＊残された時間

私の知人がガンの宣告を受け、あと３ヶ月と言われた。
それから２ヶ月、入院したのだが結局退院して自宅で
療養中である。もう定年は過ぎているのだが、まだ若い。
入院中も時間さえあれば外出して畑仕事に行ってた。
（畑は仕事ではなく、趣味の域だけど・・）
畑仕事がやらなければならない事なのか、やりたい事
なのかは解らないが、今は歩く事も困難になってしまった。
人は早いか遅いかの違いで死んでしまう事は決まってる。
残された時間として考えた場合、本当にやりたい事は
何なのか、そろそろ絞り込んでいく必要があると感じた・・

＊人間としての基準

私の家のトイレは洋式である。
座ると、つま先立ちになる程高い位置に便座がある。
そして拭く時は、頭が前の壁につかえてしまう。
この状況を冷静に判断すると、足と手が短く座高が高い
という結論になってしまうのだが、素直に認める訳には
いかない。これは人間としてのプライドである。
そこで会社の女性に、どういう形でトイレに入っている
のか聞いてみたのだが、ちゃんと答えてくれない。
なんと冷たい社会だろう、疑問はつのるばかりである。

＊加速度の事

なんだか最近、時間の速さに加速度がついてきたような
気がする。
若い時はそうでもなかったのだが、歳を重ねるたびに
とにかく時間のたつのが早いのだ。
と、いう事は年寄りの時間は限りない速さになってる
はずである。
目の前をゆ〜っくりと動く車は、年寄りの人がノロイの
ではなく、目の前の景色が飛ぶように早く見えるのにも
かかわらず、ちゃんと運転してる姿である。
私も昔、サーキットとか走った事あるけど、一瞬の油断
も出来ない状況で走っていた。それと同じかも知れない。
いや対向車がある一般道で走っている年寄りの方が、ずっ
とすごいのだろう・・これは尊敬に値する事だ。
だから、警笛など鳴らそうとした自分が恥かしい・・・

＊１９９８年の終りに

気がつくと波間にふらふらと漂っている。辿り着くべき
島影はかすかに見え隠れしているが、風向きに任せて
流されるままに流れている。
不思議と、海では無理に潜ろうとすると浮いてしまうし、
もがけばもがく程、水中へと引込まれてしまう。
だから自然に無理せず波に身を任せていたけど、少しだけ
泳いでみようかと思う。風向きにタイミングを合わせて、
ゆっくりとしたストロークで確かな手応えを感じるように。
疲れたら空を仰いで休もうと思う。ため息は深呼吸になり
エネルギーへとかわるように。
そうやって、少しでも近ずけたらいいなと思う。

＊矛盾編

私の部屋に同居してる海水魚はいつも不満気な顔をしてる。
甑島の海底６０ｍから釣り上げた貝付きの岩と、手打の
砂を敷き詰めた水槽は、私の憧れるような世界である。
なのに、ちっとも嬉しそうじゃない・・・。
たぶん、この魚はここ何年間か過ごしたこの水槽で一生を
終えてしまう運命だろう。
私は彼が求める食べ物を与え、彼は私の心を時に癒してく
れる。
幸せのバランスとは、重さが同じである必要があると思う。
そして、私はただの罪人になってしまうのだろうか・・・。

だいぶ前、海に遊びにいった時、海で捕まえた小魚や、
カニを水槽で飼っていた事がある。
小さい水槽での自由も無く、仲間も無く、敵も無い世界が
とても悲しくなり、又その海に返しに行った。
それから魚を飼う場合は、小さい水槽に押し込められた
店の熱帯魚を買う事にした。
飼主を選ぶ権利も与えられず、待つだけの魚達にも運命
というものが存在するのだろうか。
人の自己満足の為、費やす魚の命は尊くは無いのか？
こんな事書きながら最大の疑問は、何故私が魚を食べる
事がとても好きなのか・・・である。

＊手打編

１９９７年夏　甑島の手打より出船
瀬尾沖にて釣りを楽しむ。
我が家の愛船、みほ丸を操舵してるのは、
小学５年生の洋輝（ひろき）くん。
自分たちがそうであったように、子供の
頃からこんな環境で育つ事により、海や
船、釣り、自然がとても好きになります。
そして、環境の大切さも知るのです。
と、言っても、私はおいしい魚を釣って
食べる事しか頭にないけど・・・。

＊台風編１

徳之島で某商業高校の教師をしている友人（仮に宮野さんと呼ぶ）は、
東京に遊びに来たある日、心細そうな顔で東京にはこんなもんしか
ないよ・・。と買ってきたのは誕生ケーキに立てるようなロウソクを
箱一杯。たまたま台風が関東地方を直撃するその日、台風＝停電という
イメージが彼をそうさせたのでした。
確かに台風は直撃したのだが、雨戸も閉めることなく、去ってしまった。
誕生日にロウソクを立てたとしても、何回分あるだろう・・・・。

＊東京編１

夢の島マリーナより出船。木更津沖にて釣りして
のんびり過ごす。
東京湾横断橋を見ると、人間の偉大さを感じる。
環境破壊やいろんな問題をかかえながらも、
開通へとこぎつけた橋の下では、すでに貝が
びっしりと付き、魚達の格好の住処となっている。
生きる事への営みの偉大さに勝るものは無いの
かも知れない。

＊プロフィール

名前：東 知人(ひがし ちひと)
下甑村で生まれる。
いつも島に憧れつつも東京に在住。
好きな事：ひなたぼっこ、たき火、だらだらすること、
飲酒、テレビ、適度なスポーツ、釣り、船遊び、などなど
独身。これは軽い気持ちでどくしんなんて読んでは
いけない。哀愁を込めてひ・と・り・み・と読む。
何をやっても”いい歳こいて”と言われるこの頃。
仕事は水処理プラントの設計など、毎日CADで図面
書いたりメールで遊んだり・・・