わたしを手招きして1万円札を差し出した
誕生日ケーキを買ってくるようにと
うちの子にそんなことさせないでと、ママの不機嫌そうな顔
やっとのことで見つけたケーキ屋さん
主人があわててデコレーションをしてくれる
名前は? 年は? 多めのローソクを入れてもらった
こんな遅くにたいへんだね、とシュークリームを包んでくれた
店に戻ると、彼がいた
ケーキは、依頼主の手から彼の手にわたった
わたしが買ってきたケーキが彼のおうちのお土産になってしまった
その2
彼の家の番号を押す
かけなれた番号なのに、いつも緊張する
電話がつながっと同時に受話器をおく
呼び出し音が残ったかもしれない
一瞬の電話の音に驚いたかもしれない
誰も気づいてないかもしれない
でも、わたしは毎日、電話をかけている
ほんの少し、わりこんでいたいから
その3
雨が好きと彼は言っていた
わたしは好きではないけど、でも彼を知ってから
雨がふったら、彼の心地よさをわけてもらってきた
今でも雨がふるたびに彼のことを思い出す
雨をみても何にも感じなくなったとき、彼のことを
わすれることができるのかも
雨が雪にかわる季節には、忘れていたい
その1