Poem 1

わたしを手招きして1万円札を差し出した
誕生日ケーキを買ってくるようにと
うちの子にそんなことさせないでと、ママの不機嫌そうな顔
やっとのことで見つけたケーキ屋さん
主人があわててデコレーションをしてくれる
名前は? 年は? 多めのローソクを入れてもらった
こんな遅くにたいへんだね、とシュークリームを包んでくれた

店に戻ると、彼がいた
ケーキは、依頼主の手から彼の手にわたった
わたしが買ってきたケーキが彼のおうちのお土産になってしまった

その2

彼の家の番号を押す
かけなれた番号なのに、いつも緊張する
電話がつながっと同時に受話器をおく
呼び出し音が残ったかもしれない
一瞬の電話の音に驚いたかもしれない
誰も気づいてないかもしれない
でも、わたしは毎日、電話をかけている
ほんの少し、わりこんでいたいから

その3

雨が好きと彼は言っていた
わたしは好きではないけど、でも彼を知ってから
雨がふったら、彼の心地よさをわけてもらってきた
今でも雨がふるたびに彼のことを思い出す
雨をみても何にも感じなくなったとき、彼のことを
わすれることができるのかも
雨が雪にかわる季節には、忘れていたい

その1

(『雑 らいと』 90年12月)

花子のノート
別冊index