昨年夏にアルバム・リリースなしで解凍ツアーをやった角松ですが、新作発表に伴うこのツアーでついに本格復活と言えるのでしょう。実はチケットの一般発売日に私は東京にレコーディングに行っていて、買えなかったのですが、新潟の角松ファンの方々の御好意でチケットを譲って頂きました。KWSのまどさん、みつぐさんに大感謝です。
前回のツアーで何かと物議を醸し出した(大変だったのよ)このレポート・コーナーですが、一応私自身もメジャー・リリースを果たし、「エセ評論家」から一歩脱却した(笑)つもり。そんな私に新生・角松敏生はどう響いてきたのか?
先に書いておくけど、結論的にはよかったんだよね、これが。メンバーはいつもの通りでした。
江口信夫(Dr)
青木智仁(B)
浅野祥之(G)
小林信吾(Key)
友成好宏(Key)
田中倫明(Per)
春名正治(Sax)
山田洋(Manipulater)
みやうらかずみ(Cho)
高橋かよこ(Cho)
ライブはアルバム通り、角松抜きでインストの“TIME
TUNNEL”でスタート。上手い、上手すぎるよ(ガンダム3のカイ・シデン風に読もう)。前回イマイチと思った江口氏のドラムもいい感じのハネ具合で、青木氏とのコンビネーションもバッチリ。気持ちのいいグルーヴと、ズバッと切れ込んでくるフィルがカッコよかったです。そして、青木氏のベースが絶好調で凄かった。青木智仁といえばスラップですが、今回は指引きも真剣にカッコよかったです。私の10年以上の角松歴の中でも、ベストではないか?という演奏でした。
“TIME
TUNNEL”途中でドラムとパーカッションの台が左右に動き、角松が逆光の中から登場。この仰々しい仕掛けに私は爆笑してしまいました。
で、新作からは沖縄物の“風のあやぐ”以外を全曲演奏。旧作からは、“Take
It Away”“I Can't Stop The Night”“花瓶”など渋い選曲でした。
“花瓶”はよかったですね。原曲は打ち込みバリバリのアレンジなので、今回も一応同期演奏をしていましたが、同期臭さがなくて、迫力あるサウンドでした。今回は全体的に同期関係がよく練られていて、打ち込みで出すべき音と、出すとカッコ悪くなる音のチョイスが成功していました。“ALRIGHT”での打ち込みドラムと生ドラムのミックスなんか見事だったし、“Lunafairymiena”ではジェリー・ヘイのホーンをサンプルして使っていたと思いますが、やっぱりあのサウンドはシンセでは再現できないし、サウンドの根幹となる重要なパートだから、サンプリングは大正解だと思います。
全部生で演奏した曲も何曲かあり、本編ラストの“After 5
Clash”、アンコール1曲目で演った“Best
Of Love”は最高の演奏でした。そう、俺が聴きたかった角松バンドはこれなんだよ! 嬉しかったです。
それにしても“After 5
Clash”での小林氏のソロは本当に凄かった・・・
ライブ中盤での小林・友成両氏によるデュオ・パートの間に、ステージにはDJセットとシンセ・ドラムがセッティングされ、またまた始まっちゃいましたよ、問題の角松DJタイム。オールドスクールなヒップホップ・ビートをバックにスクラッチ&シンセ・ドラム・ソロを角松が披露し、だんだんとバンド・メンバーも加わってきて、そのまま“I
Can't Stop The Night”になだれ込む、という趣向でした。
今回はいいライブだったと思うけど、やっぱりあのDJプレイは余計だ。“I Can't Stop
The
Night”でスクラッチしながら歌うというチャレンジは、「そんなボーカリストは世界中で角松しかいない」という意味では認めるけれども、スクラッチの技術自体は前回のツアーから全く進歩なし。DJを加えてハイレベル&ハイブリッドな演奏を聴かせるバンド(例えばBECKのバンドとかね)というのは今や世界中に沢山いるわけで、中途半端なトライならやめた方がいい。どうせやるなら、世界最高水準の演奏をするべきだ。
今回は定番“Girl In The
Box”は無しでしたが、アンコール・ラストはやはり“Take You To The Sky
High”。これは93年の武道館凍結ライブと同じ打ち込みのままでは?という感じのサウンドでしたが、これをやらずには角松のライブは終わりませんから、ご愛敬ということで。
そして、ダブル・アンコールは“崩壊の前日”。名曲だと思うけど、あまり頻繁に演奏しないほうがいいんじゃない?“Desire”と“崩壊の前日”は「この夜限り」というか「ここ一番の時だけ」歌ってほしいように感じます。
全体として、前回のツアーで感じた不安はほぼ払拭された演奏でしたが、今後の展開については、まだ疑問は残りますよね。新作はオリコン初登場3位(1位は浜崎あゆみ、2位はJ-FRIENDSなので、角松本人は「実質1位(笑)」と言ってましたが)とはいえ、ライブに若い客層が増えたというわけでもない。新作のアルバムでも今回のツアーでも、「俺はもう角松サウンドでいくぜ!」という一種の開き直りみたいなものが感じられるし、それが彼の個性なのでしょう。
この角松サウンドがクラブで踊っているような若者に支持されるとは思えませんが、そんな若造どものために彼は音楽をやっているわけではないのでしょうし。しかし、このままファン共々年をとっていくだけでは悲しいわけで、長野五輪閉会式以上の大爆発をもう一度期待したいところです。