるような口調の彼。それにあたし、ちょっとムッとして。
「な、何よ偉そうに……あなただって、あたしよりもっと調子よく飲んでたじゃない……それを、なんであたしばっかり……」
「あ、い、いや……でも……ただ、俺は、清川さんのことが心配だから……」
そう言ってくれる彼の気持ちは、とても嬉しかった。
別に、本気で怒ってるわけじゃない。
「ふーん……ま、いいけど、さ……」
けど、まだ残ってるお酒のせいかな。今のあたし、ちょっと彼に意地悪したい気分になってる。
「……それより、あたし、一つあなたに言いたいことがあるんだけどな。」
彼の顔をじろっとにらみながら、あたしは言った。
「え? な、何?」
ぎょっとして、彼がたじろいだ。
「前から思ってたんだけど……あなた、何でいつまでもあたしの事を、堅苦しく『清川さん』って呼んでるの?」
「……はぁ?」
いきなりのあたしの言葉に、ほけぇっとした顔をする彼。
「はぁ、じゃないわよ! いい? あたし達は……その……こ、恋人同士、でしょ?」
未だに、こんなことを口にするのはちょっと照れくさい。でも、今はそれどころじゃなくて。
「あ、ああ……そ、そのつもり……だけど……?」
「そ、そうよね。あたしが、高校の終わりに思い切って告白して、あなたがそれを受け入れてくれて……」
「う、うん……」
「……それからずっと、今までつき合ってきた。……もう2年以上のつき合いになるんだよね、あたし達……」
言いながら、今までの彼との楽しかった思い出の数々が頭をよぎった。
思わず、微笑みが浮かんでくる。……はっ! いけないいけない。
「そ、そうだね……」
「でしょ?! でも、あなたったら、いつまで経ってもあたしの事『清川さん』、なぁんて……他人行儀な呼び方しかしてくれないじゃない!」
「……うっ……」
……それは、あたしがずっと気にしてた事だった。
高校時代から今まで、彼はあたしの事を『清川さん』以外の呼び方で呼んでくれたことが無かった。
別に、それが悪い、ってわけじゃあないんだけど。
でも、高校の頃ならともかく、恋人同士になった今でもそれだと……やっぱり、何だか他人行儀だなぁって思えて。
……今まで、あたしの方からは……呼び方を変えてくれ、なんて……ちょっと恥ずかしくて、言い出せなかった。
だけど、今日はちょうど良い機会。この際だから、はっきりさせたい。そう思ったんだ。
「べ、別に……深い意味なんてなかったんだけど……そ、そんなに気にしてるとは、思ってなかったよ。」
突然のことに、おろおろして言い訳する彼。
「そりゃ、あなたにとってはそうかも知れないけど、ね……でも、あたしにしてみれば、これは重要なことなの!」
彼の顔を、下からねめ上げるあたし。……我ながら、今かなり人相悪くなってるな、こりゃ。
「そ、そっか……悪かったよ……じゃ、じゃあ、今から呼び方変えよう。うん。」
「……何て?」
しきりと視線をあちらこちらにさまよわせながら、彼は、少し照れくさそうに。
「……望……さん……かな?」
どきっ。
……名字から名前に変わっただけなのに、そう呼ばれただけで、あたしの胸は少しならずときめいてた。
でも……でも。
まだ、ちょっと物足りなかった。……あたしったら、いつの間に、こんなぜいたくになっちゃってたんだろ。
ううん、たぶん、お酒のせい。そう決めつけて……それにかこつけて……あたしは、小声で、言った。
「…………『さん』は……いらない……」
「……えっ?」
自分でも、ちょっと恥ずかしい。彼から視線をそらしながら。
「……よ、呼び捨てに、してくれて……いいんだよ……」
「え、えぇっ?!」
大声で驚く彼。あたし、彼に振り向いた。
「べ、別にそんな驚くようなことじゃないでしょ? ……あたし達、もうそんな風に呼び合ってても、おかしくないと思うよ?」
彼の顔は、月の光の下でもはっきり判るぐらい、赤くなってた。……たぶん、あたしも。
「……う、うーん……いや……でも……それは……」
かなり歯切れの悪い、彼の口調。
「それは……何なのよ?」
「い、いや、だから……」
すっかりどぎまぎしちゃっている彼。軽く咳払いをしてから、続ける。
「あのね、男が女の子の名前を呼び捨てにするのって……いくら自分の彼女でも、かなり勇気がいるし……タイミングも重要なんだよ……」
そういう気持ちは、判らないでもない。
でも、今のあたしは、かなり意地悪になってた。
「……何よ、あなたったら、それくらいの勇気も出せないような人だったの? ……あたしがあなたに告白したとき、どんなに勇気を振り絞ったか……判ってるの?!」
「そ、それは……判ってる……けど……」
……ちょっと、本気でいらいらしてきちゃった。
こうなったら、物のついでだ。もう少し、彼を困らせてやろうっと。
「……あっそう。判った、もういいよ!」
そう言ってあたしは、くるりと彼に背を向けた。
「?! お、おい!」
「そんなにはっきりしない人だなんて、思わなかった。あたし、ここから一人で帰るから。じゃあね!」
そして、彼を置いてずんずんと歩き出す。……ちょっと足元がふらついてるけど。
「お、おい、ちょっと待てってば、清川さん……い、いや、望さん……」
背中から、呼び止める彼の声。……でも、まだ。んもう!
「ふーんだ! さよならっ!」
……本当に一人で帰るのは、ちょっと……ううん、かなり心細い。
けど……彼にはっきりしてもらいたいから。あたしってば、結構意地っ張りなのかもね。
なおもすたすたと歩いていくあたし。
……そしたら。
「ま、待てよ! …………の、望!」
ぴたっ。
その瞬間、あたしは、足を止めた。
「……い、今、何て……?」
そっと、後ろの彼に振り向く。夜目にも真っ赤な顔の彼と、目線が合う。
「……だ、だから……待てよ、って……」
少しずつ、少しずつ彼に歩み寄るあたし。
「今……あたしのこと……『望』、って……呼んでくれた……?」
頭を大いに掻きながら、軽くうつむく彼。
「……何度も言わせるなよ……」
彼の目の前に立ち止まり、その顔をそっと見上げる。
「ううん……もう一回……呼んで?」
「えっ?」
「ねぇ、お願い……」
ますます顔をうつむける彼。
「う、うん……の、望……?」
「も、もっと、大きな声で……」
「……望!」
……こうして実際に呼ばれてみたら、すっごく照れくさかった。たったこれだけのことなのに、胸がドキドキしてる。
でも……でも……何だか、とっても、嬉しくって。とっても、幸せな気分になっちゃって。
ぱふっ。
あたしは、思わず彼に抱きつき、彼の胸に顔を埋めた。
「ど、どうしたの?」
「……ありがと。すっごく嬉しい……」
彼と顔を合わせるのが何だか恥ずかしくて、あたしは彼の胸に向かってつぶやいた。
「な、何だよ……呼び方を変えたぐらいで……大げさだなぁ……」
「い、いいじゃない……ほんとに……嬉しかったんだから……」
……すると、彼が、そっとあたしの背中に腕を回してきた。
「……実はね。俺も……『望』って呼んだ瞬間……すっげぇ照れくさかったけど……でも、何だか、嬉しかったんだ……」
言いながら、彼の腕に少し力がこもる。
あたしは、彼の胸から顔を上げた。
恥ずかしそうに、でも、優しく微笑む彼の顔が見える。
あたしも、つられてニッコリと微笑んだ。
……少しの間、彼とそうして見つめ合っていた。
ふいに、彼がちょっと真面目な顔になる。
熱っぽく、じっと、あたしの目を見つめる。
……あたしは、胸が高鳴るのを感じた。
「……望……」
ちょっぴりかすれた声で、優しくささやく彼。
……それがどういう意味か、あたしには判った。
それは、とても、嬉しいこと。……でも、ちょっと、恥ずかしくって。
あたしはほんの少し、視線をそらした。
「……だ、誰か……見てるかも……」
「……大丈夫。誰も見てやしないって。」
……それでも、まだちょっと、心が落ち着かなくて。
あたしは、彼の頭上を見上げながらつぶやいた。
「……お月様が……見てるよ……」
「え?」
彼、一瞬呆気にとられて。でも、すぐにクスッと微笑んだ。
「そうだね……でも、お月様は、他にも世界中の色んなとこを見てるので忙しいだろうから……俺たちのことぐらいは、見過ごしてくれるんじゃないかな?」
……何だか、判るような判らないような彼の説明。
でも、可笑しくなっちゃって。小さく笑いながら、あたしは言った。
「ふふふ……じゃあ、そういうことにしておきましょうか。」
それから、もう一度、あたし達はお互いを見つめ合った。
無言で問いかける彼に……あたしは小さくうなずいて、目を閉じ……そっと背伸びをした。
……そして。
あたしの唇に、暖かいものが優しく触れた。
ふわっ……
それと同時に、微かに広がる甘い香り。彼と一緒に飲んでた、カクテルの香り……
「……ん……」
きゅっとあたしの身体を抱きしめる、彼の腕……
そして、あたしの唇を柔らかく包む彼の唇から……
彼の暖かさが、あたしの身体全体に、ゆっくりと染み込んでいく……
………………
気持ちの良い夜風が、あたし達の傍らをさあっと過ぎていく。
……とても長い時間に感じられた。でも、実際はほんの短い間だったかも知れない。
どちらからともなく、そっと唇を離し……それから、再びお互いに見つめ合う。
ふいにすごく照れくさくなって、あたしはまた彼の胸に顔を埋めた。
「……どうしたの?」
「……あなたったら……大胆なんだか……そうじゃないのか……よく判んないよ……」
そっと、彼の顔を見上げる。
彼は、困ったような顔で微笑んでいた。
「そうだなぁ……自分でもどっちなんだか、よく判らないな。……でも、これだけは、はっきりしてる。」
「……何が?」
すると、彼は照れくさそうに頭を掻きながら……
「……俺は、望のことが……誰よりも好きだ、ってこと。」
呆気にとられるあたし。次の瞬間、思わず顔から火が出そうになってしまった。
「……ばか。」
でも、とっても幸せな気持ちになって……あたしは、彼の首筋に両腕でしっかりしがみついた。
彼の笑顔を見つめる。彼の瞳の中に、あたしが映っている。
……そして、あたしは、もう一度目を閉じ、そっとささやいた。
「……あたしも……あなたが……好き。大好き……」
……今度は……あたしの方から……彼に、キス。
……これも、お酒のせい? ううん、違う……たぶん、ね。
――そうして、一つになった二人の姿を……
蒼い夜空にぽっかりと浮かんだ、お月様だけが、見ていた。