2サイクルエンジンでは、エンジンの潤滑にはオイルを吸気通路にポンプで送り込み、ガソリンに混合させながら潤滑を行っています。当然、燃焼室でガソリンと共に燃焼するのですが、燃え残りや燃えた後のカーボンが、長期間の使用でマフラー内部に残ったり、シリンダの排気ポートに残ったりします。
これは、オイルを燃焼させる以上避けられないものですが、メーカー純正の良質なオイルを用いることで、詰まりによるトラブルを抑えることができますが、潤滑性能はもちろん、カーボンの発生が多く、煙としても残りやすい安価なオイルを使うと、早期にそうしたトラブルが起きてしまい、”安い”という経済効果も水の泡になります。

今回、とある配達用のバイクが”加速が悪く、坂を上らない”と言う修理に入りましたので、その修理課程と共に、オイルによる詰まりとはどんな物かお伝えします。

1.修理依頼
「加速が悪く、坂を上らない」、その通りの修理依頼だったので、試乗するといつもと同じマフラーの詰まりと判断しマフラーを交換しました。

2.でも改善されない
いつもだったらそれで修理は終わるのですが、今回は何も良くならない。
困ったところで、駆動系を点検するとVベルトが標準(初期値)が16.5mmなのに対し、使用限度を0.1mm切った15.4mmしかありません。『きっとこれだ』と、ベルトを新品に交換しましたが、発進力などが若干改善された物の、本来の加速ではありません、もっと他に原因があるの?。
−ウェイトローラーも偏摩耗もなく、問題はありませんでした。

3.エンジンを開けてみる
マフラーも、駆動系も大丈夫ならば、残ったところはエンジン本体しかありません。そこでシリンダをはぐってみたところ排気ポートが見事に詰まっておりました。
排気ポート全体が3mmほどカーボンで詰まり、通路が狭くなっていました。
当然排気タイミングも3mm遅く開くわけですからエンジン出力は下がり、回転も上がらなくなります、走らないのも当然ですね。

4.カーボンを落とす
ヤスリでカーボンを削り落とします。排気の出口、マフラーとの接合部にも若干のカーボンが残っていますからこれも綺麗に取り除きます。
上の写真と比べるとどんなにひどく堆積していたのかお分かりいただけると思います。
そこには”希望の光”が差し込んでいます。

5.なぜ詰まったの?
排気ポートがこれほどまでに詰まるというのはあまり起きないことです。
聞けば走行距離も1万キロを若干超えた程度で、使っているオイルは市販の安価なオイルと言うことでした。
メーカー純正のオイルは、以前より粘度を低くし流動性を高め、煙として残りにくくするために燃焼性も向上させています。そうした工夫でエキゾーストパイプはもちろん、マフラーにも詰まり難いようになっていますが、それでも2万キロ前後走ればマフラーは詰まることがあり、内部構造が複雑なスクーターでは交換を余儀なくされます。
マフラーを交換すればほぼ元のように元気になって走ることができます。しかし、今回のようにシリンダ内部の、それも排気ポートで詰まりが発生するというのは、最近ではあまり起きないことです。

原因としては、使っていたオイルが

・オイルの分子が燃焼の熱によって分解され難かった(燃焼しにくい)。
・不純物が多く、煙になる以前に燃え残りが多く発生しそれが堆積した。
ということが考えられます。

6.その他
プラグの焼け具合
プラグはNGKの7番ですが、通常の焼け方よりも焼け気味で、プラグの温度も高めかと思われます。
電極周辺に付いているツブツブはオイル中に含まれる不純物がデポジットとして付着しているのが確認できます。
このデポジットが付いたまま高回転で運転すると赤熱し、これが正規の点火時期よりも先に混合ガスに火がつく”異常燃焼”を起こす原因になります。

とは言え、これでも”正常な”範囲の焼け具合で、側方電極が摩滅してプラグギャップがひどく開いた物とか、逆に燃えかすのカーボンで真っ黒になり、正常な火花が飛ばないプラグさえあります。

ピストンのブローバイガス

ピストン上部周辺が茶色に変色しているのがブローバイガスです。
いくつか原因として考えられますが、今回のようなケースですと、排気ポートが詰まったことでスムーズに排気されず、常に負荷の高い運転状態を続けることで、ピストンリングでもシール性を保つことが出来ずピストン周辺を燃焼ガスが”吹き抜けた”形跡です。
ブローバイガスがこのような形で残ることの他の原因として
 ・ 純正以外の粗悪なオイルを使った場合
 ・ 空吹かしを多くしている場合
 ・ ピストンとシリンダのクリアランスが大きくなっている場合
等が考えられます。
このような状態を放置または知らないまま乗っていると(そのことが多いですが)、エンジン停止後の冷却でピストンリングがリング溝の間で固着するばかりでなく、ピストン表面の潤滑用の凹凸が無くなることでオイル溜まりが無くなりピストンとシリンダが固着するので焼き付きの原因となる事があります。