バイクには必要な機能部品です
バイクは(車も)アクセルの開き具合でスピードをコントロールできます。その、アクセルと連動して働いているのがキャブレターです。
キャブレターの役割は3つ、@ 適正な混合ガスの供給 A 出力の調整 B 回転数の制御です。
その役割を果たすためにキャブレター内部は複雑な構造をしています。キャブレターの基本原理は「ベルヌーイの定理」の応用で、狭い通路=ベンチュリーを通り抜ける気体の速度が上がるとそこには「負の圧力」が生じます。

その「負の圧力」を利用して、フロート室内の溜められているガソリンを吸い上げ、ベンチュリー内を流れる気流に撹拌されてエンジンへと流れます。キャブレターは「気化器」と呼ばれる事もありますが、実際には気化はしていません、「霧化器」と、呼んだ方が正しいかもしれません。

これだけなら単純ですが、ガソリンという気化する燃料を使い、気温や気圧の変動、回転数の変化、空気流量の変化などが起こりますから、全ての運転条件に対し、適正な混合ガスコントロールが必要なため複雑になります。因みに、空気とガソリンのの混合気が完全燃焼する理論上の比率は重量の比率で15:1ですが、特にパワーを出す場合の「出力混合比」は、概ね12:1になります。また、最近ではバイクも排気ガス規制の対象になり、たガスを供給するだけにとどまらず、「余分なガソリン供給をしない」事まで要求されています。

ですから、キャブレターには精密な加工が要求されると同時に、その調整も大変微妙な物になるため、キャブレター構造の知識が無いままに分解すると大変なことになります。

 3つの系統
キャブレターは主に3つの系統に分けることが出来ます。エンジン始動時に必要なチョークやスターターと言った始動系、低開度を担当するスロー系、高開度を担当するメイン系です。キャブレターのタイプが変わっても、この基本は変わりません。
この3系統のバランスによってアクセルレスポンスの感触が変わったり、燃費や始動性にまで影響がありますので、商品開発には膨大な時間が掛かると共に、幾多の確認作業も必要です。
始動系についてはチョークとスターターの違いについて書いておきましょう。一般に始動系を操作することを「チョーク」と、言いますが、これはベンチュリーの入り口をバルブで塞いで空気の流入量を規制して負圧を高めることでメインノズルから多くのガソリンを吸い出してエンジンに送り込む方式で、自動車用キャブレターや4サイクルエンジンを用いたバイクの一部で使用しています。バイクで代表的なのはホンダのスーパーカブがこの方式を使っています。チョーク方式のメリットとしては、始動直後のエンジンが冷えている状態でもスタートが容易であることです。反面、ベンチュリー内部にバルブが残るので、高出力エンジンには向かないし、メイン系セッティングの影響を受けます。

スターター方式は、通常走行時に空気が流れるメインベンチューリーとは別に、始動専用の通路を設けた「スターター専用キャブレター」が、別に一個ついていると思って下さい。その通路にはバルブがあって、それを開くとスターター通路に空気が流れ、そのときの負圧でスターターチャンバーからガソリンが吸い出され、閉じれば流れなくなります。このスターター方式は、始動専用に設計できるためメインベンチュリーのセッティングに左右されないメリットがあります。

 キャブレターのタイプ
二輪車では一般に「アマル型」、「SU型」、アマル型を改良した「スライドバルブ型」が用いられます。
それぞれに利点があり、バイクの使用用途に応じて採用するキャブレターのタイプを決めています。

「アマル型」は、バイク用キャブレターの基本で、レスポンスがよく構造も比較的簡単なので多く採用されていますが、欠点としてはスロットルピストンの上下する際の摺動抵抗が大きくなること。特に、吸入負圧が高い4サイクルでも排気量が大きくなるとスロットル操作が非常に重くなる事からアマル型を改良した「SU型」を採用する事が多いです。初期型のCB750のスロットル操作が重いのは有名な話です。

「SU型」は、形としてはアマル型にそっくりですが、スロットルがピストンではなくバタフライバルブになり、4サイクルの大排気量エンジンでもスロットル操作が軽くなります。エンジンの吹き上がり具合に応じてダイヤフラムが動いてピストンを上下させるので、スロットルの開きすぎによる「息付き※」の発生を抑えることと、イージーなスロットル操作でも滑らかな加速が得られます。

※「息付き」〜空気は軽いためにスロットルに反応して流れやすいが、ガソリンは比重が有るため急激なスロットル操作では追いつかず、一時的に混合比が燃焼しないほどに希薄になることで出力低下が起きた時の現象。排気量が大きくなるほど息付きは起こりやすくなるので、それを補う為に加速時にガソリンを強制的に送り込む「加速ポンプ」がつけられたり、燃料噴射では「加速増量」がプログラミングされます。
カワサキのZ400は加速ポンプが付いていませんでしたから空ふかしででエンストしました

「スライドバルブ」は、アマル型の丸いピストンを板状のバルブに形状を変えた物で、エアクリーナー側とエンジン側の圧力差が大きくとれることから、高性能エンジンのレスポンスを向上させる事ができますが、それだけに調整もシビアになります。

 スターター方式とエンジン始動
バイクで多く用いられるスターター方式について書いていきましょう。
ガソリンというのは気化(ガス化)するときに周囲から熱を奪って蒸発します。と言うことは、奪う熱が少ない低温になるほど気化しにくくなるため、外気温が低い状態でのエンジン始動時には沢山のガソリンを供給し、その中から蒸発したガスに点火して燃焼させる必要が生じます。その為、2〜5:1と言う濃い混合ガスを作る必要があります。

キャブレターのフロート室を取り外すと一本細いパイプが見えます。これがスターターパイプでフロート室の壁に作られた穴(スターターチャンバー)の中に収まり、フロート室とこの穴はごく細い穴(スタータージェット)で繋がっています。パイプと穴の隙間は狭いために表面張力で通常の油面より高くなっていて、始動時の僅かな負圧でもガソリンが勢いよく吸い出されます。しかし、一旦吸い出された後は、フロート室と繋がっているスタータージェットの穴は小さいために、少しずつしか供給されません。

つまり、最初のエンジン始動時は沢山のガソリンを供給する必要があるため、その必要分を即座に供給できる容量をスターターチャンバーは持って作られています。それで2〜5:1の混合比を作り出すわけです。
が、エンジンが掛かってしまえばそれほどのガソリンは必要無くて5〜10:1程度の混合比を作ればいいのです。そこで、フロート室から供給を受けるスタータージェットを小さくして、ガソリンの流入を規制しているのです。

エンジンが掛かった後はこのスターター系とスロー系を合計したガソリン量が供給されますが、暖機が進むにつれ、ガソリンが気化するために必要な熱はエンジンが発生するので、スターターからの燃料供給は必要なくなります。
基本的な仕組みは以上に書いたとおりです。しかし、うまくいかないのが設計と実験の面白いところで、条件によっては掛かりにくい事もあります。

冷機時(エンジンが冷えている状態)の始動で、最初のキックまたはセルで始動できなかったとき、続けて始動操作を行っても掛かりにくいことに変わり有りません。というのは、先にも書いたようにフロート室からスターターチャンバーへ通じるスタータージェットは小さいために、セルやキックで続けて始動操作を行うと、消費される量に供給が追いつかず、混合比が希薄になるからです。
スターターチャンバーから無くなったガソリンが、再び満杯になるまでの時間は2秒ほどかかります。「掛かりが悪いから」と、続けてセルやキックをするよりも、少し時間をおいてから始動操作を行えば、多くのガソリンが供給されるので、エンジンの掛かりは良くなります。もちろん、続けてセルを回すとバッテリーの供給電力も低下し、エンジンを高回転で回すことができなくなると、エンジンの掛かりも悪くなります。セルを回す力の低下を防ぐ意味でも、休み休みセルを回す方が良いようです。

また更に、何日か駐車した後はスターターチャンバー内のガソリンが蒸発し油面が下がっている為、エンジンが必要とするガソリン量を供給できない事があります。この様なときも時間を開けながら始動操作を行うと掛かりやすくなります。

2002年1月作成
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