はじめに 地球温暖化を防ぐには二酸化炭素の排出量を抑制しなければならない、その為に一部の車は電気モーターとガソリンエンジンを組み合わせたハイブリッドを採用したり、ガソリンエンジン自体のの燃費を向上させ「3リッターカー」なる車もぼちぼち出てきた。3リッターカーとは、3リットルのガソリンで100キロを走ると言う物である。 つまり、燃費は33km/gというのだ。並のバイクよりも燃費が良い!? 軽自動車は1gで15キロ走る、小型車なら8〜10キロ位であろうか。それに比べスクーターは50ccでありながら25キロ前後しか走らない、250のシングルエンジンなら30キロ走るというのに・・・。車をお持ちの方からそのあたりの質問を受けることがある、今回はそんな「なぜ?」にお答えします。 慣性力とはどんなもの? 時速60キロ出すのに必要な馬力は? 排気量と余裕馬力 燃費を決定付けるもの 燃費を良くするには 慣性力とはどんなもの? 慣性力とは物体が「その位置にとどまろうとする力」。止まっている物を動かそうとすると大きな力を必要とするがいざ動き出すと軽くなる。また、動いている物を止めようとすると「車は急に止まれない」と言う事になる。 最近何かと話題の新幹線、最高速度は250km/hを越えているが、この速度から電源を切り慣性力だけでどこまで走るか・・・?これがなんと30キロも走って止まるそうである。標準16両編成というのも空気抵抗と乗客数の効率から決めたらしいが、慣性力と言う勢いは凄い物である。 両者共に引退したが、相撲で話題を振りまいた小錦と舞の海。小錦が前に出れば舞の海が素早い動きで小錦の横に付き押し出す。そんな滑稽な対戦に相撲ファンは大いに沸いたのである。つまり、重量に比例して慣性力も大きくなるので軽い方が慣性力は小さく、重いと慣性力は大きくなるのである。舞の海はその慣性力の違いを最大の武器にし大型力士と相撲を取っていたのである。スピードスケートの清水選手は「ロケットスタート」でスタートダッシュすると500mを一気に駆け抜けていく。体重が重い外国選手は短距離のスタートダッシュには向いていない事もあるようだ。 しかし、その清水選手は1000mでもメダルを取った、これは凄い。なぜかというと体重が軽い(慣性力が小さい)と風の抵抗でスピードの維持が困難で距離が長くなると筋力を消耗するので世界と戦うのは容易なことではないからだ。彼の場合、筋力の凄さは勿論、姿勢を低く保ち空気抵抗を極力少なくし慣性力の弱さをカバーしたのである。 確かにバイクは軽く車は重い。これが信号待ちからのスタートになるとバイクの方がダッシュしやすくなるのは当然で、加速力の目安は1馬力あたりの重量で表され、数字が小さい方が加速力に優れる。ところが一定のスピードで走るとその状態を維持する力は「走行抵抗の差」でしかなく、重量差ほどには開かない。重量が1トンある車も100キロしかないバイクも時速60キロで走っているとき必要な馬力の差は「走行抵抗の差」分しかないということだ。 例えば2000ccの車を押して移動しようとすると一人ではかなりの力を必要とするが、助っ人が増えると楽になる、そして一旦スピードが出ると一人でも駆け足程度に押せる。(長続きはしないけどね)これが慣性力という物。 時速60キロ出すのに必要な馬力は? 陸上競技で100m走の世界記録になると瞬間的に42キロ位出るそうです。自転車になると人間の力でも約72キロのスピードを出せる。人間の馬力というのは0.5〜1.5馬力、1.5馬力出せる人は世界トップクラスのアスリート、一般人は0.7〜0.8馬力程度らしい。ただ、人の馬力は時間と共に減少するのでこの値を上限に下降する。 意外に少ない馬力で結構なスピードが出る物だと思われた方がほとんどでしょう。50ccはカタログ上7馬力、7馬力あればおよそ100キロちょっと出ます。それを自主規制で60キロに制限しているのが原付です。(リミッターという)バイクが60キロを出すのに必要な馬力はおよそ1.7馬力、確かな数字ではありませんが車の場合小型車なら60キロで走るのに必要な馬力は約10馬力前後かと思われます。因みに、自転車での1時間走行記録=アワーレコードなる物があり、現在の世界記録は約55キロであるから人間とは恐ろしい。 ここで理解しやすいように馬力と最高速度の関係を少し説明しましょう。 数十キロの助走距離があり、無風状態であればバイクなら30馬力で200キロ出ると言われています、車でも80〜90馬力あれば可能な計算です。しかしこれだと少しの風が吹いても、緩やかな坂道を走るだけでも極端にスピードが下がり、再び元の速度に復帰するのに大変な時間と距離が必要になりとても現実的ではありません、そこで65%程度に最高速度を抑え確実に出やすくするようになっている。また、走行抵抗の内60キロ以下では転がり抵抗が大きなウエイトを占めるが、60キロを超えると速度の二乗で増えていく空気抵抗が走行抵抗の大部分を占めることになる。 カウリングなしのバイクで立ち姿勢から伏せると最高速度が5〜10キロアップする。125ccクラスのレースでしきりにカウリングの中に体を収めコーナーを立ち上がっていくのは空気抵抗を下げトップスピードを稼ぐためである。 排気量と余裕馬力 上記でふれたように最高速度と空気抵抗は密接な関係にある。また、ある速度で走っていてそこから加速しようとすると、すっと加速する速度もあれば、なかなか加速できない速度もある。坂を登っていてトップギヤでは加速はおろかアクセルを開いても速度を維持することすら出来なくなる。そこでギヤを変えると加速出来るようになるのは「余裕馬力」が増えたからだ。下のギヤに変速すると回転が上がりトルクや馬力が増すので加速できるというわけだ。 同じ回転数、例えば3000回転でも250と400を比較すると400の方がトルクが大きい=馬力がある。両者の走行抵抗に大きな違いはないので60キロで走る馬力はほぼ同じではあるが、そこから加速すると当然ながら余裕馬力が大きい400の方がよりスムースな加速が得られる。同じ回転数でも排気量が大きいほど僅かなアクセルの開きで加速するのに充分な馬力=余裕馬力が得られスピードの変化に対応しやすい。 同様に、軽自動車で高速道路に入るとかなりアクセルを踏み込み加速時間も長くなるが、大型の3gや5gもある車になるとそれは短時間の事に過ぎない。リッターバイクなどは200キロを超えても欲しいだけのスピードを出してくれる。 次に排気量と馬力の関係を考えてみよう。排気量が大きくなるほどアイドリング程度の回転でも相当大きな回転力(トルク)で回っている。それはクラッチをゆっくり離せばスタート出来るほどだ。また、排気量が大きくなるほどに一旦スタートさえすれば、低速で走る場合に必要な馬力はそれ程大きな負担とはならない。 燃費を決定付けるもの 排気量で燃費が決まるというのではなく、1キロ走る間にどれだけの混合ガス(ガソリンと空気の混合気)&馬力を必要としたか・・・と言うことで、ある意味排気量は直接関係なく、車両の重量が重くなるに従いスムーズな加速を維持する為それに見合った余裕馬力が必要になるので、その馬力を出せる排気量が設定される・・・と言うことである。だから、スタート時にはそれなりに開いたスロットルも一定速度になるとぐっと少ないアクセルの開きに変わる。 つまり、燃費は排気量ではなく、ある速度で走るのに要する出力を得るのにどれだけの混合ガスを吸入したか、と言う事である。 もう少し状況を交えて説明すると、自動車は重いのでスタート時にはかなりの馬力を必要としそれに連れ混合ガスも多く吸い込む、発進停止が多くなる都市部では結果として燃費は悪くなるが、市街地走行の60キロ以下の速度で必要とされる馬力は最高出力からすればごく僅かであり、排気量が大きくなるほどその影響が大きくなるので、現実の所5km/gを切ることはあまりない。郊外でのドライブになると発進停止が少なくなる事と、一定のスロットルで走るから、市街地との燃費を比較すると2倍近く良くなるケースもある。 50ccバイクは余裕馬力が少なく発進時はフルスロットル、加速に必要な馬力を出すためにエンジンの最大能力を使って走ることが多く、自ずと燃費は悪くなる。しかも40〜50km/hと言う50としては普通に走っている速度(速度違反ではある)で走るのに必要な馬力と最高出力の差は4倍前後で余裕馬力が少なく、速度を変化させる度にエンジンの最大能力を使うことが多くなる。結果として発進停止を繰り返す市街地も、一定速度で走る郊外も燃費差は1.5倍程度と、車に比べるとやや変化が少ない。
因みに 250cc以上のバイクが最高速度で走ったときの燃費というのは11km/g前後で一定である。 「おやっ?」と思った人が多いのではないでしょうか。 まず、排気量が上がると馬力は稼げますが、その分最高速度も上がります。つまり一定の距離を走るのに掛かる時間は速度が速いほうが短くて済むから馬力が上がってガソリンの消費量が増えても、その分速度が上がればイコールになるわけで、数字の組み合わせによるトリックの様な物。レーシングマシンは若干別として一般市販車はリッター当たりの馬力は排気量が増えると下がるのでこのようなことが起こるわけである。 おもしろい話がある。あるスクーターで燃費を計測すると50キロ時の燃費より最高速の燃費の方が良かったのである。 当然の如く上司から「測り間違いじゃないか?」と言われたが、答えはこうである、 回転が上がるほど馬力低下とともに燃料消費量は減少する。 速度が上がると測定区間を通過する時間が短くなる。 つまり全開最高速で走った方が燃費効率が良かったのだ。燃費って言うのはやっぱり不思議だ。 2000年1月作成 Copyright (C) 1998-2000 カサブランカ、All rights reserved. |