「私の宝物」 第20回

駅伝、マラソンでの活躍が期待される

ホンダ陸上部

野田道胤選手

日本選手権、春季サーキット等、数々のトラックレースで日本のトップに食い込む活躍を続けてきた野田選手。5000m13分32秒20、1万m28分9秒59という記録を持つスピードランナーが、この冬はロードレースでもその存在感を発揮する。最終回を迎えた「私の宝物」は、トラックの選手というこだわりを持ちながら、マラソンにも初挑戦する野田選手の素顔に迫る。

 「同じところをぐるぐる回るのが嫌いという選手は多いですが、ぼくはその反対。起伏や路面の状態など、何があるか分からないロードと違って、純粋に力と力の駆け引きができるトラックレースが大好きです。」
 特に5000mにこだわりを持って取り組んできた野田選手には、誰もがトラック競技からマラソン志向に走ることに抵抗を感じていた。
 転機となったのは、4月から就任した灰塚吉秋新監督との出会い。これまでのトラック中心から、ロード、駅伝を主体としたチーム作りに方向転換していく。
 「実業団に入ってから、駅伝では成績が残せず、ロードは苦手意識がありました。自分の好きなトラックでやればいいというのは、そこから逃げていたのかもしれません」
 8月に行われた十和田八幡平駅伝では、2区(13.3キロ)で区間賞をマーク。日清食品の3連覇を阻止、ホンダを17年ぶり2度目の優勝に導く原動力となった。
 「この4月からは、違った自分を見いだすために取り組んだことが、十和田の駅伝で少し生きてきたのかなと思います」
 トラック競技への情熱は変わらないが、同じことの継続では自分の目標とする位置に辿り着けない。新しいものを発掘するためには、破壊も必要なのかもしれない。そんな思いで野田選手は、ロードへの挑戦、そしてマラソンにもチャレンジする。

「私の宝物」

友人からもらった

トレーニングウェア

「普段は部屋でハンガーに掛けたままにしています。特に着て走ったりするわけではないですが、ぼくが今も陸上競技を続けている証として大切にしています」
 野田選手の宝物はトレーニングウェア。大学卒業時、陸上部の同級生である吉田謙さんから譲り受けたものだ。卒業後の進路に悩む野田選手に、実業団入りを進めてくれた、吉田さんを始めとする仲間たちの熱いエールが込められている。
「人生の価値観を、180度変えるような仲間に出会うことのできた大学時代でした。ずっと教員志望だった自分が、実業団で競技を続けることになったのは、彼らとの出会いがあったから。このウェアを見ると、『やりたくてもできないやつはいっぱいいる。やれるんなら、やったほうがいい』と、今も応援し続けてくれる仲間たちのことを思い出します」

 暇な時間があれば、洋服を買いにフラフラ街に出掛けるか、寝てることが多いとか。
 好きな言葉は「やりたい放題」。セールスポイントとウィークポイントは、ともに「気分屋でムラっけがおあること。一発当てれば強いが、当たらないとダタの人」とか。一見、破天荒にも見られがちだが、自分自身の確固たる目標は見据えている。
 「将来はやはり教員になりたいと思います。これは絶対に曲げられない気持ちです。そして人からは何といわれようが、オリンピックに出場したい。トラックでもマラソンでも、種目は何でもいいので、日の丸をつけてオリンピックの舞台に立ちたいです。そのためには一番マラソンが世界に近いと、今は正直に感じています」

野田道胤(のだ みちたね)

1975年3月25日生まれ。三重県亀山市出身、身長174センチ、体重54キロ。血液型はAB型。
亀山中学で陸上部に入ったが、目立った戦績はなし。上野工業高校時代は、3年連続で全国高校駅伝に出場。5000mでは当時の高校歴代4位となる14分13秒01をマークした。日体大でも4年連続箱根駅伝に出場。2年では日本代表として世界ジュニア1万mで銅メダルを獲得している。4年時には関東インカレ5000mで優勝。三重県の実家は、天台宗のお寺「福満寺」

監督からひとこと ホンダ陸上部・灰塚 吉秋監督

 野田選手のフォームは、ロスの少ないピッチ走法で、非常に超長距離向きだと思います。またスピードもあり、その切り替えもできますので、走りこみがしっかりできれば、ロードでも十分通用する能力を持っています。
 本人も今まではトラックの選手という意識が強かったですが、駅伝ではチームの柱になるべき選手ですし、マラソンに挑戦することも視野に入れながら、夏の合宿などは少しずつ距離を意識した練習に取り組むようにしています。チーム全体が、今までの練習を切り替えてきていますので、確かにきつい部分もあると思いますが、逃げずに積み重ねていくことで、課題であるレースでの好不調の波をなくすこともできるのではないかと思います。
 予定ですが、マラソンは2月の東京国際を念頭に置いて取り組んでいます。初マラソンですので、余計なプレッシャーを感じず走ってくれれば、30キロぐらいまでは十分先頭で走れる力はあります。そこからは精神力がかなり大きく左右するはずです。ホンダのチームの最高記録(2時間11分51秒・伊藤広幸)は、ぜひとも更新して欲しいと思っています。

「ランナーズ」12月号より 期間限定 まもなく削除します。