先回に引き続きキャブレターの2回目です。
今回はセッティングについてのお勉強ですが、ちょっと内容が難しいとは思いますが、「こんなにしてセッティングして居るんだ」と、思ってくださるだけでも良いのではないでしょうか。

 セッティングの順序

キャブレターのセッティングには順序があります。エンジンが必要としているガソリン流量をスロー系とメイン系で合わせなくてはならないし、そのつながりも重要です。
キャブレターの大きさ(メインボア口径)は馬力とエンジン回転数の関係で決まります。むやみに大きな物にすると、スロー系とメイン系のつながりが悪くなったり、空気ばかり吸い込んで空燃費が悪化しやすく出力低下を招きます。逆だとせっかくの高性能を生かし切れません。ですから、安易に大きくすることは意味がありません。

試作のキャブレターが出来上がると簡単にスロー系とメイン系それぞれを簡単に「使えるか使えない」か判断します。悪いところは改善できるか、改善するためにはどんな改良が必要か見極めます。

 スロー系
スロー系はスロージェットの変更、スローポートの大きや位置の変更などを行い、アイドリング回転数を変えながら”特性”を調査・改善します。
アイドリング(以下アイドル)を安定して回すにはキャブレターの特性も良くないと行けません。
アイドル回転数が下がった時に燃料も急に下がるようではアイドルは安定しません。回転が持ち直すに十分なガソリン量を確保できることが重要です。スロットルを開いたときも、その空気量の増加に対応してガソリン量も増えなくてはなりません。
つまり、規定のアイドル回転数前後で空燃費(空気とガソリンの混合比)が安定していることが重要です。


【左の図をクリックすると大きくしてみることが出来ます】
スロットルバルブの縁に掛かるようにスローポートが見えますが、この位置と大きさがとても重要で、0.1mmの違いでも特性がガラッと変わるほどです。その場所を探し出すのはトライ&エラーの連続です。
もちろん、精密な加工部分ですからオーバーホール時の整備では慎重に掃除する必要があります。



図のようにスロー系は一定流量以上は流れません。その少し前からメイン系の流量が増えていきます。スロー系からメイン系へのバトンタッチが悪いと段付き加速が起こり、スムースな走行が出来なく乗りにくい物になります。
スムースに走らないバイクはセッティング不足なのです。

 メイン系
メイン系のテストは主としてベンチで行います。はじめにスロットル全開時におけるエンジンの要求流量の計測から始めます。

要求流量を測定する方法は二つあり、メインジェットを交換しながら行うものと、加圧レギュレーターでフロート室を加圧し強制的にガソリンを多く送り出す方法です。
加圧式で測定するのは多気筒エンジンやジェット交換が手間だったり、連続的に流量を測定する必要がある時などに用います。
メインジェットを交換することで出力は変化しますが、そのカーブは山形になります。そうして測定した最高出力点から2%〜3%(機種により異なる)低下したところまでを許容の範囲として、流量をエンジンの「要求流量」としてグラフ化します。

※加圧レギュレータを使ったテストでは、測定終了後に加圧を止めていないとオーバーフローさせてしまうことになり、後が大変でした。・・・そう、経験ありなんです。
           

上の図からスロットル全開時の要求流量をグラフ化した物が左の図です。
スムーズに範囲の中に入ればいいのですが、低回転では大きいメインジェット高回転では小さいメインジェットと言うようにクロスした場合などは、この要求流量の枠内に入れるのは容易いことではありません。

では、この流量カーブに入れるにはどうするのでしょうか?それは、メインエアジェット径の変更と、ニードルジェットに開ける穴の位置と大きさ、そして数の変更です。
方法いろいろありますが、低回転時の流量を確保し、高回転になって流量が多すぎる場合にはニードルジェットに開ける穴を大きくしたり、数を増やしたりして空気の導入を増やすとガソリン量を制限できますが、その効果は万能ではないため上手くいくとは限りません。
その理由として、全開時はもちろん1/2や3/4開度などでも同様の流量測定から流量の確認を行わなければなりませんが、当初全開時でのテストで上手くいっても、1/2、3/4開度で要求流量内に収まらないので有れば、その開度で要求流量内に収まるように修正した後、再度全開で測定する、その繰り返しを行いながら全開度でベストな流量を確保しますから、その時間たるや相当な物になります。

 メイン系の空気通路とニードルジェット
キャブレターのエアクリーナー側には通常2個の穴があいています、一つはスロー系の通路、もう一方がメインエア通路で、ここからニードルジェットが取り付けられた部分へ空気が流れ、ガソリンと混合させることで霧化を促進したり、流量の安定、流量傾向の変化などの役目を持っています。

それを均一に精度を高くするためにニードルジェットには位置合わせの凸凹が付いていて、これに合わせて組み立てるようになっています。
その穴の向きが流量傾向にも影響があるため、どこでも良いというのではありません。そこで、穴の位置を正確に合わせるために位置決めの凸凹がある・・そういう理由です。

この、ニードルジェットにあいた穴が詰まるとどうなるでしょうか?
長期間エンジンを掛けないでいるとガソリンが腐敗するとともに、揮発成分が蒸発して粘度が高くなりキャブレター内の通路をふさいでしまうことになります。そうなると、エンジンを掛けることはもちろん、ガソリンさえ流れなくなります。
キャブレターを分解し、専用のクリーナーで固着したゴミの除去を行いますが、場合によっては数回の作業を行わないとならないケースもあるし、ゴミを吹き飛ばさなければならないので、高圧のエアーも要ります。家庭にコンプレッサーを置くわけに行かないので、パソコンショップなどで販売されているエアダスターを利用するのも良いと思います。
注意するのは、キャブレター内にはいくつかのゴム製品を使っていますから、ガソリン以外の揮発油、例えばシンナーなどを使うことは厳禁です。ゴムが伸びて使えなくなります。

キャブレター内部が綺麗になれば元の調子に復活する事が期待できます。

エアクリーナーとキャブレターの関係
エアクリーナーは単にエンジンに吸入される空気を濾過するだけではありません。要求流量に合わせるためにとても大事な役目を担っているし、エアクリーナーの容量、そして空気の取り入れ口の開口面積は騒音防止とスロットルレスポンスにも影響を与えます。
もっと広く言えば、空気を取り入れるエアクリーナーからマフラーの出口までのセットでキャブレターのセッティングを行いますから、どれか一つ変えてもセッティングを変える必要が出てきます。裏を返せば、どれか一つ変えれば調子=バランスが壊れると言うことです。

安易にエアクリーナーを取っ払ってみたり、小さな物に変える。マフラーさえ変えてしまうとエンジンの要求流量傾向が変わるのですから、キャブレターのセッティングも見直す必要が出てくるのです。
特に、エアクリーナーを取っ払うと発進時など、回転が低い割にスロットルが大きく開く状況ではガソリンの供給が薄くなりやすくレスポンスが悪くなります。

例えば全開時の流量測定を行うと左のグラフのように変化するわけです。
最高出力を合わせるようにメインジェットを交換しても、低回転では吸入負圧が上がらないことからガソリンが希薄になり出力が低下します。

同様に、マフラーを市販用品の高出力タイプと交換すると、排気の抵抗=排圧が低くなり排気の抜けは良くなりますが、それは高回転でメリットが出ることで、低回転時は排圧を利用した排気ガスの戻り効果が無くなり、この場合も出力が低下します。

※排圧の戻りとは〜4サイクルではバルブ開閉で吸入・排気をコントロールしているだけではありません。排気圧力の戻りを利用して燃え残りのガスを燃焼室へ戻し、排気ガスの熱を利用して次の燃焼を促進する為に使います。これをリサキュレーションガスと言います。
ヤマハが開発したEXUPはマフラーにバルブを取り付け、低回転ではバルブを閉じて排圧を高くしてリサキュレーションガスを多くし低回転トルクを増し、高回転ではバブルを開いて排圧を低くし、排気の流れをスムースにする仕組みです。

この様に、生産車(標準車)は全体のバランスの上に成り立っている物で、一つでも変えるとそのバランスは崩れます。改造後に調子を崩すなどはその現れと言うことです。

今回は、キャブレターの実写画像を載せていませんが、機会がありましたら追って掲載し分かりやすい物にしたいと思います。

2002年2月作成
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