Yamasemi Netのできるまで


ネット製作に関するHow toについては、FF誌やウェブ上に多くの記述がありますのでお任せするとして、ここでは貧乏ビルダーの僕が製作の過程で苦労した点や工夫している点、また注意すべきポイントなどについてご紹介します。



1 デザイン&素材選び素材選び
自分のイメージやオーダー内容によってデザインを決め、素材を選びます。製図をPCできっちりやる人が多いのですが、僕は紙にラフスケッチをして、それをベースにグリップの型紙を切ってしまいます。精密に設計しても僕の技術はそれを正確に再現できないので…いずれにせよ楽しい行程です。

グリップ切り出し&成型
型紙をグリップ材の木に糊で軽く貼付け、ジグソーで切り出し。本当は電動糸ノコが欲しいけど置く場所が無いんですな。グリップ切り出し&成型はネットの仕上がりを左右する重要な部分なので、ここでの安易な妥協は禁物。断面の垂直をきちっと出すためにはボール盤とドラムサンダーが欲しいところですが、やはり置く場所が無いためアキカン&紙やすりで夜な夜なシコシコシコ…結構根気の要る作業です。ボクの場合は夜の1〜2時間しか作業できないうえに飽きっぽい性格なので、2〜3晩かかるかな。個人的に一番苦手な工程。

3 フレーム漬け込み
2の作業と同時進行で、フレーム材を曲げやすくするため水に浸します。ヒノキ、メイプル系、ウォールナットなどは1晩で十分ですが、唐木(黒檀など)やカリンなどは3日ぐらい。樹脂製のロッドケースに水を入れて風呂場に置いてマス。

4 仮組み
フレームを曲げてグリップに合わせ、バインディングして乾燥させて曲げ癖を付けます。曲げやすい材の場合は鼻歌でも歌いながら気楽にできますが、堅い材や割れやすい材(シャムガキ、黒檀、カリン、トチトラなど)はチョー緊張です。えてして高価な材は割れやすいんだよなぁ。そういう材は熱湯をかけたり熱した鍋に当てたりしながら慎重に曲げて行きます。クランプや凧糸で縛り上げ、最低2〜3日陰干しします。
(ワンポイントメモ)
 仮組み乾燥あるいは接着時に、クランプを全周にわたって掛けた場合はかなりの重量となります。この状態でフレームを浮かせて(あるいは釣り下げて)乾燥させると、重さでフレームが変形した(歪んだ)状態で固まってしまいます。平らな台の上で水平をキープしてやるのがベスト。

5 接着
仮組みした材が十分に乾燥し曲げ癖がしっかりついたらいよいよ接着。
通常フレームは3枚(内貼りを入れる場合は4枚)の板を貼り合わせますが、ボクは3枚同時に貼らずに、内側から1枚ずつ接着・乾燥を3セット繰り返して貼ってます。3枚同時だとどうしてもバインディングの力が弱まってしまうので、グリップ材との間にすき間が出来やすいんですね。季節にもよりますが接着剤が完全に乾くのに1昼夜かかるので、最低でも3日必要となりますが、ここは「急がば回れ」です。

6 Y字部の成型
内貼りを入れる場合、貼る前にグリップのY字部の内側を綺麗に整形しておく必要があります。工程上最も精度を要する場面です。ボール盤&ドラムサンダーがあれば楽に作業できそうですが…一番難しいのはフレームとの摺り合わせ部分で、段差を限り無くゼロにしたうえでフレーム側に損傷を与えてはならないというカオスを伴います。堅いグリップ材だとかなり苦労する工程です。

7 内貼り材の成型&接着
作業内容は5と同じですが、内貼り材の合わせ面を目立たなくするための加工が必要となります。要は互い違いにテーパーを作るのですが、厚さ1.5-2.0ミリの材にテーパー(しかもできるだけ緩く)をつけるのは結構難しいです。加工が終わったら接着、ここですき間ができると見栄えに大きく影響するので、バインディングにも気合いが必要。乾燥に1昼夜。
(ワンポイントメモ)
 内貼りにすき間ができると見栄えガタ落ちなので、ビルダーの皆さんも工夫されてるようです。特にグリップのY字部分はRもキツく、グリップ材との摺り合わせもあるので、すき間ができやすい箇所です。
 この部分のバインディングに僕は輪ゴム使ってます。といっても幅5ミリぐらいの太いやつです。グリップにC型クランプを固定して起点を作り輪ゴムをガンガンに掛けていきます。その際はみ出た接着剤とゴムが貼り付いてしまうのを防ぐため、あらかじめ内貼り材の内側(接着面でない方)にセロテープを貼っておくとさらに良し。
 起点となるC型クランプにはかなりの力がかかりますので、しっかり固定しておくことが重要です。締め付けが甘いと作業中にズレてきます。グリップを傷つけないよう捨て板を挟むべし。
 また、接着剤の付着した輪ゴムは伸縮性が極端に落ちるので、再利用はしないほうがいいでしょう。なおY字部以外の場所については、クランプやクリップ、凧糸などでやってます。


8 荒削り
接着剤が十分に乾燥したらバインディングを解き、カンナやアラカンなどでバリを落として行きます。勢い余って削り過ぎてしまったり、素材にクラックを入れてしまうと、
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となりますので注意が必要。

9 溝切り&穴開け
枠糸(ネットを取りつけるための糸)を通す溝と穴を切っておきます。以前は彫刻刀で彫ってましたが、最近溝切りノコを自作しました。穴あけは電動ドリルで。ただし手元に一番近いグリップ部は慎重を期すためピンバイス使ってます。垂直に開けるのは案外難しいです。そのうち治具作ろうと思います。

10 成型
ひたすらヤスリで削りこんでいきます。最初は棒ヤスリ、おおまかな成型が決まったら紙ヤスリで。ボクの場合100番ぐらいから始めて徐々に目を細かくしていき、最終的に800番で仕上げます。面取りする程度のカッチリしたシルエットの場合はすぐに終わる作業ですが、ボクはとにかく曲線を出したいほうなんで、結構時間かかります。5晩ぐらい使うかも。削り粉を吸うと喘息になったりするらしいので、ベランダでやるか、風呂場で湯気モクモクさせながらやってます。こうすると削り粉が湿気吸って飛散しにくくなります。子供も居るしね。
(ワンポイントメモ)
 成型(研摩)が終わったら、木を絶対に濡らしてはいけません。水を吸うと木材の繊維が膨張して、せっかく綺麗に磨いた面がデコボコのギザギザになってしまいます。また時期にもよりますが成型〜塗装の間に湿気を吸ってしまうこともあるので、成型が終わったらすみやかに第1回目の塗装を行うことをおすすめします。くれぐれも削り粉は水で洗わず、エアや筆で丁寧に落としてから塗装しましょう。

11 塗装
いよいよ作業も佳境に。800番でツルツルに仕上げた面に、薄めに作ったウレタンニスをサッとひと塗り。鮮やかに浮かび上がる美しい杢、鳥肌のたつ瞬間です。以降はニスの濃度をやや上げて、順次重ね塗りし頑丈な塗膜を作っていきます。塗装回数については、ボクは概ね10回を目安にしてます。塗っては乾かしの繰り返しなので、単純計算で10日かかることになりますが、雨や湿度の高い日は作業できないので、2週間前後かかるのがふつうです。7回目あたりからは塗装前に1500番の耐水ペーパーで下地の凸凹をならした上で塗って行きます。おおむね筆ムラなく綺麗に塗れていると思った段階で終了。
(ワンポイントメモ)
 1液ウレタンを使用しています。2液式のほうが強度が出るらしいのですが、配合が面倒なのと、1回あたりの使用量が少ないので無駄が出るのがもったいないというか…
 スプレーか筆かについては好みによりますが、最近は筆を使っています。スプレーは噴霧しやすくするために塗料が薄い(=サラサラ)ので、どうしても流れやすいです。
 そして最近気に入っているのが、割り箸に小さく切ったスポンジを挟んだ筆ツール。ムラなく1発で綺麗に塗料が乗ります。以前WEB上でいろいろ調べていたときに偶然見つけた方法なんですけど(どこのHPだったか失念してしまいました)、かなりお勧めですね。


12 サイン入れ
11の工程の途中でサインを入れます。ボクは4回目の塗装の前に行ってます。下地を1000〜1500番の耐水ペーパーで軽く削り、水性の極細サインペンかロットリングで書いていきます。ここでのキモは、ペン先に力を入れ過ぎないこと。失敗した場合は水で落として軽くペーパーをかければ再起可能なのですが、筆圧が強いと下地に跡が残ってしまいます。また文字のスペルはよく確認しておくこと。間違いに気付かず完成まで逝ってしまうと、
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となります。そのままで良けりゃ別にいいけど、依頼品の場合はそうも行かないからねぇ…

13 コンパウンドがけ
不要という人もいるかと思いますが、ボクは筆ムラを塗装の工程だけで完全に消すことができないので、この作業が必要です。また塗料の光沢はギラギラしすぎている感じがするので、それを少し落ち着かせる意味もあります。
全体を1500〜2000番で筆ムラが消えるまでペーパーがけし、自動車用のコンパウンドで根気よく磨いていきます。古タオルなどを使ってますが場合によってはドリルの先につけるフェルトパフなんかも駆使。全体にバランス良く艶が出たら終了、フレームはこれにて完成。
(ワンポイントメモ)
 コンパウンドをかける際には、塗料が完璧に乾いていることが絶対条件です。好天低湿の気候でも2〜3日は必要でしょう。目安は、匂いを嗅いでみてシンナー臭がないorほとんど消えており、かつ爪で軽く引っ掻いても傷が付かないくらい完全硬化していることです。先を急ぐ余り、乾ききっていないうちにペーパーをかけたりコンパウンドで磨いたりすると、塗装面が消しゴムのカスのようにボロボロと剥がれ、見るも無惨な姿になります。

14 クレモナ染色
お次はネットです。フレームの色合いに合わせたカラーを決め(センスがモノ言うよ)、市販の染料でクレモナ糸(漁網用の糸)を染めます。ネット1枚(渓流用)に必要な糸の長さは5ー60mと言われていますが、実際は目の大きさや目数によってかなり変わりますので、無駄は覚悟で余裕をもって染めてます。染めたら乾かして糸巻き(ボクは使っていない湖用のリール)に巻いておきます。
(ワンポイントメモ)
 仕上がりを重視するなら先染めです。後染めの場合、結びコブの表面および内部は時間をかけても染まりにくいからです。先染めは最終的にどうしても糸の余りが出てしまうのでもったいない気がしますが、編み目のデータをキチンと残しておくことで、無駄をかなり減らすことが出来ます。

15 ネット編み
編み方はいくつかあるようですが、ボクは上から編んでいって減らし目で絞っていくやり方です。ちなみにYamasemi Netでいうと、わりと目数の少なかった#9や#12ですら1400〜1500目、湖用のLサイズにいたっては2500〜って感じで気が遠くなりそう。たまに目を飛ばして編んじゃって、後からミスに気付いたときなんか最悪です。結ぶのは3秒/目、ほどくのは1分/目だからね…根気の要る作業ですが、マラソンでいえばもう35キロ地点だからがんばろーと気合いを入れてみる。
(ワンポイントメモ)
 試行錯誤の最中ですので誰か教えて下さい。
 某誌に紹介されていた「カエルマタ結びでコブにかけて結ぶ」方法は、僕の結び方が悪いのか緩みやすい気がします。現在僕は「ユニノット」なんですけど、いまいちスッキリしないんですよね…


16 ネット取り付け
いよいよ走者が競技場に帰って来ました!という最終段階。今までの苦労を思い出しながら、万感を込めて1目ずつフレームの穴に枠糸を通して行きます。結構時間のかかる作業ですが焦らずに。りきみすぎると枠糸切れます。カーブを回ってゴールへの直線、最後の穴を通して結び目の処理を終えると…
やったー完成だー!!

17 贈呈そして入魂
ヒトサマの御依頼による場合は贈呈となります。ちなみにYamasemi Netにはお遊びで製品タグを付けてますので、フォトショップで描いて印刷。
贈呈は直接手渡しを身上としてます。こんな拙い作品でも喜んでもらえて、都合があえば一緒に釣りをして、自分のFFの世界が広がって行く…ネット作りのほんとうの愉しみは、ここにあると思っています。


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