ベートーヴェン中期の傑作ピアノ・ソナタ。フランスでは《曙(夜明け)》と呼ばれているそうで,この曲の第3楽章へ入るときの開放感はまさにそんな感じなので納得。そういったドラマ的演奏効果も高いです。
ただ,私が好きな《ワルトシュタイン》はそれとは違う。そもそもこの曲に心惹かれ,ベートーヴェンの曲の中でも特に愛聴するようになったのは,テレビで見たプロではないある方の演奏でした。しみじみとした味わいで語り始める和音のリズムを聞いたとき,この方の人間的な大きさをその中に見たような気がしたのです。この曲には力強く劇的な語り口よりも,弱い私をゆったりと大きく包み込んでくれるかのような人間的味わいのにじみ出た演奏で聴きたいなぁ,と。
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
DECCA 1959年録音
名盤・愛聴盤
やはりスタンダードな名演ならバックハウス。バックハウスの演奏は速めのテンポの中にも落ち着きがあって,私が理想とする演奏からも遠くないです。
CDは《悲愴》《月光》《熱情》のいわゆる3大ソナタとカップリングになってる,POCL9820(限定,1000円,96年4月)がお買い得だけど,入手困難。その後《テンペスト》《告別》とのカップリングでも出たけど,POCL9912(限定,1000円,97年9月),これもかなり売れたようで入手困難。現時点で分売で手に入れるのはむつかしいかなぁ・・・。
全集はリマスターされてPOCL4731〜4738(8枚組)(12800円,99年6月)で出てます。
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
DECCA 1969年ライヴ録音
『バックハウス/最後の演奏会』に入っている,6/26の演奏会のもの。私にとっては名盤とか愛聴盤とかいった次元を超えた究極の1枚。バックハウスはこの演奏の約1週間後に亡くなっているから,体調は万全でなかったでしょう。(事実CD2枚目の6/28の演奏会では曲の途中で中断している。)ミスもあります。それでもこの盤を評価したいと私が思うのは,この曲を内面から昇華したような優しさと大きさを感じるから。そういう幻想(?)を私に抱かせるだけの充分なものはあると思うのです。
『バックハウス/最後の演奏会』,POCL9941〜9942(2枚組)(限定,2000円,97年9月)。
クラウディオ・アラウ(ピアノ)
PHILIPS 1984年録音
愛聴盤
アラウ81歳のときの録音。晩年はこの曲をよく弾いていたらしいです。
ゆったりしたテンポで,はじめから美しい音色を聞かされて,もう感激!! 強弱のつけ方も間の取り方も慈愛に満ちていて,この演奏に寄り添えばすべてを許してもらえるような,そんな感触。はっきり言ってこれだけは人に薦めたくない,自分一人だけで聴きたい宝物の1枚。
PHCP3877(2000円,94年12月)。カップリングはアンダンテ・ファヴォリと30番。私の好みと同じ,すばらしい!
ラドゥ・ルプー(ピアノ)
DECCA 1973年初出
さすがルプーというか,その美的感覚,特に第2楽章の沈み込む感じなんかは評価できるのだけれど,私の持つ曲のイメージとの隔たりは大きいようで。
エミール・ギレリス(ピアノ)
Deutsche Grammophon 1972年録音
たぶん一般的な名盤。ギレリスのベートーヴェンは力強い輝きとほのかな暗さが魅力だけど,この曲に関しては私の好みと違っちゃいますねぇ。
フリードリヒ・グルダ(ピアノ)
Amadeo/PHILIPS 1967年録音
第1楽章がすごく速いです,体感的に。面白い演奏だとは思うけど・・・。
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巫音 月雪
fusetan@mti.biglobe.ne.jp
00.10.24