エンジンが掛からない理由や状況はいくつか有ります。
操作ミスによる不始動 1,始動時にスロットルを開いた、開いている エンジン始動時に沢山のガソリンを必要とすることは以前の特集で説明しました。この時のガソリンが薄くて(混合比が薄い)エンジンが始動しないときは、手の施しようがありません。ですから、キャブレターのセッティングは丁度良いか、若干濃いめにしています。ガソリン濃度が高くてエンジンが掛からないときはスロットルを開き、空気を沢山取り込むことで掛かるようになりますから。 でも、エンジンが冷えているのに最初からアクセルを開いてしまうと、スターター系統が正常に働いても、肝心のガソリンをエンジンに送り込むことが出来なくなり、結果的に混合比が薄くなってエンジンが掛からない状況を作りだしているのです。 エンジンを掛けるときは、『掛かれ〜』と、スロットルを戻すような気持ちでセルやキックを操作した方がいいでしょう。アクセルを開いて良いのは、この操作を行ってもエンジンが掛からない時の操作です。 2.キルスイッチがOFF(STOP)である 点火回路を絶つ物としてメインスイッチとキルスイッチがあります。どちらも点火回路の一部になっていて、メインスイッチやキルスイッチをOFFにすると言うことは、点火回路を車体にアースさせ、火花を飛ばなくしています。ですから、メインスイッチを入れていてもキルスイッチがOFFで有ればエンジンは掛かりません。 また、メインスイッチ内の接触不良などで回路が切れて点火しないこともあります。 3.サイドスタンドの安全装置が働いている サイドスタンドを出したまま走行すると転倒する危険性があります。そうした事故を未然に防ぐ目的で、サイドスタンドを出し、なおかつギヤを入れた場合はキルスイッチ同様にエンジンを掛けることが出来ない、あるいは掛かっているエンジンを止めてしまします。 転倒した際、気持ちの動転から『掛からない』と、焦る人もおられますが、気持ちを落ち着けてギヤが入り、サイドスタンドが出されていないか確認して下さい。 4.キックする力が弱い、セルの回りが弱い キックで始動する場合は、ストッパーの位置までしっかり踏み切ることが大切です。だらだらと、あるいは最後まで踏み切っていないとクランクの速度(エンジン回転数)が十分に上がらずに始動しにくくなります。これはセル始動でも同じ事が言え、バッテリー電力が落ちているにも関わらず、セルを回すとクランク速度が上がらずにエンジンを掛けることは難しくなります。 バッテリーを点火の電力にするトランジスタ点火方式と、点火回路専用コイルを持つCDI点火方式とでは若干違いはありますが、始動時の瞬間的エンジン回転数=クランク速度が高ければ高いほどエンジンの始動性は良くなります。特にCDI方式ではこのことは大変重要です。 CDI方式はキック又はセルを回す(クランキング)事で発電した電力を点火に使う訳ですが、クランキングの速度が低いと発電しません。おおむね600rpm以下では火花が飛びません、900rpmと1200rpmでは始動性が2倍違うこともあります。キック始動での上手・下手の分かれ目はこんな所にあります。 セルを長く使い、回り方(回転)が落ちたと思ったら即座に一時休止するか、充電を行った後に始動操作を行うことが大切です。 2サイクルエンジンの多くが点火方式にCDIを採用しています。 点火回路線用コイルを持ち、エンジンが回ることで発電した電気をコンデンサに蓄え、点火時期に達すると火花を出す構造です。よって、CDI方式ではバッテリーが無くともエンジンが掛かりますので、エンジンが掛からないときによく言われる「バッテリーが悪いとかいな」は、当てはまりません。 整備・部品上の問題 1.プラグ汚損がひどい プラグは+電極の中心電極と、−電極の側方電極、その間に絶縁ガイシがあります。長期間使うことで燃え残りのカーボンが堆積すると、電気を通すカーボンによって中心電極と側方電極がショートして電極での火花が飛ばなくなります。 また、2サイクルエンジンでは粗悪なエンジンオイルを使うと、カーボンの発生や不純物が多くなるためにプラグブリッジと言う現象を起こし、新しいプラグであっても火花が飛ばなくなる事もあります。更に、純正オイルであっても、電極が摩耗してしまうほどに長距離使うと火花が飛びにくくなり、エンジンが掛からなくなります。 プラグによるトラブルを防ぐには2サイクルでは5000km、4サイクルでも8000kmを目安に交換しておくと始動不良のトラブルを未然に防ぐことが出来るでしょう。修理代全般の費用から見れば、プラグ交換代は安い物です。 2.電装機器の故障 新しいプラグを使っても火花が飛ばない場合は電装系統のどこかに原因があることになります。イグニションコイルやコードの不良はあまり見かけることはないですが、プラグキャップは振動によってプラグへの固定が緩くなって外れたり、割れた部分から高圧の電気がリークして火花が飛ばなくなることも有ります。 3.マフラーの詰まり エンジンが回る三つの基本 ・圧縮 ・適正な混合比 ・火花が揃っていてもエンジンが掛からない事は起きます。その原因の一つがマフラーの詰まり。2サイクルではオイルの燃え残りがマフラー内に堆積すると、排気通路を塞いでしまう事で排気の出口が無くなり、エンジンは掛からなくなります。〜その前に相当加速性能が鈍っては来ますが。 2サイクルでのカーボンによるマフラー詰まりは避けられない物ですし、出力低下からいずれはマフラー交換を余儀なくされるわけですから、加速性が落ちたり、50km以上出ない時には交換されることをお奨めします。 カーボンによるマフラーの詰まり以外にも、虫によるマフラー詰まりも有ります。土蜂等の虫は小さな穴に巣を作る習性があり、それがたまたまマフラーであるとエンジンが掛からなくなります。他に原因が見つからない場合はセルを回しながらマフラーの出口に手を当てて見て下さい。何も排気される感触が無ければおそらく、虫がマフラー内部に巣を作っているでしょう。 こんな事を読むと不思議に思われる方もいるでしょうが、現実には年間で数件の発生が有ります。 そのときは針金ハンガーを伸ばした物をマフラーに突っ込めば巣が壊れエンジンが掛かるようになります。但し、エンジンが掛かった瞬間、中から虫が沢山でてきますので注意して下さい。 4.ブレーキ安全装置が働いていない これはスクーターの場合です。スクーターはオートマチックなのでエンジンが掛かり回転が上がれば走り出します。そんなとき、不用意に発進しないようブレーキを掛けなければエンジンが掛からない工夫がしてあります。 これは、ブレーキの電気回路を利用しているので、ブレーキスイッチが正常に働いていない場合キルスイッチ同様の動作になります。つまり、セルでのエンジン始動時にブレーキを握りブレーキランプが点かない状況ではエンジンは掛かりません。 5.焼き付いている 2サイクルでオイル切れを起こして焼き付いた場合も、エンジンが回る三つの基本を満足しているにも関わらずエンジンを掛けることが出来ません。普段通りにセルも回り、圧縮感もあり、もちろん火花も飛んでいる・・でも掛からないときに疑ってみる所です。 オイルが入っていない、プラグを外した際、電極周りが灰色がかっているように見える場合はその可能性大です。もちろん、走行中に”ギュ〜〜〜”と、音がでて止まった場合は明らかです。 乗車頻度の問題 1.週末は乗っていない 左の図はキャブレターのフロート室を断面にした物で、ピンクで着色したところが通常のガソリンレベル=油面と言います。 緑に着色した部分がスターターを操作したときにガソリンが流れる通路ですが、ここまで十分にガソリンが満たされ、なおかつフロート室からのガソリン供給も十分行われる状況に有ります。よって、エンジンの始動とその後の持続も十分に行われます。ところが・・・、 左の図では油面が下がり、少しはスターター通路にガソリンが残っていますが、十分では有りません。 一回目の始動操作では一瞬掛かったようですぐにエンジンが止まるでしょう。その後、掛からないからと、続けてセルを回したり、キックをしたりするとフロート室とスターターへの通路は小さな穴ですから、ガソリン供給が間に合わずエンジンは掛かりません。 こんな時は、始動操作に少し間隔を空けましょう。そうすることで、ガソリンの供給が十分に行われ、エンジンの掛かりが良くなります。なお、スターター通路のガソリンが元の油面に戻るには1〜2秒掛かりますので、キックやセルを操作する間隔はそれ以上開ける必要があるし、週末乗っていないことで油面が下がっている場合はフロート室そのものへのガソリン供給に時間が必要ですから、始めの間隔は5秒以上開けた方がより確実でしょう。 以上の理由から、ヤマハの50ccスクーターでは1〜2回、ホンダ車では3〜5回の始動操作の時間間隔をあけてください、そうすれば掛かりやすくなるはずで、この始動回数範囲で有れば正常と思われます。 何故このような状況が起こるのでしょうか? 週末乗らないでいると、フロート室からガソリンが蒸散する”エバポレーション”が起きて、油面レベルが下がる為です。 それならフロート室とスターター室を結んでいる通路の位置を下に下げれば良いじゃないか?、図を見た方はそう思われるでしょう。しかし、そうしない理由、出来ない理由があります。 1.一日置いたガソリンは、比重が軽く揮発性の高いガソリンが上に来る〜始動性への影響 2.フロート室内の小さな浮遊ゴミがスターター通路を塞いでしまう〜故障発生の原因 等のトラブルを回避する考えからです。 また、エバポで蒸散するガソリンは環境問題もあり少なくしたいところですが、フロート室と外部の大気とはエアベントパイプで繋がっています。キャブレターが圧力差を利用する霧吹きと同じ原理を採用している以上、このエアベントパイプは必要な物で、ここからの蒸散を抑えることは、難しい物があります。 ※常にガソリン流量を正確にコントロールするために、エアベントパイプでフロート室と外気とを結び、フロート室と大気圧を同じ圧力(同圧)にするのが一般的ですが、一部のバイクでは流量傾向や加速性能など、キャブレターの総合的性能から、フロート室とエアクリーナーケースとを結ぶ手法を取ることもあります。 2.数カ月以上乗っていない 上の図や説明からも分かるように、揮発性のガソリンは始動性に良いとされる成分から蒸散します。その結果、乗らないまま数カ月以上放置していると、キャブレター内のガソリンはエンジン始動性が劣る揮発性の悪い成分だけになる事、濃度が高くなって流れにくくなります。 このようになると通常の始動操作でエンジンを掛けることは出来ません。エンジンを掛けるには少なくともフロート室内のガソリンを、新鮮な物に変える必要が有り、それでも掛からないときは、キャブレター内部のガソリンが蒸散しきって沈殿物が硬化し、目詰まりを起こしている場合があり、このようなときはキャブレターを分解し清掃する必要が有ります。ここから先はプロの仕事になります。 フロート室内部のガソリンを出すには、フロート室横に付いているドレンボルトを緩めて抜きます。機種によっては見えにくかったり、角度が悪かったりでボルトをうまく回すことが出来ないときがありますので、自分で行うときは十分に注意して行う必要があります。 |