今までにエンジンのベンチ耐久テストをはじめ、シャーシー耐久、走行耐久など紹介してきましたが、今回は書き漏らした過酷な走行テストを中心にご紹介しましょう。

バイクが走る場所は平坦路もあれば急坂路もあるし、限りなく続く直線路に屈曲したワインディングロードもあり、バイクを楽しむ道路環境ほどバイクにとっては過酷な条件となる。
そんな時でも安全性と快適性を確保するには、それだけの耐久性と安定性が求められるわけで。峠の下りでブレーキを多用してもフェードしないとか、加減速を繰り返しても変速操作はスムーズであることが求められ、ライダーが操作に気を取られることなく走ることに専念できるバイク作りを目指しているわけです。

そんな信頼性有るバイクを作るために「急加減速」と、「ミッション耐久」を行っています。
ヤマハコースは変形8の字コースで、アップダウンも激しいために定まったパターンテストは行い難い所がある。大排気量になると一部のテストは出来ないため、谷田部でのテストで実施する。その一つがミッションを含めた駆動系の耐久力とブレーキ性能のテストを目的に「急加減速耐久」を行う。
ローギヤからフル加速して最高速に達すると急制動を行うテストで、終日行います。後続車に対し危険を伴うので急加減速を行うテスト車両の後部には赤文字で大きく「急加減速」と、書かれた看板を取り付けていて、エンジンブレーキを併用しながらのフルブレーキングは、30km/h位まで速度が落ちると、今度は最高速までフル加速していく。エンジンはその度に悲鳴を上げるかの様な音を発して、エンジンにとっても過酷です。
とある外国車(四輪車)は、最高速からのフルブレーキングを3回続けてもフェードしなければ、ブレーキに関しては合格とされるらしいが、ヤマハのテストは遙かに厳しい事になる。
小排気量になると急制動ではなくミッション耐久を中心に、天竜川河畔の「天竜テストコース」で頻繁に行っていました。
特に郵政省に納入している関係で”ヤマハメイト”は年中やっていたような・・・それ位重要な確認項目。ヤマハメイトは自動遠心クラッチなのでアクセルを開いて加速、戻してギヤチェンジ、加速して閉じたらギヤチェンジ、スピードにして20km/h位、ロー、セカンド、サード、セカンド、ローを繰り返し、タイミング良く1サイクルを数秒間隔位で行うのは大変そうに見えました。チェンジペダルにはカウンターが付いていて、何回操作したかを記録できますが、足の方はともかく、頻繁にスロットルを開け閉めする手の方は腱鞘炎になるんじゃないかと思ったくらいです。

その様な過酷なテスト中から、チェンジの確実性と耐久性を両立させながらも、難しいのが”チェンジフィーリング”。「節度」と言っているけど、ちょっとペダルに当たっただけで変速してしまう物から、最後までペダルを押し込まないと変速できない物まで、多様なフィーリングが有るが、両極端でどちらも良くない。
ライダーが意図した変速するその課程をいかに足先に伝えながら=節度をもって変速を完了するか、が難しいようです。フィーリングを良くしようとすればチェンジストロークが伸びてチェンジミスが多くなる、かといって素早く変速できるようにすると固く節度が無いチェンジになる。排気量や回転数、クラッチの残留トルクやギヤ間の変速比等によっても変化するため、一様な設計では上手くいかない難しさがそこにはあります。

エンジン単体では以前に書いた「100時間耐久テスト」も有れば、「オーバーレブ耐久」と言うのもあります。これは、スロットル全開で空ふかしをする「無負荷全開テスト」です。
2サイクルはバルブ(動弁)がないからオーバーレブに強いと思われるかも知れないが、シリンダに開いている給気、掃気、排気のポート※1の影響や、コンロッド※2の上下に使っているニードルローラーベアリングは回転が高くなるにつれ平行回転するのが難しくなること、ちょっとした傷から破損するので見かけほど楽ではない。
実際、耐久性を考えると、どの排気量でも4サイクルよりは低い回転数しか出せていないのです。

※1、2サイクルは、ピストンが上下する際に生じる圧力差で給排気動作を行わせるために、シリンダに開けられた穴を”ポート”を利用して、エンジン1回転で全ての行程を終える。そのポートの位置や形状はエンジンの性能を大きく左右し、4サイクルのカムシャフトに相当する重要度を持つ。
※2、コンロッドは、ピストンとクランクを結ぶ”連結棒”。ピストンの上下運動をクランクの回転運動に変換する重要な役割を持っているが、この部分にメタルを使う4サイクルと違い、2サイクルではベアリングを用いて円滑な回転を行っている。

話はRD250/400の開発最後の仕事辺りになるんだが、この無負荷全開テストをFさんがベンチでやったこと有ります。エンジンは風を送って冷却してはいるのですが、無負荷で回すと、ミスファイヤーを起こして頻繁に「プチュンパチュン」と、音を発しながら30分以上経っても平気で回り続けている。
いったん止めて分解し点検して異常ないため、その後も続けて回していたようで、トータルで2時間以上回しても機械的に壊れたり、焼き付きを起こして止まるなどの気配がないので、午後に入ってからはキャブレターのメインジェットを少しずつ絞って(小さい物に変更して)、ガソリン流量を少なくしていって強引に焼き付かせてご臨終。

第10話でも書いているように、ポイント式点火の場合、クランクシャフトの振れによりクランク角度に対する正確な点火コントロールが出来ないために、点火時期が不正確で回転数上昇が物理的に望めないので、エンジン破壊はなかなか起きないようです。ガソリンの流量を少なくすると一種の焼き玉エンジン(赤熱した発火元をシリンダ内に作って自然発火させるエンジンで、点火装置を持たない物)状態になり、高回転で回すことが出来るのです。とは言え、これを読んで「大丈夫なんだ」と思って、高回転での空ふかしは謹んで下さいね、責任は持ちませんので。
では、4サイクルではどうなんでしょうか?。とある自動車メーカーは3秒間全開して30秒アイドリング、これを3回繰り返して壊れなければOKらしい話を聞きました。ヤマハでもその基準はありますが、このメーカーの基準よりはるかに厳しいとだけ書いておきます。

現在は、ポイント式点火装置を使っている機種はないので、あらかじめ点火時期をプログラムされたCDI方式(2サイクルに採用が多い)か、トランジスタイグナイタ方式(4サイクルに多い)を採用しているので、クランク角度に対する点火時期のずれは、クランクの捻れ分しか無いことになり、ほぼ正確にコントロールできる。
そのため、いとも簡単にレッドゾーンに入るので、過回転を防止するための回路が組まれることがある。レッドゾーンに入らないように設定した回転以上では点火を行わないようにして、エンジン破壊を防止している。