金属で出来ているエンジンにオイルは欠かせない。しかし、オイルの使い方を間違うとクラッチの動きやギヤの動きに影響を与え、それらの操作性を落とすと共に、人が感じる以上にエンジンは影響を受けている。今回の特集では日頃何気なく使っているオイルにスポットを当て、どのようにオイルを使うのがよいか再検討してみよう。

オイルに於ける6つの役割
@潤滑作用・・摩擦を軽減する機能。油膜を作ることで摩耗を抑え焼き付きを防止。
A密封作用・・ピストンリングとシリンダ間で油膜を作り燃焼ガスの漏れを防ぐ。
B冷却作用・・燃焼により発生した熱を外部へ逃がす役割。
C緩衝作用・・燃焼や回転中に受ける応力を分散する役目。
D清浄作用・・摩耗で発生した粒子を洗い流す役割。
E防錆作用・・金属部品の錆発生を防止。
※Dの清浄作用にはもう一つ「分散作用」があります。エンジンやオイルが高温になるとオイル中のタールが熱分解しカーボンに変化します、それがエンジン内部に付着してしまうのを防ぐために「清浄分散剤」と言う添加剤を加え、固形物として沈殿することを防止します。

粘度と油膜
温度が上がるとオイルは流れやすくなる性質を持つが、それは油膜が切れやすくなることを意味する。では、「油膜が切れないように粘度を上げればよい」と考えてしまうのは早計だ。と言うのも粘度を上げるとオイルの流動性(流れ易さ)が悪くなり、レスポンスの良さを要求されるバイクのエンジンには不向きなのだ。
バイクのエンジンは回転数で車の1.5〜2倍、リッター当たりの出力も高いので、温度以外の要因である回転で油膜が剪断されたり、回転中の衝撃で油膜が切れたりしやすいのだ。つまり、バイク用エンジンのオイルには低粘度で高温でも油膜が切れない高性能が要求されるのだ。
では粘度以外でどのようなオイルを選択したらよいのか?は次の項でお話ししよう。

グレードによるオイルの区分
現在流通しているオイルには粘度表示以外にSD、SE、SF、SG、SH、SJというように記されている、これをグレードと言います。それぞれに推奨する排気量、馬力、回転数がありSDよりもSJの方がより厳しいエンジン環境に耐えるといことです。
購入さ れたバイクの取扱説明書には必ず「指定オイル」の記載があって、そのオイルにはグレード表示がされています。もし、なにがしかの不満や純正オイル以外の商品に興味があって変える場合は指定オイルと同じグレードかそれ以上のグレードに変更した方が良いでしょう。

尚、純正指定オイルでも粘度指数を変えたものがあります、10W−30を使って夏場の渋滞などでギヤが固くなるような時は20W−40に変えることで改善したりするので一度試してみる価値はあります。

車用とバイク用オイルの違い
上記のように純正オイル以外に交換するようなことがあっても安易にエンジンオイルを交換すると期待通りには行かないことがあります。それは、車用のエンジンは動力発生部分のみで、その潤滑を行うのが車用のエンジンオイルであるのに対し、バイクは変速装置まで一体となった構造のため「エンジンオイル」と呼ぶ事では一緒だが、バイク用オイルには車に比べてより高い性能が要求されるのです。

具体的に言うと自動車用エンジンは変速機とは別体のためオイルの中に摩擦軽減の為の減摩剤を入れても構わないがバイクの場合クラッチの冷却と潤滑に使っているためそのようなごまかしは通用しない、オイル自体の潤滑性能が良くなければバイク用としては不向きで、減摩剤入りのオイルを使うと最悪の場合クラッチの滑りを引き起こす事があります。

合成油とは何?
最初に書いたようにオイルには6つの作用があって、高性能オイルは特に潤滑性能と緩衝作用が高いことを要求されるのですが、原油から精製しただけのオイル(鉱物油)には限界があります。
そこで、潤滑性能・緩衝作用に優れた成分を科学的に分離し再び結合させたのが「科学合成油」と言う物です。
ただ、一旦科学的に分離されたオイルは結合しにくい面があり、つなぎとなる「中和剤」を入れたり、幅広い粘度を出すために「粘度指数向上剤」、酸化を抑える「酸化防止剤」等、様々な添加剤が入れられています。
しかし、添加剤を多く使う科学合成油の中には添加剤が入っているが故の不具合が起きることもあります。あまり価格の安い化学合成オイルでは添加剤による不具合からスラッジ(不純物)が発生し潤滑性能が低下する事もあるので注意した方がよいでしょう。
尚、メーカー純正でもSGクラス以上では半合成(鉱物油と合成油を混ぜた物)か100%合成なので純正オイルに交換する場合は、純正オイル価格以上のオイルから選ぶようにすると良いでしょう。

ここでもう少し添加剤について書いておこう。上記に書いた以外では・・・
清浄分散剤 エンジン運転中に発生するスス、ゴミ(摩耗粒子等)、スラッジ、カーボンを油中に分散させ、沈殿するのを防ぐ。
極圧剤 金属間の圧力が高くなると油膜が切れてしまうので、これを防ぐ目的で添加する。
流動点降下剤 オイルは低温に於いては結晶化して流動性が悪くなるので、これを防ぐ目的で添加する。ウインター用の10Wや5Wでは特に必要な添加剤。
防錆剤 エンジンオイルで用いられることは少ないが水分や酸素を科学吸着し保護膜を作る。
油性向上剤 金属表面に付着して摩擦低減を図るもの。ただ、これに効果的な有機モリブデンを使うとバイクの湿式クラッチだと「クラッチ滑り」を引き起こす可能性が高くなる
消泡剤 エンジン内部では激しくオイルは攪拌されている。その為気泡が出来てしまうが、これがオイルライン内に入り込むと油圧低下や油膜の剪断が起きてメタルの焼き付きを引き起こす原因となるため、素早く気泡をなくすために添加する。

尚、ヤマハでは「耳掻き一杯分」のオイルでどのような成分の添加剤が含まれているかを試験する装置があり、純正オイルの開発に利用しています。

オイル交換時期
バイクの「取扱説明書」には純正オイル使用時の交換時期が書いてあるが、殆どの場合そこまで使えることはなく、実質的には3000km前後で交換時期になるのではないだろうか。
多少気を使わないと分かりづらいかも知れないが、オイルを交換して以後、ある時期になるとギヤチェンジが「固い」とか「引っかかる」ように感じると思います、それは寿命を迎えたオイルです。ギヤチェンジを固く感じたり引っかかりを感じる以前の500〜1000キロ前に交換する事をおすすめします。

因みに当店では4000〜5000キロ以内でギヤチェンジに固さを感じたら500キロ早い時期に、これ以上の距離で感じるときは1000キロ手前で交換する事をアドバイスしている。

また、通常のオイル交換では約1/5はオイル交換が出来ずに残っています。ですから銘柄を変えても初めの一回目では性能を発揮できないことがあるので、二度三度続けて使ってみる必要があります。

フラッシングオイル
原則的に、バイクにはフラッシングオイルは使用しないことです。
フラッシングオイルとはエンジン内部の汚れを洗い落とすもので、エンジン内部は長期の使用でオイル中のタール分が高温により分解してできるカーボンやゴミとなるスラッジ等が堆積します。それらがオイル通路に入ったり、金属部品間にある大切な「クリアランス」に入り込むと潤滑不良を起こす事もあるので、車では「フラッシングオイル」を使って堆積物を洗い落とす作業を行うことがあります。
しかし、このフラッシングオイルの成分は灯油に近いもので、ガソリン同様多くのバイクが用いている湿式クラッチのプレートを膨潤(膨らむこと)させ、耐久性や操作性を落とす危険性があるので使わないことだ。

ヤマハ純正オイルは
ヤマハには現在4種類の純正オイルがあります。
オイル名 グレード   ポイント
エフェロFX
10W−40
SJ
半合成油
こちらは中排気量車向けで減摩剤が少量入っています。ですから下記対象車以外には絶対に使用しないで下さい。対象車はXJR400/R/S、FZR400
/R/RR、FZR250/R/ジール、FZ250、
エフェロSJ
10W−40
SJ
半合成油
上記以外のスポーツ車全般、及び4サイクルスクーター全車。
エフェロSG
10W−40
SG
半合成油
エフェロSJより1ランク下の規格オイル。400cc以下或いはスクーターで高速走行をあまりしない方はこちらでもOK。
エフェロSF
10W−30
20W−40
SF
鉱物油
ビジネス車向けオイル。このオイルのみ鉱物油(原油から精製したオイル)です。
1900円(標準小売価格) 1900円(標準小売価格)
1500円(標準小売価格) 1000円(標準小売価格)

おすすめオイル

当店では「ケンドル」と言うメーカーのオイルを使用しています。このオイルを使用して20年近くなりますが、当時純正オイルとしてはSEグレードまでしかなく、SR400/500やXV750などのビッグシングルや空冷エンジンではオイルの潤滑力不足からエンジンのスムースさを欠いていた。

そこでヤマハが取扱をしている「ケンドル」と言うメーカーのオイルに交換すると夏場の渋滞路でオイルの冷却不足から粘度が下がってもギヤチェンジに不具合は出なくなった事から、以来使い続けている。

使用当初、純正オイルがSEグレードで1200円位で、SEグレード以上のオイル規格が無かったこともあり「ケンドルGT−1」の2500円は価格的に高価と言う印象があった。しかし、現在は2000円に引き下げられ純正オイルもグレードの向上と共に価格も同等になっているため以前の高価なオイルという印象は無くなった。むしろ、長年使って問題のない信頼性のあるオイルとしておすすめしたい。

「ケンドル」はヤマハが部品コードを設定している「社外用品扱い」の為ヤマハ取扱販売店から注文できる。オイル粘度は10W−30、15W−40、20W−50の3種。ただ殆どの場合10W−30でOK。
20W−50は相当過酷な条件でなければエンジン回転に重さ(レスポンスが落ちる))を感じるだけだ。

※参考ページとしてこちらもお読みください

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