アクロス福岡
e:俺、この前初めて福岡タワーに上ったっちゃけど、
n:ほ〜。俺もタワーの下までは行ったことあるばってん、上に登るのに何百円か取られろう。だけん、まだ登ったこと無いやね。
e:登って思ったちゃけど、あそこから市内を眺めると、やっぱ、福岡は「緑」が少なかね。背後の山には、当然、緑があるばってん。中央区・博多区あたりになると、殆ど「緑」が見えん。大濠公園あたりにチョット「緑」が見えるばってん、それ以外は殆ど建物に覆われとる、って感じやね。
n:そう言われると、福岡の中心部には緑が少なか、って思うけど。ばってん、他の都会も同じ様なもんじゃなかと。むしろ、福岡はまだ自然に恵まれとる、って思うけど。「海」も「山」も近くにあるし。
e:タワーに登って以来、「緑」が気になって、歩く度に探しよるけど。確かに小さな公園や神社・お寺に「木」は残っとるばってん、みんなスケールが小さくて、「緑」を感じる、ってまではいかんね。
D:そうやね、「緑」を「ゆとり」に感じるには、ある程度のスケールが必要やろうね。タワーから観た大濠公園の緑も、「西公園−大濠公園−舞鶴公園−護国神社」って続いとるけん都会の「緑」に感じる、って言えるんやないと。
n:確かに、明治通りを通ると大濠公園当たりで視界が広がるもんね。
D:「明治通り」は福岡の基幹道路で、専門的に言うと「福岡の都市軸」ってことなんやけど。この都市軸に大濠公園近辺並みの「緑」が後2ヶ所程度あれば、福岡も「ゆとり」ある都会、ってことになったちゃろうけど。
n:でも、それって、無いものねだり、やない?
D:いや、不可能な話やない、って思うよ。旧県庁跡地=現在のアクロス福岡+天神中央公園、現在の県庁+東公園=旧東公園、この二つをもっと上手く計画しとったら、「明治通り」という都市軸に対して、随分「ゆとり」有るものになったんやない。後の祭り、ってことやけど。
e:アクロス福岡って言えば、裏側に植栽がしてあるな〜、っては前から知っとったばってん。「緑」を探しとる時始めて気が付いたっちゃけど、建物が「緑の丘」になっとるちゃね。国体道路側から観て、初めて気ずいたやね。
D:明治通り側に天神中央公園を置いて、その奥にアクロス福岡の「緑の丘」、「ステップガーデン」って呼ぶらしいけど、明治通りから観たら距離感も丁度良いし、もっと良い感じになったんやない。そして、市役所も建物を西側に配置して広場を天神中央公園側に設けて。そして、那珂川沿いの貴賓会館までを一体として整備してれば、そうすれば都市軸に対して大きな「ゆとり」になったやろうね。
e:その「ステップガーデン」って言うの、国体道路側から観ると「植物に侵食された廃虚」みたいで、俺は好きやね、ああ言うの。明治通り側は単なるオフィスビルで、面白くも何ともないけど。
あんたの言うごと、明治通りからあの廃虚が観れたら、あすこら辺の景色も大きく変わるやろうね。手前の公園の木々越しにあの「植物に侵食された廃虚」が見えたら...
n:「天神中央公園」も「市役所裏の広場」もそれぞれが独立した様な状態てあるけん、スケールが小さなものになっとるね。那珂川沿いも含めて皆が一体になったら、今とは比べものにならん大きなスケールの公園ができたかも知れんね。
話は変わるけど、アクロス福岡の「緑の丘」は俺も気が付かんかったけど、あの「吹き抜け」は、良かね〜。「吹き抜け」を観るためだけに、時々あすこを通り抜けよっちゃけど。あんたたちどう思う? 何んか、「凛」とした感じで、「コヒータイム」じゃなかばってん『ほっ』って感じもするし...
D:ああいう巨大な容積の空間を「アトリウム」って呼ぶんやけど、「広間」って言う意味なんよ。「イムズ」や「ソラリア」「エルガーラ」も「アトリウム」を持とるけど、アクロスの「アトリウム」は一味違う、ってところやね。
n:「イムズ」や「ソラリア」のは、煙突みたいな「吹き抜け」やもんね。そういうの建築用語では「筒抜け」って言ってたりして(^O^)
D:「イムズ」や「ソラリア」は商業施設やから、「吹き抜け」を回遊空間として設けたんやないの。「キャナル」の中庭の運河もそうやけど。
e:でも、「吹き抜け」っいうのは勿体無い、ちゅう感じがするけど。「ムダ」って言うか...
n:それを言うなら、「緑」も「ムダ」って言うことになろうもん。
D:「ムダ」なものも無価値じゃない、一見「ムダ」なものが本当は価値有るもの、ってことやない。でも、「ムダ」を価値あるものにするには、それ相当の工夫が必要やけどね。
e:都会では、「緑」もある程度のスケールを持たんと「ゆとり」にならん、ってことを言いよるわけ?
D:「緑」もスケールだけが有効な要素、ってわけやないけど、公園に木さえ植えれば終わり、ってのも困りもん、って思わん?
n:アクロスの「アトリウム」は、どこがどういう風に良い感じ、なんやろう?
D:アクロスの「アトリウム」は、巨大なゴシック聖堂の身廊を模したみたいやね。その辺とあのスケール感が『ほっ』とする空間を成立させている、ってことやろう。建築的に言うと
「教会の静謐感を、抑えた内装素材で演出し、ゴシックの複雑なアーチを、上昇する程後退する壁のカーブやステップガーデンの架構に変換し、天空からの光を三日月トップライトから受け、そこからの自然光が柔らかく身体に降り注ぐ」
ってことになる。
n:えらい気取った説明やね。でも確かに、あの「静けさ」やあのスケールが「身体に気持ち良い」、ってのは分かる様な気がする。
e:でも、「アトリウム」に座り込んでその静寂を感じる、って感じじゃ無かね。何かよそよそしい感じがするし...
n:あの回転ドアは、入りづらかね。入口のあの大きなガラスを無くしてしもうたら、もっと良うなったちゃない。そしたら、「エルガーラ」より数段感じの良い「抜け路」になったちゃろうけど。管理上色々問題になるっちゃろうけど....
D:結論を出すと、アクロス福岡は、建物としては評価できるけど、福岡の都市軸からみたときその位置については問題有り、ってことやね。
e:5〜60年したら福岡市役所もアクロス福岡も建替えになるやろうけん、そん時は充分検討して欲しかね。
n:そん頃は、俺達もう生きとらんよ。