『To My Sweet』
Dear My Sweet Ayako!
今日、生まれて初めて、僕のもとにエアメールが届いた。
青と赤のストライプじゃなくて、薄茶色の小包だったんだけど、
確かにパリの、どっかの消印が押してあった。
包みには、送り主の名前も、住所も書いてなかったし、
裏には、赤いマジックで、大きく
「It's a BOMB!!!」
って書いてあったから、
最初、受け取ったおふくろはかなりビビッたみたい。
でもちょうどその時、僕が近くにいて、すぐ笑い出したもんだから、
危うく警察を呼ばなくてすんだ。
僕がいなかったら大騒ぎになったに違いないって思ったら、
しばらく爆笑が止まらなかったよ。おふくろは怒り出すし・・・。
まったく・・・あっちに行っても全然変わってないね。
その、A3サイズぐらいの包みを(結構重かったぜ)抱えて、
まだ心配そうなおふくろに背中を見せ、僕は部屋に引っ込んだ。
ドキドキしながら、厳重な包みをほどいていく。
あ、このプチプチ、パリでも売ってるんだな、なんて思いながら。
まず姿を現わしたのは、薄いピンクの封筒。
ちょっぴり懐かしいような気がする彩子の字で、
「To My Dear」だなんて、ちょっとらしくないって感じだけど。
中から出てきたのは1枚の写真と、数葉の便箋。
シャンゼリゼ通りで笑いながら手を振る彩子の写真をしばらく眺めて、
それから、便箋に目を通した。
ところどころ、インクがにじんでいて、なんだろうって思ったんだけど、
結局、僕もインクのにじみを増やしてしまった。
その瞬間、彩子がすっごく近くにいるのを感じながら。
手紙の最後に、
「パリで描いた最初の作品よ。あなたのために描いたんだから、
大事にしないと、どうなるか・・・わかってるわよね!」
とあったのを読み、ようやく現実に戻った。
そして、大きな包みを開いてみた。
額に入った絵だってのは、彩子からだって分かった瞬間から
気が付いていたけど、どんな絵を描いたのかな、
またあのガーギーばりのやつなのかなって、ドキドキしながら。
はじめ、開ける向きを間違えて、目の前に出てきたのは額の裏面だった。
それを眺めながら、ひとつ深呼吸。
で、
「よしっ」
額を裏返す。
そこには・・・。
そこには、懐かしい風景が広がっていた。
きらめき高校の校舎。そして校庭。
真ん中に大きく立っている、あの樹。
そして、樹のそばに、
あの制服を着て、
僕を真っ直ぐに見つめて、
彩子が立っていた。
あふれ出てくる涙を拭うことも忘れ、絵を、
絵の中の彩子を、食い入るように見つめながら、
僕は、「彩子、こんなに素直な絵も描けるんだな」なんて、ぼんやり思ってた。
今すぐ、彩子に逢いたい。
そして、強く強く抱きしめて、もう二度と離さない、そう誓いたい。
けどそれは無理な相談。それは、わかってる。
彩子にとって、今一番大切なことを壊したくないし。
街角で微笑んでる彩子の瞳、すっごく輝いてるね。
夢に向かって、着実に進んでいる確信と、自信にあふれた瞳だね。
そうだ。
僕も、自分の夢に、もっと自信を持たなきゃ。
そうじゃなければ、今の彩子に笑われてしまうよね。
いつか、シャンゼリゼ通りで、二人で写真を撮ろう。
その日まで、僕は僕なりに、夢に向かって進んでいこうと思う。
じゃ、パリは寒いから、気をつけなよ。
また、手紙書くから。
追伸 あの樹、今も元気だよ。
また、きらめき高校の子たちに、夢を与え続けているみたい。
僕たちみたいな恋人が、また生まれてくると、いいね。