民主主義への挑戦状

強行した香港国家安全法

2020年7月1日日経電子版は、「強行した香港国家安全法 民主主義への挑戦状」と題した記事を掲載した。

『香港の立法会(議会)を通さず、中国の法律を直接適用するという「一国二制度」を揺るがす非常手段に踏み切ったのは、習指導部の危機意識の表れでもある。香港から政治的自由を根こそぎ奪いかねない国家安全法は、欧米が培ってきた民主主義に中国が突きつけた挑戦状だ。』

さらに『中国は香港も「民主主義がなくても資本主義は機能する」と世界に伝える場に変えようとしている』とも指摘している。そして、『台湾への武力行使も排除せず、東・南シナ海やインド国境でも拡張主義的な行動を繰り広げる』とも。

天声人語

朝日新聞は、2020年7月1日の天声人語で、香港民主化のリーダーの一人である周庭(23)さんの日本語SNS投稿を取り上げた。『日本の皆さん、自由を持っている皆さんがどれくらい幸せなのか分かってほしい。本当にわかってほしい』と。

中国政府が香港に設置する監視機関によって、国家分裂罪や政府転覆罪に問われれば重罪に処せられるという。昨夜、周庭さんは「生きてさえいれば、希望はある」と発言し、民主化運動から身を引くという「重い決断」をしたというTVニュースも流れた。中国のなりふり構わない弾圧は、人権派弁護士たちへの弾圧(709事件)でもよく知られている。香港にも中国流の恐怖政治が始まる。そして、台湾の人々はこのニュースをどのような気持ちで聞いているのだろうか?と案じられる。

今回の事態に、かつてヒトラーがチェコスロバキアのズデーテンを併合した事件を想起する。それは軍事力を強化したナチスドイツの威嚇に、諸国がまとまりきらずイギリス首相チェンバレンの融和政策に安易に妥協した事件である。ヒトラーの「最後の領土要求」に騙され併合を認めたため、逆にさらなる領土的野心を強め、ドイツのポーランド侵攻によって第二次世界大戦が開始された。こうした史実を考慮すれば、国際ルール上の不法・不当な脅迫に対しては、明確に団結することが重要との教訓である。

民主主義が失われると

こうした弾圧の波が、これまでの国境を越えて広がろうとしている。ロシア、ベラルーシ、北朝鮮、カンボジアなどの国々では、独裁制を強めた強権政治として既に広がっているとみる向きもある。さらに強権政治もどきの国は、他にも多い。中国は、資金援助、貿易などを餌に弱小国の票を取り込み、WHOなどの国際的組織に食い込み、各種の国際機関でのパワーゲームを強化してきた。弱小国でなくても、スエーデンやオーストラリアに対してのように貿易で脅したり、中国在住の相手国国民を意のままに逮捕拘留して脅す。かつて日系の店舗を人々に襲わせ破壊もした。中国共産党は手段を選ばない。

トランプも含めて、世界の政治が自国第一主義的傾向を強め、多様性と寛容の精神がさらに失われれていくような気がしてくる。日本は、戦後、国家分裂罪、政府転覆罪や不敬罪などの罪のない国となって70年以上経過しているが、国家は分裂してはいない。戦前は治安維持法と特高警察などで弾圧していたが、こんな怪しげな法律など無くても国は治められるという実例だ。