コンサート評

ハイティンク指揮
シュターツカペレ・ドレスデン

2004年5月21日(金)19:00 サントリーホール
ブルックナー:交響曲第8番

2004年5月22日(土)14:00 サントリーホール
ウェーベルン:パッサカリア
ハイドン:交響曲第86番
ブラームス:交響曲第1番
ブラームス:ハンガリー舞曲集第1番(アンコール曲)


 今回,私の最も好きな指揮者であるベルナルト・ハイティンクが,シュターツカペレ・ドレスデンという現在望み得る最高のパートナーと来日,ということで,行ってまいりました。
 もっとも,チケットを買ったのはゴールデンウィークに入ってからのことでした。というのも私にとって最大の目当ては指揮者ハイティンクであったので,彼が来日できないのでは? という噂があってはS席23,000円なんてポンと出せるものじゃなかったのです。しかしいよいよ来日もほぼ確実となり,チケットもS席は残っているということで,今回の来日で唯一ブラームスの交響曲第1番をメインに据えた22日に照準をあわせ,名古屋公演は無視して(笑),21日も会社の休みを取って万全の構えで東京に向かったのです。

 そういうわけだったので,もともと21日の公演は聴く予定ではなかったのです。その日サントリーホールには,赤坂のホテルから下見に向かっただけだったのですが,開演5分前でもチケットが残っているということで,どうせこの後何の予定もないし・・・と,つい買ってしまったのでした。ちなみに席は1階1列25番,要は中央の最前列です。ステージに近すぎて弦の人しか見えない場所だったのですが,憧れ(?)のハイティンクを間近に見られる絶好のポジションでもありました。

 正直まだブルックナーの交響曲は私には良さがわからないところがあるので,この日はハイティンクやオーケストラの様子をじっと眺めて,特に響きに注目して聴いていました。やっぱりブルックナーは音量で勝負の曲だよなぁ・・・という実感を持っちゃいましたが(ブルックナーの良さを感じるには私の家のオーディオ再生環境では厳しいという意味),その強奏時でも響きの美しさを損なっていないのに驚嘆しました。さらにこの長大な曲で,後の楽章に向かうほどすごい! とブルックナーが良くわかっていない私にすらそう思わせるその集中力。終演後,鳴り止まない盛大な拍手とブラボーの声がまた印象的でした。おそらく本当にすごい演奏だったのでしょう,と聴いてるくせにこの程度の感想しか抱けていない自分に,後々後悔しそうです(笑)。でもその分,他の人よりハイティンクの指揮する姿に集中できたかな?
 でも本当,まだ純真な子供だったら「将来は指揮者を目指す!」とか言いたくなるような演奏でした。

 そして22日,この日は後輩に当日券を買わせて巻き込みながら,待ちに待ったブラームスを聴きました。この日は当日券も早々に完売で,客入りも良かったようです。やっぱり土曜日だからかな。この日の私の席は1階16列34番,オーケストラ全体が見渡せるポジションです。

 ウェーベルンのパッサカリアは初めて聴く曲だったのですが,思ったより聴きやすい曲だな・・・と印象を持ったのですが,どうもインターネットで他の人の感想を見てると,「そういう風に演奏した」という側面もあったようです。それはそれで,曲の構成を重んじるハイティンクらしい気も。
 ハイドンでは想像していたよりもやや速いテンポを取ったように感じたのですが,曲想の変化を指揮者自らの身振りで持って,小ぶりな編成になったオケをうまくコントロールしているようでした。というか,ハイティンク元気だな,と思いました(笑)。まぁこちらも,ほとんど知らない曲だったから評価しづらいところでもありますが,大きな拍手と早くもブラボーの声が聞かれたのでした。

 20分の休憩を挟んで,いよいよブラームスです。この前発売されたLSOとのライヴ盤が素晴らしかったので期待も高まるところだったのですが,冒頭から実にいい響きで入ってきました。この日のハイティンクの指揮ぶりは実に元気で,オケもパワフルな反応を見せていたため少々私は気押されするところも(第2・3楽章ではテンポも速く,オケもぎりぎりだったように感じた場面も)あったのですが,それでも丁寧さと優しさというこの指揮者の美質は充分に出ていたと思います。特にブラームスでは力強さの中に「優しさ」を感じられるのが貴重だと思っているので,これを実演で聴くことができたのは幸せでした。私もこの日はスタンディング・オベイション。
 そしてアンコール曲。ハンガリー舞曲なのは裏情報?で知っていたのですが,有名な第5番かと思ったら第1番でした。私はこの曲,ハイティンク/コンセルトヘボウの録音が大好きで,その響きの良さったら! それがこの日,オケこそ違えど聴けたのです。もう冒頭の弦の音からしてぞくぞくきました。低弦までしっかりと絡み合ったその響きは,まさに私が求めていたものでした。最後の最後にいいプレゼントがもらえたのでした。
 終演後,人がぼちぼちと帰り始めても,私の周りでは(もちろん私も)惜しみなく拍手を送っていました。楽団員がステージから去った後も,その拍手に応えて現れたハイティンクにさらにスタンディング・オベイション! 会場は譜面で顔を隠して去っていく(最後という合図らしい)ハイティンクを見送った後も,熱気が残っているようでした。


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巫音 月雪
fusetan@mti.biglobe.ne.jp

04.05.24 初稿