天国への応援歌

 日曜深夜のNNNドキュメントが好きで、よくみています。
 「天国への応援歌」はその30分の枠で放映されたが、たいへん評判がよかったので、60分に編集して再度、3月22日に放映されました。わたしは当初、深夜に放送されたとき、最初のところを見ていなかったので、ドキュメントの全体のところがよくわかっていなくて、再度、見る機会に恵まれてよかったと思っています。
 再度、見てとっても感動したので、その感動を書き残しておこうと思います。残念なことに、録画していなかったので、頼りはわたしの記憶だけになります。いろいろと間違いがあるかもしれないけれど、それでも書き残しておきたいので、思い切って書くことにしました。

 番組で取り上げているのは、箕面自由学園の「チアリーディング部・ゴールデンベア−ズ」です。全国大会で優勝するような実績のあるチームで、その部の2年生の目を通して、遠藤久美子さんのナレーションで番組は進みます。
 全国大会で優勝した3年生、その雲の上の3年生に憧れて頑張る2年生。その3年生の先輩(とーちゃん先輩)は、チアリーディング部の卒業イベントの夜、交通事故で突然、命を落としてしまいます。
 自分たち2年生が3年生になって、全国大会の優勝を目指して頑張る姿を追った番組です。

 わたしはチアリーディングというのを、初めてまともに見たのですが、それはすごい競技だと思いました。支える人、上で演技をする人、2段、3段と高いところでの演技、そして躊躇なく落下する人を下で受け止める人。個人の技を磨くこととチームワーク、気持ちをひとつにしなければできない競技です。
 3年生から2年生へ。新3年生の副キャプテンの目を通して番組は進んでいきます。
 番組の最初は、「とーちゃん先輩」の様子を映しています。彼女はとっても元気。後輩たちにもとっても厳しく接しているようですが、それは彼女の頑張りゆえに出てくることで、後輩たちには「あこがれの先輩」であることは間違いないようです。全国大会で優勝するチームをひとつにまとめている姿は、眩しく映ります。
 部で3年生を送るセレモニーで、2年生から歌を贈られている様子、その日の夜に、彼女は友人5人で同乗していた自動車事故で亡くなってしまいます。あまりにも突然の死で、部員のショックは計り知れないものとなりました。
 先輩の死を乗り越えて、先輩に少しでも近づいて、そして越えるために、新3年生の全国大会への挑戦が始まりました。

 「チアリーディング」というを、わたしが見る機会というのは、テレビでちょっと見るという程度で、全体をきっちりと見たことはなく、ましてその練習風景をみたことはありませんでした。一人を何人かで支えてというかなり高度な組体操の連続をテンポよくこなしていく、それも2段、3段に人をあげたり、何組かで同時に人をあげていくという演技の練習は、部員が心をひとつにしていかなければなりません。上にたつ人は、下で支える部員たちを信頼しなければ、思いきったことができません。しっかり上にのって演技を決めるためには、落下する恐怖があってはできないのです。繰り返し行われる練習で、下で支える部員たちの痛みはだんだんとひどくなっていきます。また、上から何度も落下することでの疲労感も強くなります。何度やっても決まらない演技に、苛立ってくることもあるでしょう。下にいる部員は、上にたつ者に対して、「しっかり立ってよ」と思い上にたつ者は、「しっかり支えてよ」と思うことがあるかもしれません。
 もし下で支えている人が気を抜いてしまったら、勢いよく上から落下してきた人を怪我させてしまうことになります。だから練習は、一時たりとも気が抜けない、緊張のなかで行われます。下で支える者も上に立つものも、「技を決める」ということで一致しなければなりません。だから、だれひとり、一瞬たりとも後ろ向きの気持ちにはなれないのです。
 人それぞれ気持ちにムラができることは当たり前です。自分はこんなに前向きなのに、他の人が自分と同じ気持ちではないと気づいたとき、とってもイライラします。まして16、17歳の高校生です。自分自身をもたすのに精一杯なはずな年齢です。自分と人が違うということ、自分がやろうとしていることを、人には強要できないということはとても理解できないでしょう。いえ、この時期はむしろ、そんなふうにものわかりがよくてはいけないのだと思います。
 そういう気持ちのぶつかり合いのなかで、練習を積み重ねて、技が磨かれていきます。先輩たちの全国大会優勝を目指すだけでなく、先輩たちを越えることが、突然、この世を去ってしまった先輩への贈り物になるという気持ちは一致していても、思うような演技ができないなかで、全国大会へむけての練習が続けられました。
 一方で、厳しい練習を一緒にこなしている部員たちだから、普段からとっても仲良しでいつも一緒にいます。彼女たちが昼休みに談笑する様子には、ほっとさせられました。とにかく一緒にいたい、一緒にいたいという仲間がいること、それだけでも高校生にとっては、十分の財産です。それだけなく、彼女たちはチアリーディングの全国優勝という大きな目標をもっています。
 わたしは、高校生のときに、そういう一生懸命さを経験せずに過ごしたので、彼女たちをほんとうに羨ましく思いました。「今からでも遅くない」ということはたくさんあるかもしれないけれど、そのときにしか経験できないこともたくさんあると思います。

 全国大会優勝にむけての練習は、夏休みも続きます。華麗な演技を支えるのは、地道な練習の積み重ねです。でも、練習しても練習しても、思うような演技はできない、とても先輩たちのようにはできていないことを感じながらも、全国大会出場の16名のメンバが選ばれます。13名の3年生のなかで2名がメンバからもれてしまいました。その2人がコートの外で流すくやし涙に他の部員は気づかない、気づく余裕がないところに、このチームの弱点があったことがわかったのは、ずっとずっとあとのことでした。
 しっかりした目標はあるのに、そして一生懸命に練習しているのに、思い通りの演技ができない。ひとつひとつの歯車はちゃんと回っているのに、かみあっていないような、回る速さがあわせられないのか、何かがおかしいと気づいていても、それを修正することができていませんでした。
 「とーちゃん先輩」は、いつも「自分たちが楽しまなければ、人を楽しませることはできない」と言っていたそうです。「チアリーディング」は、人を元気づけるために「見せる」ものです。チアリーディングの演技をみたら、だれでも心が躍って元気になります。人を元気にするためには、自分がもっと元気でなければならないのです。
 「その日の演技は、演技の前の練習の雰囲気で決まる」、これもたっちゃん先輩に言われたことだそうです。その言葉のとおり、試合ではない「催し」に呼ばれて演技を披露するというときですら、今ひとつ乗り切れない雰囲気のなかで、納得できない演技をしてしまいます。そういう重苦しい空気を抱えたまま、チームは全国大会にのぞむことになってしまいました。
 
 予選では、最初からミスの連続でした。ミスが気持ちを暗くして、動揺をかかえたまま、最後まで思うような演技ができていませんでした。演技を終えて、号泣する部員たち。一生懸命しているはずなのに、うまくできない自分への苛立ちでしょう。自分の力を十分に出し切れたのなら、どんな結果も受け入れられるかもしれません。力を出し切れないまま、ひどい演技をしてしまって、自分たちの立てた目標と自分たちの現状のギャップに号泣するしかありませんでした。
 それでもゴールデンベア−ズは、予選を通過して、先輩への約束の「全国制覇」の夢へ「首の皮1枚」つなげます。他のチームの演技がどうだったのかわからないし、ゴールデンベア−ズがミスを連発するところばかり撮っていたので、彼女たちの演技が予選通過に価するものかどうかの判断はできないけれども、彼女たちの表情からすれば、予選通過は奇跡的だったように思います。

 なんとか予選を通過したからといって、明日の決勝の演技がうまくいくとは限りません。ずっとひきずっている重たい気持ちを払拭してくれたのは、16名のメンバに選ばれなかった3年生の2人でした。彼女たちは「何かしてあげたいけど、何もしてあげられないから」と、2人で折った千羽鶴を渡します。
 彼女たちは、メンバからはずれてから、「チームのためになにかできることを」とやってきたようですが、内心はとても複雑だったと思います。自分がいるべきところに違うメンバがいることに、違和感を感じないわけがありません。「実力だから仕方ない」と言われても、それだけの実力がつけられなかった自分への苛立ちもあるでしょう。千羽鶴は、全国大会で頑張る部員のために折ったものだけれども、でも、彼女たちの気持ちも整理したのかもしれません。
 千羽鶴だけで、すべての雰囲気を変えたわけではないけれども、自分のためではなくて人のため、見ている人を楽しませるという気持ちが大切ということに気づいたのかもしれません。部員たちが、明日の決勝、みんなでがんばろうという、これまでの重い気持ちをそれぞれが少し越えられた瞬間のように感じました。
 
 決勝当日、全国制覇を視野にいれた質の高い練習をこなしていたので、それがそのまま出せたら、ゴールデンベア−ズの演技が評価が高くなるのは、当然のことのようでした。予選では連発していたミスも決勝では、次々と高度な技を決めていきます。そして全国制覇を達成するのです。
 「自分たちが楽しまなければ、人を楽しますことはできない」というとーちゃん先輩の言葉の真の意味がようやく理解できたと、部員たちは感じていたようです。

 みんなで夢を達成して、明るい笑顔で、彼女たちは進路について話していました。
 中学の教師になりたい、チアリーディングの指導者になりたい、美容師になりたい、それぞれの進路は、チアリーディングを通して、自分が適していると感じたことを目指したものでした。同じ競技をしていても、それぞれが違うことを感じて、それを実現しようとしていく姿、自分の進路について語る口調には、確信がありました。一生懸命にやってきたこと、それに裏打ちされた強さを感じました。
 美容師を目指すのは、16名のメンバからはずれた部員でした。試合前に、部員たちの髪の毛をくくったり、整えたりして、みんなをおくりだすことが嬉しかったと言っていました。メンバから外れたことの辛さは、なにものにも変えられないし、その辛さ、悔しさは忘れてはいけないと思うけど、でも、外れたから経験できたこともあると思います。どんなめぐりあわせも、自分の生き方しだいで、プラスにすることができるということを、教えられたように思います。

 わたしは、馴れ合いは好きではありません。でも、「みんなで力をあわせると楽しい」こともたくさんあると思います。そういう共感があることを、あらためて教えてもらったように思います。

花子のノート