『お日さまランチ』


by.きゃのん


 昨日までしとしとと降り続いていた雨も、今日はすっかり止んでいた。
 初秋の空は、それこそ雨に洗われたかのようにすっきりと青い。
 バスの窓越しに差し込む日差しは、ぽかぽかと暖かく照りつけてくる。
 ……何にしても、休みの日にこう天気が良いのはいいことだ。
 特に、今日のような日は……
 ……俺−早嶋龍明は、そんなことをふと考えながらバスを降りた。
 目の前の停留所表示には『きらめき中央公園前』と書いてある。
 ちらりと腕時計を見てみる。待ち合わせ時間の10時半に1分前。ギリギリ間に合ったようだ。
 ……今日は、久しぶりにクラブの練習が休みとなった日曜日。
 たまの休みに何もしないのももったいないと思った俺は、同じサッカー部のマネージャーである虹野沙希さんに、「どこかへ出かけない?」と誘いをかけてみた。
 喜んでOKしてくれた彼女と話し合って決めた場所が、この中央公園というわけだった。
 ここには特に大きな施設があるわけではないが、景色が四季の移り変わりに応じて鮮やかにその姿を変え、静かに散策するにはもってこいの場所だった。
 もし今日も天気が悪かったならば、急遽別の場所を考える必要があったが……どうやらその心配も無さそうである。
 ……彼女との待ち合わせ場所は、今居るバス停の前。
 彼女が先に来ているかと思っていたが、その姿は見えない。
 時刻表を見ると、次に彼女の家の方面から来るバスはあと3分後に着くことになっている。
 たぶんそのバスで来るのだろうと思ったので、俺はベンチに座って待つことにした。

(……虹野さんと二人で出かけるのも久しぶりだなぁ……)
 公園の入り口の方を何となしに見ながら、ふとそんなことを考えてみた。
 ここんとこは日曜日にもクラブの練習が忙しくて、こうして二人でゆっくりとするのも本当に久しぶりのことだった。
 ……いつの頃からか俺と彼女とは、こうして学校を離れた場所でも会うようになっていた。
 その気立ての良さから、同じクラブのメンバーからばかりでなく一般の男子生徒からも人気が高い彼女。
 ……もちろん、この俺も大いに憧れている。
 そんな彼女が、なぜか俺とだけはこんな感じで出かけるのに付き合ってくれていた。
 彼女の方から誘われたことも何度かあった。
 当然、悪い気はしない。他の皆から羨ましがられているのは知っていたが……
(……自惚れてもいいのかな?)
 そう、思ってみる。だが、さすがに本当のところは判らない。確かめてみる勇気も、まだ、無い。
(……まあいいや。何にしても、こうしてデートしてくれるのは事実だからな……)
 今は、こんな俺に付き合ってくれる彼女の気持ちを大切にしたい、と思うだけだ。

 そうしてぼーっと考えているうちに、バスがやって来て、目の前に停まった。
 昇降口の方を見ると、予想通りに虹野さんが降りてくるのが見えた。
 俺の姿を認め、彼女は微笑みながら手を振って、俺の方に駆け寄ってくる。片手にはバスケットを下げていた。
 俺も手を振り返し、ベンチから立ち上がる。
「……ごめんなさい! 一つ前のバスで来ようと思ってたんだけど、間に合わなくって……待たせちゃったでしょ?」
 俺の前に立った彼女は、すまなそうに頭を下げた。
「いや、俺もほんの少し前に着いたばかりだし、ほとんど時間通りじゃないか。気にすること無いよ。」
 その言葉に、彼女はホッとした顔をする。
「ありがとう。……それでね、遅れたお詫びというわけでもないんだけど……これ。」
 そう言って彼女は、持っていたバスケットを軽く差し上げた。
 ……以前にも見た記憶のあるバスケットだった。
「……あ……! もしかして……また?」
 その中身が何かを思い当たり、それを指さして俺が言うと、彼女はニッコリと微笑んだ。
「うん! 今日も、お昼のお弁当作ってきたの。また公園の中で、一緒に食べましょ?」
「おおっ、やったラッキー! 実は俺、ひそかに期待してたんだよ。」
「そう言ってくれると嬉しいなぁ。うふふ……」
 ……前にも一度、やはりこの中央公園に遊びに来たときに、彼女が作ってくれたお弁当を食べさせてもらったことがあった。桜の花が真っ盛りの頃だった。
 生徒の間で噂になるほどの評判があった彼女の手料理だが、実際に自分が食べてみると、確かに噂どおりの美味しさだった。いや、それ以上だったかも知れない。
 彼女がわざわざ俺のために作ってくれたお弁当……
 俺はその美味しさに感激すると同時に、ちょっとした優越感をも味わっていたものだ。
 そのお弁当がまた今日も食べられるということに、俺は心から幸せを感じていた。
「ふふ……じゃあ、まだお昼にはちょっと早いみたいだから、先に中を散歩してみましょ?」
 俺を見てくすくす笑いながら彼女が言う。……どうやら俺はよっぽどしまりの無い顔をしていたらしい。
「あっ! そ、そうだね! それじゃ、中に入ろうか?」
 照れ隠しに一つ咳払いをしてから言うと、彼女はまだ少し笑いながら頷いた。

 両側に大きな桜の木が立ち並ぶ散策路を歩く俺たち。
 爽やかな風が木々の葉を揺らし、それに合わせて木漏れ日がきらめく。
「……気持ちいい風……良かった。今日は晴れてくれて。」
 木漏れ日に目を細めながら、虹野さんが話しかけてくる。
「そうだねぇ。今日も昨日までの雨が残ってたら、俺どうしようかと思ってたよ。」
「うふふ……ほんとね。このところはっきりしない天気が続いてたから……でも、まるで合わせてくれたみたいね。今日はこんな穏やかな日になるなんて……」
「ひょっとして、虹野さんが空にお願いしてたんじゃないの? 『根性出して、今度の日曜は晴れにして!』ってさ。」
「もう……! 龍明君ったら、そんなことばっかり……」
 苦笑しながら、彼女が俺をにらむ真似をする。
 それを受けて、おどけて謝る素振りの俺。
「……紅葉にはまだ早いみたいだね。」
 話をそらすように、脇の木の葉を見上げながら言ってみた。
 夏場の盛りの頃から比べると幾分色が褪せて、所々黄色くなりかけた部分が見えたが……
 全体が鮮やかにその色を変えるのは、まだもう少し先の話だろう。
「そうね……でも、その頃に見たらきっと綺麗でしょうね……」
 紅葉した姿を想像しているのか、うっとりと木々を見つめる彼女。
「だろうね。でもさ、もうその時期って多分、かなり寒くなってるぜ。」
「うん、そうよね。……これからはだんだん、グラウンドで練習するのもつらくなってくるよね。屋内での練習スケジュールも考えなきゃ……」
 彼女が考え込む素振りをしたので、俺は苦笑して、
「あのさ、虹野さん……今日ぐらいはクラブのこと忘れようぜ。せっかくの休みなんだからさぁ……」
「あっ! そうね。ごめんね……」
 肩をすくめて、彼女は小さく舌を出した。
 ……そんな風に他愛もない話をしながら、俺たちはのんびりと散歩を楽しんでいた。

 この中央公園は案外に広く、あちこち見て回りながらの俺たちが、池のほとりにたどり着いた頃には結構な時間が経っていた。
「ふう……ずいぶん歩いちゃったわね。時間もちょうどいいようだし、この辺でお昼にしない?」
 虹野さんがそう持ちかけてきた。
「そうだね、俺もちょうど腹減ってきたし……じゃあ、あそこのベンチに掛けようか?」
 受けて、池を囲む柵の前に置かれていたベンチを指さし、俺は言った。
 彼女が大きく頷いたのを見て、俺は彼女と並んでベンチの方に歩き出す。
 池の水面には、何羽かの水鳥が優雅に漂っているのが見えた。
 周りには、ほとんど人影がなかった。
 噴水の水音が静かに響き、時折遠くではしゃぐ子供たちの歓声が風に乗ってくる程度だった。
 二人並んでベンチに腰を下ろす。どちらからともなく、軽くため息をついた。
「……なんか、ホッとしちゃうね。静かで……こういう雰囲気って、割といいなぁ……」
 緩く微笑みながら、彼女がつぶやくように言った。
「ああ、天気も良くて、暖かいし……まさに、デートするにはもってこいの日和だね。」
「えっ……」
 何の気なしに応えた俺の言葉に、彼女は小さくうつむいてしまった。
 不思議に思って顔をのぞき込むと、そのほっぺたがちょっと赤くなっているように見える。
「……どうしたの? 俺、なんか変なこと言った?」
「あっ、う、ううん、何でもないの。さ、さあ、それじゃお待ちかねの、お弁当にしましょ?」
 慌てて彼女は、傍らに置いていたバスケットを引き寄せ、ふたを開けようとしながら言った。
「おっ、待ってました! 楽しみだなぁ……」
 彼女はニッコリ笑って頷き、バスケットの中から少し大きめのランチボックスを取り出して、俺に差し出した。
「うふふ……はい、どうぞ!」
「サンキュー!」
 俺が喜びを満面に表してそれを受け取ると、彼女はもう一度微笑み、今度は自分の分のランチボックスとポットとを取り出した。
「じゃあさっそく、いただきまーす!」
 俺は勢い良くランチボックスのふたを開けた。中には色んな種類のサンドイッチと、結構なボリュームの付け合わせやデザートとが詰められていた。
「うわあ、こりゃまた豪勢だね。見ただけで、食欲がますます湧いてくるなこれは。」
「えっ、そ、そうかな……? あ、でも、食べてみて味付けが合わないようだったら、遠慮なく言ってね?」
 付け合わせ用のミニフォークを差し出しながら、彼女が言った。
「うーん、虹野さんの料理に限って、そんなことは無いと思うけど……じゃあ、改めていただきまーす!」
 俺はサンドイッチに手を伸ばし、口にした。
 ぱくっ、むぐむぐ……ごくん。
「……ど、どうかな?」
 俺の反応を待つ彼女。
「……う、旨い! うん、やっぱり旨いよ、虹野さん!」
 見た目は何の変哲もないサンドイッチだったのだが、中身の具に絶妙な味付けがされていて、お世辞抜きに美味しかった。
 俺の賛辞に、彼女の表情がぱっとほころぶ。
「そ、そう? 良かったぁ! じゃあ、遠慮なく、どんどん食べてね?」
「そりゃあ、言われなくても……」
 俺は次々にサンドイッチをほおばり、付け合わせもひょいひょいと口に入れた。
「あっ、あんまり急いで食べなくても……はい、お茶、ここに置くね?」
 自分もサンドイッチをつまみながら、彼女はポットからカップにあけたお茶を、俺の傍らに置いてくれた。
「うん、ありがと。……もぐもぐもぐ……」
 少し口を動かすペースを緩めて、一つ一つの料理をじっくりと味わってみる。
 カツサンドのカツや付け合わせのガーリックチキン、フライドポテトに至るまで、普段コンビニ等で買う出来合いの料理とは、さすがに一味も二味も違っていた。
「ねえ、虹野さん。この料理って、やっぱり全部虹野さんの手作り?」
 お茶をすすりながら、彼女に訊いてみる。
「うん。……やっぱり、既製のものだとどうしても味付けが濃すぎたりするから……」
「へぇ……でも、これだけの量を作るとなると、かなり時間がかかったでしょ? ひょっとして、今日も早起きして……?」
 そう言えば、前に食べさせてもらったお弁当も、朝の5時から起き出して作ったと彼女は言っていた。
 俺の問いに、彼女はちょっとはにかみながら、
「うん……でも、今日は起きたのが6時ちょっと前になっちゃったの。だから、ぎりぎりまで時間かかっちゃって……それで、乗るつもりだったバスに遅れちゃったの。ごめんね……」
 彼女は、またすまなそうに頭を下げた。
「そ、そんな……謝る必要なんか全然ないよ。……俺のために、わざわざ早起きしてまでこのお弁当作ってくれたんだろ? むしろ、俺の方が申し訳ないくらいだよ。」
 俺は実際、感激していた。いくら料理が好きだからとは言え、お弁当にまで時間をかけて作るというのは、並大抵に出来ることじゃない。
 それも、俺なんかのために……
「あっ、い、いいのよそれは。私が好きでやってることなんだから……そ、それより、足りるかな? よかったら、まだもう少しあるけど……」
 言いながら彼女は、バスケットの中からもう一つ小さめのランチボックスを取り出そうとした。
「いいの? それじゃ、遠慮なく貰おうかな。」
 俺が応えると、彼女は満足そうにニッコリ笑って、お代わりのランチボックスを差し出した。
 そして俺はまた、彼女の作ってくれたお弁当をほおばった。
 ……彼女の料理を食べていると、何だか身体の中からふんわりと暖かくなってきて、気持ちもホッと安らぐ感じがした。
(……虹野さんのお弁当って、まるでお日様のような気がするな……)
 そう、それはちょうど、俺たちを暖かく照らしてくれている今日の太陽のような感じだと、俺は思っていた……

「……ごちそうさまー。いやー、ほんとに美味しかった。俺、もうすっかり満足したよ。」
 ランチボックスを空にし、食後のお茶を飲みながら、俺は人心地ついて言った。
「本当? 良かったぁ! そう言ってくれるのが一番嬉しいな……」
 虹野さんもお茶を飲みながら、俺の言葉にニコニコしている。
「それに、龍明君って本当に美味しそうに食べてくれてたから……今日も作ってきて良かったなぁって思った。ありがとう……」
 彼女は心底上機嫌な様子だった。
「……ねぇ、虹野さん?」
「ん? なぁに?」
「いや、その……虹野さんって、どうしてそこまでして俺なんかのためにお弁当作ってくれるのかなぁ……って思って。わざわざ早起きしたり、手間かけてまでさ……」
 さっきもちょっと思ったことだったが、俺は改めて訊いてみた。
 それは、今日のお弁当のことばかりではなかった。
 クラブのときでも、彼女は実にかいがいしく、俺たちの面倒を見、励ましてくれていた。嫌な素振り一つ見せずに……
 どうしてそこまで他人に尽くせるのか。
 それが彼女の性格だから、とは言っても、実際のところはどういう気持ちなのか……
 そこのところも知りたい……俺はそんな気持ちも込めて、彼女に訊いてみたのだ。
「えっ? ど、どうしてって言われても……それは……」
 彼女は少々困ったような表情を浮かべ……やがて小さくうつむき、ぽそりとつぶやいた。

「………………好きだから……」

「……えっ?」
 ……俺はドキッとした。
(ま、まさか……?)
 すると彼女は、顔を赤らめながら慌てて両手を振った。
「あっ……! や、やだ、『お料理するのが好きだから』ってことよ……!」
「な、なぁんだ……」
 俺は曖昧に笑ってごまかした。……心中、かなり残念に思っていたのだが。
「で、でもさ……虹野さんが料理好きだってのは、よく判ってるよ。だからと言って、それだけじゃ……」
 すると彼女は、微笑んで俺を見つめた。
「そうね、それだけじゃないわ……もっとはっきり言えば……私の料理を食べてくれて、喜んでくれる人を見るのが好きだから……ってことかな?」
「……料理を食べて、喜ぶ人を見るのが好き……?」
「うん! そうなの。」
 ニッコリ笑って頷く彼女。
「……私ね、実は小学校の半ば頃までは、お料理なんて全然やったことが無かったの。それこそ、なーんにも出来ないとろい女の子で……お母さんによく叱られてたっけ。」
 照れくさそうに彼女は言った。
「へぇ……」
 意外だった。彼女は、それこそ小さい頃から料理が抜群に上手かったんだろうな、と思い込んでいたから……
「……でも、家庭科の実習で、初めて料理を作ったとき……私の作ったものを食べてくれた友達が、『すっごく美味しい!』ってほめてくれたの。先生もほめてくれた。私そのとき、とっても感激したの……」
「ふぅん……」
「それから私、お母さんに頼み込んで、一生懸命お料理の練習をしたの。慣れないうちは、何度も失敗したっけ。でも、ようやく出来たお料理を、みんな喜んで食べてくれて……その度に私、嬉しくなって……」
 懐かしむように、遠くを見る彼女。
「それに、私の作った料理を食べて、満足してくれたみんなの顔が、とっても暖かく見えて……その顔を見ることも、私、すごく嬉しかった。」
「………………」
「……だから、もっともっと練習して、またみんなに喜んでもらおうって思ったの。それからは私、すっかりお料理が好きになって……お料理ばかりじゃなくて、他の家事も手伝うようになったの。そのおかげで、今のマネージャーのお仕事も助かってるけどね。」
 もう一度、彼女はニッコリと笑った。
「……何にも出来ない私が、お料理をすることで、他の人に喜んでもらえて……そして、それが私自身も嬉しくて……だから、お料理に手間をかけることは、ちっとも大変なんかじゃないの。手間をかければかけるほど、美味しいお料理が出来るし……」
 言いながら、俺を見つめる彼女の顔がぽっと赤くなる。
「……だから、今日も龍明君が、このお弁当を『美味しい』って言ってくれて……私、とっても嬉しいの……」
「そ、そう?」
 満面の笑みを浮かべて頷く彼女。
 ……何だか、判ったような気がした。
 彼女の作った料理が、なぜ食べたときに暖かく思えたのか……
 それは、その料理の一つ一つに、彼女自身の暖かい気持ちが込められているからなのだろう。
 自分の料理を食べた人に喜んでもらいたいという気持ち……
 それはまさに、その人を思いやる暖かい気持ち……
 ……『料理は心だ』なんて、どっかの偉い料理の先生が言っていたような気がしたが……
 虹野さんは、それを自分の料理で、自然に表している。
(……そして、それは料理ばかりでなく、彼女の行動全てに込められた気持ちなんだろうな……)
 そうも思った。
 ……俺は、そんな彼女のことが、ますます好きになっていた……

「ふあぁ……こんなにぽかぽかしてると、何だか眠くなってきちゃうね……」
 大きく伸びをして、彼女が言った。
 午後の日差しは、本当に穏やかに照らしつけている。
「ああ、そうだね……虹野さん、早起きしたんだろ? 眠かったら、遠慮なく寝てもいいんだぜ?」
「ううん、大丈夫……あ、あのね……龍明君……さっきのことなんだけど……」
 なぜか照れくさそうに、話しかけてくる彼女。
「何? さっきのことって……」
「うん……あのね、さっき私、『お料理を食べて喜んでくれる人を見るのが好き』って言ったでしょ? ……で、でも……龍明君が喜んでくれるのは……他の人と違って、私、特別嬉しいの……」
「えっ……?」
 ドキッとして彼女を見ると、その顔は赤く染まっていた。
「ど……どうして?」
 どぎまぎしながら訊く俺に、彼女は深くうつむいて、
「それは……龍明君だから……あなたが喜んでくれるから、私……」
 恥ずかしそうに、小さな声で応える。
 ……胸が、ドキドキした。
(虹野さん……まさか、虹野さんも本当に、俺のことが……?)
 ……絶好のチャンスだと思った。
(……よし! この際に、俺の気持ちを、彼女に打ち明けよう……!)
 俺は深く深呼吸して……思い切って、口を開いた。
「に、虹野さん! じ、実は俺、虹野さんのことが……す、好き……」
「………………」

ぱたっ。

「……へっ?」
 突然、彼女の頭が、俺の肩にもたれかかってきた。
「あ、あの……虹野さん?」

すー、すー……

 ……微かに寝息が聞こえる。
 そうっとのぞき込むと……なんと彼女は眠ってしまっていた。
「……ははは……参ったな、こりゃ……」
 苦笑いするしかなかった。
「ふぅ……まあいいや。これからもチャンスはあるさ……」
 そうして、彼女の可愛い寝顔を見ているうちに……
「ふあぁぁ……」
 欠伸が出た。何だか俺も眠くなってきた……
「ほんとに、今日は暖かいからなぁ……ふぁ……」
 ……いつの間にか、俺も寝入ってしまっていた。
 昼下がりの公園のベンチで、肩を寄せ合って眠る俺と虹野さん。
 秋の穏やかなお日様が、そんな二人を優しく照らしていた……

「……むにゃ……ありがとう、龍明君……私も……あなたが……」

−Fin−

[Postscript]
えー、HPオリジナルの新作2作目です。
執筆途中に「つーはーと」の妨害(笑)とかもありましたが、何とか書き上がりました(^^;ゞ
いかがでしたでしょうか? いやー、しかしこっぱずかしい話ですねー(^_^;(爆)
私的「虹弁」イベントパート2、といったところですが……本家の破壊力に迫れたものかな? なんか途中で別の娘のイベントも混じってるような……(笑)
実は、ストーリーの大本は、結構前に「ときめき文庫」への投稿用として考えていたものでして……(こんななげー話になるとは思ってなかったけど(笑))
ですから、話の筋に、何となく某あかりちゃんとかマルチとかな要素が入っていると思われても、それは単なる気のせいってもんですので(^^;(爆笑)
……にしても、やはり個人的に「虹色の青春」の影響は大きかったなぁ……と改めて思わされます。
中央公園にバスで行くのもそうだし、沙希ちゃんの描写も何だか……ね。
最後に、沙希ちゃんSSのリクエストを下さったKAZU@浅田和也さんに、深く感謝を申し上げます。m(__)m


◇この作品への感想は、きゃのん(cannon@seagreen.ocn.ne.jp)までお送り下さい。


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