ブラームス:交響曲第1番


 当時「ベートーヴェンの第10交響曲」と評されたこの曲を完成させるまで,ブラームスは構想から20年余りも費やしてます。それだけベートーヴェンの9つの交響曲の存在が偉大で,なおかつ交響曲作家として名をあげるにはそれを越えなければならないというプレッシャーも相当なものだったのでしょうね。そしてブラームス43歳の1876年に初演されたこの曲は,ブラームスの4つの交響曲の中で今日最も好まれているものでしょう。ポイントはやはり,ベートーヴェンからの交響曲の流れをくむ闘争→勝利という構図にあるでしょうか。
 ただ正直,私はこの曲,最初は好きになれませんでした。この曲に対して,上記の作曲の経緯に加えて,堅固な構成だとか,低音重視のドイツ的な和声だとか,なんか面白くなさそうなことばかり予備知識がついちゃっていたからでしょう。だから,こんなつまんない曲がクラシックの名曲だったら,私にはクラシック向いてないかも・・・と思いつつ,この曲のCDは半年くらい封印されていたのでした。ところがその後,私のコンセルトヘボウ管好きの為せる技でしょう,ベイヌム指揮の同曲が1000円盤で出ることになり,ベイヌムのステレオ盤は希少だから・・・ということで,内容には期待せずに(笑)購入してみたところ,これがよかったんですね(下のCD評を参照)。おかげで私は,ブラームスの4つの交響曲はどれも好きになりました。また,このことが同曲異演を集めるようになったきっかけでもありました。


おすすめ・お気に入りのCDたち


エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム指揮
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
PHILIPS  1958年録音

名盤
 きびきびしたテンポでこの曲の構成感を保持しながらも,特筆すべきはガチガチの身振りのこの曲に時折〈破れ〉を見せるところ。(顕著なのは第1楽章コーダ(11:34あたり)のへなへな(?)感。ほかの演奏にはこういうのないです。)なんだ,ブラームスだってふつうの人じゃないか(あたりまえ(笑))。交響曲というお堅い衣装に身を包みつつも,ふっと人間の弱さが見え隠れする,そんなところに共感できるようになってからは,ベートーヴェンよりもブラームスの交響曲を愛聴するようになったかな。
 なお58年とステレオ最初期の録音ながら,音に不満はなし。ベイヌム時代のコンセルトヘボウ管の音色が味わえます。

 CDは大学祝典序曲とのカップリングで,PHCP9733(限定,1300円,99年11月),PHCP9546(限定,1000円,97年4月)で出てます。前者はリマスター盤,後者は通常盤。


キリル・コンドラシン指揮
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
PHILIPS  1980年ライヴ録音

愛聴盤
 いやぁ,響きがすばらしい! これだけで愛聴盤決定(笑)。コンドラシンという指揮者は弦の統制には力を注いでるように聴こえるけど,管はけっこう放任?(ほかのCDでも同じ印象を持ったので) おかげで木管が浮き立つように聞こえてきて,メロディ以外でぴ−ぴーと迫り来る様は美しいけどヘン。弦は表情づけ巧みで,抑制したりテンション上げたりともうたいへん。本当にこの演奏は指摘したいところだらけ,聴きどころ満載で困ってしまいます。
 しかしこのCDについて取り上げている文章はなかなか見かけなかったので,こんなCD愛してるのは私だけ? と思ってた折,見つけました。『名指揮者120人のコレを聴け!』(洋泉社MOOK)のコンドラシンのページです。なになに,「第4楽章コーダのコラール部分で〈抜かれる〉のは大変不気味だ」とかありますね。気にしたことなかったので改めてほかのCDと聴き比べたりしてみると・・・ほんとだ! このCDだけ1音弱奏にして抜かれてる。さすがにこれはかなりヘンな演奏なんだなぁ,と改めて思うのでした。でもそれ以前に,こんなことすら言われないと気づかない私の聴き方って何?(笑)
 なおこのCD,ライヴ録音特有の会場ノイズは聞こえますが,それほど問題にはならないでしょう。

 CDはメンデルスゾーン:交響曲第4番《イタリア》とのカップリングで,PHCP9242(限定,1450円,94年11月)です。この国内盤は入手困難かも。


クルト・ザンデルリンク指揮
ドレスデン国立管弦楽団
RCA/BMG  1971年録音

 ゆったりとしたテンポで淡々と進行。ハイテンションなコンドラシン盤を聴いた身には,まるですべての盛りあがりを否定しているかのような「大人のブラームス」。なんて書くとすごくつまらない演奏に聞こえるけど,ザンデルリンクの決して重たくならない見通しのよい音響づくりと,シュターツカペレ・ドレスデンの音色との組み合わせはそれなりに魅力的。それにこの演奏,なんだか歯を食いしばって前のめりになりながらもひたすら落ち着きを維持してるように聞こえて,そう思ってしまうとあちこちで笑えちゃったり。こんな邪悪な聴き方で喜んでるのはたぶん私くらいでしょうけど・・・。なお,4楽章最後まで聴き通せばちゃんと盛り上がりますのでご安心を。

 輸入盤CDは,CLASSICAL NAVIGATORシリーズで出ているのが現役盤と思われます。交響曲全集は,74321 30367 2(3枚組)。分売は悲劇的序曲とのカップリングで,74321 21285 2。私は全集のほうを持っていて,たしか2000円ほどでした。
 国内盤ではDENONから廉価盤で出てるのが同一音源の気がするけど,未確認。


その他所有のCDたち

 とりあえずブラームスだから,どれを聴いてもそんなにつまらないことはないと思います。もちろん私の場合,この曲に慣れてからは,ということだけど。


ベルナルト・ハイティンク指揮
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
PHILIPS  1972年録音


カール・ベーム指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
Deutsche Grammophon  1975年録音


レナード・バーンスタイン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
Deutsche Grammophon  1981年ライヴ録音


ジョン・バルビローリ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
EMI  1967年録音


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巫音 月雪
fusetan@mti.biglobe.ne.jp

00.10.24