25話と混同してしまいそうなくらい担当が入り乱れています!
改めて開発の日程を書けば、何度かの試作を繰り返して商品化にこぎ着けますが、2次試作は3次試作のためのテスト。逆に2次試作用の仕事は1次試作品でテストを行った結果の物。その1次試作用は0次試作で行います。新しいプロジェクト(実験段階に移った後)が立ち上がると、新しい試みが物になるのかならないのか、問題が有れば解決の方向性をどのように持っていくか等、見極めテストが主になります。その結果を受けて、大幅な変更を余儀なくされたり、別の手法を模索したりします。
現実には、25話でも書いたようにリンクを使った影響がスタンドや砂利道の下り坂でのエンストにつながり、その対策を取る必要が出てくると行った事です。

014になって初めに取りかかったのはエンジン性能で、0次試作は072(パッソル)が受け持ったような物なので、当初の1次試作では、次の2次試作に向けての性能開発です。最新仕様をクラッチ・変速担当のMさんと騒音グループに供給し開発を進めてもらう。エンジン性能が固まったところで、私はそのままベンチでのキャブレター開発、Fさんはオートチョークのテストに、N君は冷却・ピストン・シリンダの担当へ。時折ベンチに来たFさんにアドバイスを受けながらテストを進める。

毎日9時すぎまで残業していたが、さすがにパッソルの時のように10時過ぎと言うことは無くなったけど、残業が続いているせいか午前10時くらいまでみんなエンジンが掛からない。昨日のテストの見直しや策を練ってトライし始めるのがお昼前、午後に入って変化が現れるのが夕方、先に進んだ感触が出るのがそれ以降。そんな毎日で、一歩一歩確実に進歩はしていたが・・・。
キャブレターの方は仕様が固まったところでテイケイで機械加工してどうなるか、その加工をしている間はマフラーを中心としたテストです。

テイケイで加工が終わったキャブレターを使ってセッティングを始め、スロー系とメイン系のセッティングが煮詰まってくると天竜テストコースに車両を運んで燃費計測を始める。
ベンチで測定しておいたデータに基づいて燃費を計測するけど、いくらベンチで良かった物でも実際に走るとそうでもなかったり、感じ良い走りをしているのは燃費が悪かったり、低速度は良いけど高速度はだめだとか、その逆もある。
アクセルとスピードメーターに集中してフィーリングを確かめながら、それぞれの仕様一つ一つを確認していく。それが一日中続くし、翌日も、その翌日も繰り返し行われる。速度の安定性と燃費の両立は非常に難しいことを実感させられる毎日が続きました。成果が出ないときは夕刻遅くなって暗くなるまで燃費計測を行ったが、暗くなると燃費計の目盛りが読めない。そのとき他のプロジェクトはミクニを使っているから熊さんが車のライトを照らしてくれるが、014はテイケイの開発担当だから、頭を下げてライトをつけてもらった事もある。そうこうしていると、一緒にテストをしていたテイケイ気化器のK君は結婚式を挙げる事になり、しばらくの間T君が担当することになった。

014のキャブレター本体で当初から問題だったのは要求流量から一部外れてしまう部分があることだった。その”ハズレ”部分の解消に幾度もトライを重ねてついにそれを解決したのはニードルジェットに空ける穴(エアブリード)の位置で、あるところに空けた穴が効いて全回転域で要求流量範囲に入れることが出来て2次試作用の”実験マスター”が完成し、テイケイ気化器に送った。
マフラーが決まり、キャブレターも仕様が決定し、10月の全体がまとまっての2次試作仕様が出来上がりました。

そんな苦労して出来上がった実験マスターの仕様に基づいて、次の試作車用にキャブレターが作られました。そのキャブレターはテイケイ気化器の生産ラインを使って加工、組立された物だ。それが、出来上がってみればテイケイ社内試験でばらつきが大きく、”実験マスター”と比較しても、とても誤差が大きいことが判明し、2次試作用に出荷出来ない状態との事で、これは異常事態です。
ベンチで性能と流量を測定したデータとキャブレターを持って、ばらつきが出たその原因を調査するために急遽その日の夕方から岡崎にあるテイケイ気化器の工場へ設計のN主任、実験からS主任と私の3人が向かいました。
実験マスターを流量試験器で測定し、同時にヤマハで保管のサブマスターでの測定。それから試作キャブレターの測定を行うと流量が安定しない事に驚いてしまう。

ここで使う流量試験器とはどんな物でしょうか? それから説明していきましょう。
ヤマハにも同様の試験器が高低温環境試験室に隣接して有りますが、ガソリン(試験中は別の物を代用)が通る長さ40〜50cmのガラス管が5本並び、それぞれに1個のフロートが入っています。ガラス管の中は緩いテーパー加工が施され、ガソリンが流れるとその速さ(流量)によってガラス管内のコマが浮き上がります。流量が増すごとにコマが浮き上がり一本目の測定上限にくると2本目に切り替えますが、数値はぴったり一致している。その繰り返しで少ない流量から沢山の流量まで連続的に測定できるところが凄い。その設備費価格は数千万円すると言い、ガラス管だけでも一本200万位するとか聞いて納得。

ヤマハの高低温環境試験室にある流量測定器はスノーモービルを開発する技術部の管理で、他の部署が使えるのはその技術部が使っていない時間で、一回の測定には時間制限があり、白衣着用で入室できる人数も空中の浮遊ゴミを嫌って3人までだか制限があるし、試験部品の室内保管は許されない等厳しい管理、そおそお、室温・湿度管理もされていて、年中同じコンディションに保たれた「恒温室」になっている。

問題のキャブレターは測定器のフロートが安定しない。数値もマスターとは違う、どこが悪くてそうなったのか、原因を探るために部品を交換しながら測定することになりましたが、『大変なことになった』と、反省しきり。
テイケイのOさんと役員(設計も担当していたと思う)の方も一緒になって原因究明に当たってもらいましたが、時間は過ぎ・・・午後10時過ぎに「こりゃ時間掛かるな」と、時間が時間だけに出前には時間掛かったが、夕食を取って引き続き調査。それでもはっきりとした原因は分からないまま体力勝負の仕事になりました。
1次試作で使ったキャブレターでは問題ない、2次試作のキャブレターを一つ一つ部品を取り替えながら測定していく中では、なかなか原因が見つからない。製作時期が違う二つのキャブレター相互に部品を取り替える事も試みたと思いますが、はっきりとした原因がつかめない。そこで、午前3時過ぎ「実験マスターを分解して、部品を入れ替えてみようか」と、提案があって、調査の行き詰まり打開には仕方ないので分解する。その部品を間違わないように組み替えて測定すると、ある部品に原因があることを突き止めた。

その部品はニードルジェット。要求流量を満たすために最後に空けたエアブリード孔が犯人だった。キャブレターの基本設計図に従いエアブリード孔を空ける範囲はあらかじめ決まっていて、それを確認したつもりだったが、例のおむすび型ベンチュリーを採用した為、基準とする位置が変わったにも関わらず、その前の寸法を基準にしたことで、空けてはいけない所に空けたのが原因だった。僅か2mmの為に大変な事です。
問題点は分かった、でも再び要求流量を満たすための苦心が続くことが、私に重くのしかかることになる。
眠い中、Oさんが車で会社まで送ってくれて、10時頃に着いたかと思いますが、W課長から「今日は帰ってええぞ」。すると、S主任はキョトンとしていましたが、連続勤務時間が従業員の規約に引っかかるんだそうです。そんな気遣いというか、労働規約まで知っていかないといけないと言うのは、管理職って大変なんだね。S主任からは「よく頑張ったなー、もう帰れや」と言われましたが、一緒に徹夜した仲なのにね〜。そう言われてもやることは沢山あるし、寮に帰っても昼飯はないし、お昼を食べてからと思っていたのが結局午後4時頃になって、主任が定時巡回?でベンチに来て「笠君はまだいたのか」。それから帰ることにしました。疲れた一日でした。

取りあえず、未加工のニードルジェットを代替え仕様で加工してもらい出荷してもらうことにしたが、次のテストにとニードルジェット周辺寸法を20倍に拡大した図面を書き、いつもそれを見ては『どこに空けようか?』を検討する毎日が過ぎていきます。

さて、JBL4343WXを購入した後、聴く音楽は随分変わったと思う。何でも聴いてみることに変わりないが、都はるみのレコードはアルバムが出るたびに全部買っていたし、ジャズはJBLから流れる音の水々しい音と、今まで聞こえてこなかった”新しい音”の発見に『こんな音も入っているんだ』と、思うとその楽器を主体にした演奏のレコードやバンドのレコードを買った物です。

レコードは月に4枚買っていた。ヤマハの従業員は社員割引で購入できるために、浜松駅前にある日本楽器(現在はヤマハ)浜松店のレコードショップへ月に2回出かけ、一回目にジャズを2枚、2回目にクラッシックと歌謡曲を各1枚のペースで購入。
でも、どこか音が違うんだなー。低音が”モワ〜〜〜”とした感じはビクターのSX−7で聴いているときから引っかかっている事で、どうやらプリアンプのC−2に問題ありと睨みはじめるきっかけになった。
と言うのも、アンプを変え、プレーヤーを変え、スピーカーも変え、オーディオショップで聴いた中で、変わっていないのはプリアンプのC−2だけなのですから。

そんな折り、オーディオマルキンの社長が、好意で納品前のマークレビンソンのプリアンプ(120万円!)を「納品までの2時間貸したげる」と言うので、ダッシュでアンプを持ち帰り、配線し直して『何のレコード聴こうか?』。渡辺貞夫や都はるみにクラシックも聴いたかなー。そうするとビックリー! それまで聴いていたオーディオシステムが小劇場での演奏だとすれば、大劇場で70mmのシネマスコープにしたように、ガバッと左右に押し広げたかのような音の広がりです。
それでいて音場の定位と分解能は圧倒的で、音の出し方の次元が違うといった感じ。しかし、反面ではシステム全体の音と言うよりか、”マークレビンソンの音”になってしまうきらいを感じました。

そうした中、アメリカではNASAの人員削減で放出された技術者が、オーディオの分野でもガレージメーカーを作りアンプ作りを手がける人たちがいました。雑誌記事や店頭での試聴で目に留まったのは、そうしたガレージメーカーの一つ、AGI(エージーアイ)の511というプリアンプ。信号の立ち上がりを示すスルーレートが非常に高い割に素直な音の出方で、癖や色つけを感じないが、さすが価格がマークレビンソンの1/5なので、そこまでは行かない物の、左右のセパレート感はC−2より高く、例の低域での”モワ〜〜〜〜”も無い。ちょっとマランツ7に似たデザインだが気に入って購入したのは言うまでもない。面白いのは左右に分かれたセレクトスイッチで、オフの時は黒いのだが、オンにするとグリーンに変わる。あたかもランプが点いているように見えるが、そうではなくて、スイッチを押して行く課程で緑のプレートが表示されるようになっている。無駄な電力を使わない、ノイズの元を作らない、配線をシンプルにするため・・・と理由はいろいろアル。
その箱の中はシンプルで、配線はバラではなくフラットケーブルを使い最短距離で配線し、個体差をなくす努力が見られるのは、さすがNASA出身?