いよいよテスト車両に乗っての仕事が始まりその中には燃費計測、騒音測定、走行性能試験などがある。初めての試験走行は何だったろう? それはいいとして、燃費はどのように測るかからお話ししよう。
走行テストの種類で走る場所が決められている、燃費計測は浜北市(現浜松市浜北区)にある「天竜テストコース」で行う。※後に、ヤマハコースのストレート脇に出来た定地コースを、現在は専用コースが浜岡原発近くに出来ている。

燃費測定には「燃費計」と言う物を使う。「計」と言っても手作りの器具で、目盛りの付いたガラス管があって、2つの電磁式ソレノイドバルブを使って通常走行と計測走行時のガソリンの流れを切り替える物。測定前にガラス管の”0”までバルブを操作してガソリンレベルを上げ、400mの測定区間に入ると同時にスイッチでバルブを切り替えガラス管の中のガソリンで走る。

測定区間を出ると同時に切り替えて消費ガソリン量を読みとる。これを30〜80km/hの間10km/h飛びに測定するんだが、車速は±1km/h以内が目標。初めて走るとき必ず言われるのが「測定区間は息しちゃ駄目だに!」(遠州弁)、それほど集中してスロットルを操作し一定速度で走れという事か。
セッティングが上手くいっている仕様だと息を止める以外は可能だが、少しでも濃い薄いがあれば速度が徐々に変化して目標速度を上下し定まらない。消費燃料を伝えると同時に走ったときのフィーリングを伝える事も重要で、本当にそのフィーリングは正しいのか試されることもある。

「これでちょっと走ってきてや」。ただそれだけで測定を開始する、どこをどう変えたのかも教えてくれない。走っている内に「このフィーリングと燃料消費は確か3つ前と同じような・・・」、そのように伝えると「当たり、やっぱりこの仕様が良いかな」。燃費データは同じでもフィーリングに差があるので確かめるには「目隠しテスト」も必要なことで、私は上手く当てた方じゃないだろうか。
このように定地燃費を測るのは諸元データを取ることはもちろんだが、低開度のキャブレターセッティングは実走行で確認しなければならない。

キャブレターはスロー系とメイン系に分かれ、ベンチテストの性能試験ではメイン系となるメインジェットやニードルジェット、ジェットニードルの仕様を変更してセッティング出来るが、スロー系は実際に走って詰めていかなければならない。因みにキャブレター開度1/4近辺がスロー系とメイン系のガソリン流量が50:50になる所である。
セッティングで難しいのはそのスロー系とメイン系の繋がりがスムーズなのか?だ。メイン系が良くてもスロー系が駄目なら「NG」、目標とする燃費に近づけながらベストフィーリングを探していく、地道な作業です。

キャブレターが決まるとエンジン性能が決まるので、次は騒音測定を行う。
騒音測定には「定常騒音」と「加速騒音」の2種類がある。車速50km/hで通過する際の騒音と2速○○km/h(速度は忘れた50km/hだったかな、因みにアメリカは30mile=48km/h)から全開で加速したときの騒音を測定する。通過車速の誤差は±1km/h以内で5回測定し、内3回をデータとして使う。データにばらつきがあれば追加で測ることもあり、1日に100km位走る事もあった。

入社当初はテストコースのパドックを使っていたのでテストコースを走行する車両が無い早朝に行っていました。早朝に測定作業しないと、日中のテストコースは走行車両や周囲の騒音があり、正しく測定できないので前日にバイクと測定機材を搬入しておき、朝6時会社近くのドライブインで朝食をとった後テストコースへ行き仕事をはじめました。
最終コーナーを出たあたりの丘の上には「騒音コース」がそれぞれ出来上がり、常時自由にテストできる環境になった。公用車免許を取ったあとは、ほとんどAさんの変わりに私が走った。ただ、社内規定でテスト走行中はレーシングスーツ着用が義務づけされていたので夏は暑い!、一日中テストで走ると体重が2kg減る。そしてレーシングスーツはズッシリと重くなっていた。

【ヤマハコース図】


こうして見ると、やっぱり超高速サーキットです。
1周5.24km、直線長さ1.2km、最大高低差は20m以上はあったような。



定地性能試験はテストコースで発進加速や追い越し性能、最高速などを計測する試験。計測は光電管を利用しコントロールタワー内にある計測盤行います。例えばゼロヨンという0−400mの発進加速を測定する時、−50cmがスタート地点、0m地点に光電管があり光をカットすると計測が始まるようになっている、その後50m、100m、200m、400mの通過タイムがタワーの計測盤に表示される。追い越しテストはこのうち200m区間まで計測する。

とにかくゼロヨンはスタートが命、空吹かしをしてエンジン回転とクラッチを離すタイミングをはかり、クラッチレバーに掛けた指を離していく動作がタイムに響く。回転が高くクラッチを離すタイミングが早いと高々とウイリーする、逆に回転が低いときに繋ぐと良いタイムは出ない。体を思いっきり前に出しウイリーを極力抑え、スタートして前輪が30〜50cm浮く位がベスト、回転がレッドゾーンに入ろうかと言うところで2ndに入れた時点でゼロヨンタイムの95%が決まる。同様に3rdに入れたあと左手はハンドルから手を離しタンクの横に、只ひたすらシート後方に座り伏せて頭を下げ、シフトペダルを蹴り上げ方向に力を入れスロットルを一瞬戻すと上のギヤに入る、クラッチは握らないのがここは常識だ。0.15秒までなら誤差だが、0.3秒差以上はテクニックの問題。(体重±10kgで0.1秒差はあるでしょうか)

会社に入る前バイクで出した速度というのはCB125での120キロ位のものでしたが、RDの担当になり250は140、350では160km/hの最高速が出るのですが、テストコースの幅広さもあり怖さを感じることはありませんでしたが、慣れないのはそんな最高速からパドックに戻る際の減速。『40キロはこんなにゆっくりなのか・・』、そう呟くことが多かった。それも次第になれてエンジンの音や風を切る音、振動などからメーターを見なくても「今走っている速度」が分かるように体に染み込んでいきました。

ここで滅多にやらない試験のひとこまを。
サスペンションのセッティングは通常一人乗車で詰めて行くが、日本車がヨーロッパに渡ると排気量に応じてリヤサスペンションの交換をする人が居るんだそうです。250なら25%の人が、500なら50%、750は75%の人がと言う具合に。そこで設計が用意したヨーロッパ製のサスペンションと取り替えて二人乗りしたときのフィーリングが標準品と比べてどのように変化するか調べたことがある。
ライダーは当時RD350耐久車のテスト走行担当のF君、タンデムにAさんが乗って見たのだが、結果はどうも「愛国心」、自分の国の製品の方が優れていると言う現れだろうと言っていました。でも、今は逆に国産車に多くの海外製サスペンションが付いていますね。