その3

 都丸さんの第1声の「お若いですねぇ」というのは、正直なところ言われるのではないかとは思っていました。自分で判断することではないけれど、わたしは実際のトシより少し、若くみられることもあります。それは単純に嬉しいです。27歳くらいのときに「ぬかるみツアー」というラジオ番組主催の旅行へ行ったのですが、そのときはたいてい「大学生」といわれました。すっごい嬉しかったです。20歳そこそこにみられるなんて。
 でも今は若くみられるといってもやはり年齢を重ねてきているので、30半ばくらいにみられたところで、だからどうなの?かなと思っています。大学生に見られるというのとは全然、違うのです。だから、若く見られることで、それを喜ぶのはもうやめようと思っていました。
 ただ、都丸さんが「若いですね」と言われたのは、わたしのその肩書きに対してであって、実際の年齢(もちろんご存知ない)よりも若いということではありません。わたしはどう反応していいかわかりませんでした。たしかに肩書きだけを取り出したら、そうなるけど、でも別に大抜擢されたわけでもないし、わたしだけ特別でもないし、なんとなく続けてきたらこうなったというか、実際にそんなエライことをやってるわけでもないし、エライわけでもないしということを、その場で考えてしまって、反応できなくなったのです。
 でもこういうときって、別に正確に反応する必要はなくて、社交辞令としてさっととばしてしまえばいいものなのですが、わたしにはそれができなくて、沈黙になってしまうのです。咄嗟に反応できなくて、あれこれ考えてしまううちに、何も言えなくなるということが、この日に限らず数多くありました。不器用なんです。
 
 わたしが沈黙してしまったので、都丸さんはさっと流して台本通りのことを振ってこられました。何度も書きますが、今日は何人もの素人を相手に話されているので、おそらくわけがわから

ないって感じだったと思います。都丸さんもわたしの反応の悪さを察して「台本どおりに」と思われたのだと思います。
 都丸さんの問いかけに対して、わたしはトークではなく、ひたすら説明し続けるということをしていました。わかっていることだったら、ちゃんと応えることができるのです。もう少し都丸さんのほうを向いて話をすればよかったなぁと思います。わたしは前を向いてひたすら用意した原稿を読んでいたのです。
 聞かれることはわかっていましたが、時間の関係でしょうか、「それパスだったら、あとの話につながらない」とかということは、ちゃんと判断できました。「あがる」余裕もなかったという感じでしょうか。
 でも戸惑ったことが2つありました。
 ひとつは、見本にテーブルの上に並べた商品が、わたしの思っていなかったものが入っていたことです。京野菜ということで、万願寺唐辛子と切水菜があったのですが、京野菜は一旦、作付けが減ったもので京都の人間もそう日常的に食べているものではないのです。「京のブランド」ということで売り出していますが、それは京都以外の人へのインパクトということでしょう。わたしは、そのような「珍しい」野菜ではなくて、キャベツや大根のようにだれでもが食べている野菜を地元で作ってもらっているということを言いたかったので、ちょっとズレを感じました。
 それからもうひとつは、最後に台本にないことを聞かれたときです。イベントの問い合わせ先を聞かれたときに、「えっ、連絡先どこ?」とういう感じになってしまいました。これも仕方ないか。
 若干バタバタしていて、アシスタントの女性アナのほうをみると、「一旦CM」というカンペが出てました。そこでやっと、正気に戻ったというか「ラジオやったんや」と思い直しました。やっぱり原稿の内容を、自分本位に話したということを改めて自覚して、ちょっとブルーになりました。たぶん、もう一度、わたしのことを紹介して、「○○さんでした」という感じで終わったのだと思います。わたしはたいへん失礼なことに、都丸さんにろくに挨拶もせずに舞台から降りて裏にまわりました。わたしは、自分が一方的に話したという自覚があったので、KBSの担当者の方に「どうもすみませんでした」と頭を下げて謝りました。KBSの方は、にこにことしてくださっていたけれども、雰囲気は「もう終わったものは仕方ない」という感じでした。
 そのあと、うちの職員に「すっごい自然な感じでよかったですよ」と言われましたが、面とむかって「よくなかった」といういう人はいないのですから、「そんなことないんです、舞い上がってしまいました」と言うと、「落ち着いていましたよ」ということでした。落ち着いていたのではなく、あがる余裕がなかったのです。

その4