CAETANO VELOSO

Live in Japan 2005 A Foreign Sound

2005年5月25日 東京国際フォーラム ホールA


俺的、最後の大物

 毎年のフジロックのおかげで、私が生で観たことがないアーティストというのは激減してまして、カエターノ・ヴェローゾは私にとって「最後の大物」です。
 前回の来日は1997年の夏。当時はまだインターネットを始めたばかりだったので、情報収集力が弱く、来日を知った時には既に終わっていた(笑)。あれから待つこと8年、ついに3度目の来日です。アメリカン・ポップスをカバーした新作“A Foreign Sound”のツアーで、日本は名古屋、大阪、福岡と回って、東京で3回の公演。東京の最終日を観に行くことにしました。
 会場の国際フォーラムって、東京駅から地下道で直結しているのですね。仕事の都合のため、18時30分頃に東京駅に新幹線で到着したのですが、19時の開演にギリギリ間に合いましたよ。平日夜の公演なので、私のように仕事帰りのサラリーマンが多いかなと思ったのですが、スーツ姿の男性はほとんどいない。オシャレそうな感じの大人が大勢いて、「サラリーマンじゃない中年男性が、東京にはこんなに生息しているのか!?」と妙な感心をしてしまいました。


座ったままのカエターノ

 ステージ上のセッティングは非常にシンプル。ドラムパーカッションベースギターが2人。そして、ジャキス・モレレンバウムチェロカエターノ本人のギター。7人分の楽器があるだけで、舞台装飾的な物は何もない。そして、登場したカエターノは、舞台の中央でいきなりイスに座って歌い始めてしまった。
 私はカエターノのライブ・ビデオは全部持っているので、過去のツアーに比べるとちょっと手抜きじゃないの?と正直思ってしまった。“prenda minha”や“noites do norte”のツアーでは、5〜6人のパーカッション部隊が叩き出すリズムとカエターノが歌う美しいメロディーの融合が非常に魅力的で、また、舞台装飾と一体になるようなカエターノの独特のアクションが、力強いメッセージ性を感じさせてくれた。今回はパーカッションが1人だけ、という時点でちょっとガッカリだったんだったけど、ギターを弾かない曲でもカエターノがイスに座ったまま歌うのを見て、「おいおい、なんか違うだろ?」とツッコミたくなってしまった。
 考えてみれば、カエターノももう62歳。立派な老人だ(笑)。体力的に2時間のコンサートを立ったまま歌い続けるのはツライ、ということなのだろうか? それとも、今回の「アメリカのポップスを歌う」というコンセプトでは、座ったまま歌う方が雰囲気に合う、ということだったのか?


伝統と先鋭と

 期待値が極限に高かっただけに、ついつい文句が先に出てしまいますが、ライブ全体としてはさすがに素晴らしかった。
 ポール・アンカの“ダイアナ”をあんなに小粋に歌いこなせる歌手が他にいるか? そして、“ダイアナ”と同列にニルヴァーナの“COME AS YOU ARE”を取り上げる先鋭的なセンス。カエターノにしか作り得ない世界ですよ。
 ライブ冒頭からイスに座ったままだったカエターノは4曲目の“COME AS YOU ARE”でついに立ち上がり、「メモリーア、メモリーア」のリフレインをノーマイクで歌います。ここは当然合唱ポイントだと思ったのだけど、観客の皆さんはなぜか無反応。ブラジル音楽ファンにとっては、ニルヴァーナなんてどうでもいいのか?
 今回のツアーの性質上、半分以上は英語の曲だったけど、カエターノの中性的な声には、やはりポルトガル語の柔らかい響きが似合う。圧巻は“HAITI”。重いリズムとカエターノのラップのようなボーカル、静と動の対比が感じられる演奏は一級品のファンクだ。
 そして、本編のクライマックスは、DNAのカバー“Detached”とアート・リンゼイがプロデュースした“O Estrangeiro”。アメリカン・ポップスのカバー企画の最後をアート・リンゼイ絡みの過激な楽曲で締めるあたりが、「歌うポップ・アート」と言われるカエターノの面目躍如と言うべきか。カッコ良すぎる。
 アンコールのラストは“Terra”。これは会場中が大合唱になりましたね。


次の来日はあるのか?

 多分、今回のツアーを観たほとんどの人は「ポルトガル語オリジナル曲をもっと聴きたい」と思ったんじゃないですかね? 私もアフロ・バイーア的にパーカッションが炸裂するライブを観てみたい。
 じゃあ次の来日に期待、となるわけですが、問題はカエターノの年齢だ。50歳を過ぎてから進化のスピードを増してきたカエターノだから、まだまだ老け込まないとは思うけど、次の来日が5年後だとしたら、その時はもう67歳だよ。いくらなんでもアーティストとしてのピークは過ぎているだろう。
 「粋な男」が「粋な老人」(笑)になってしまう前に、バリバリのブラジル・セットでの再来日を頼む。マジで。

 



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