PRINCE

WORLD TOUR 2002

2002年11月22日 Zepp仙台


80年代はプリンスの時代だった

 プリンスというアーティストにどれだけの思い入れがあるかで、その人の年齢層が分かってしまうのではないだろうか?
 私(1970年生まれ)の世代より上の人なら、間違いなくプリンスを「天才」と思っているだろうが、10歳若い人にとっては「バットマンの人」程度でしかないのかもしれない。
 プリンスが“Purple Rain”をリリースしたのが1984年ベストヒットUSAで洋楽を聴き始めた新潟の田舎の中学生にとって、プリンスは衝撃でしたよ。“Darking Nikki”の歌詞を辞書で調べては友人と騒いだものです(笑)。
 最初はただの変態(笑)かと思ったプリンスですが、80年代の作品は全て大傑作。プリンスがいなかったら、世界の音楽シーンは全く違う物になっていただろう。
 プリンスの初来日は1986年で、田舎の高校生だった私はもちろん見に行くことなど出来ませんでしたが、大学生になってから、1989年のLovesexyツアー1990年のNUDEツアーを東京ドームで体験。当時のプリンスのライブは、凝った演出と舞台装置で単なる音楽を超えた一大スペクタクルでしたが、アリーナの後ろの席からでは、ステージ上で何が起きているのかイマイチ分からず、悔しい思いをしたのを覚えています。特にLovesexyツアーは仙台市民体育館での公演があった(当時の私は仙台在住)のに、東京ドームまで観に行ってしまい、「仙台の小さい会場で観ておけばよかった」と大変後悔したのでした。
 そんな天才プリンスも、90年代に入ってからDJ的な編集系のミュージシャン(BECKあたりが代表格でしょうか)が台頭してくるにつれ、パワーが落ちてきます。いや、プリンス本人には変わりがないのに、音楽界の流れが変わってしまったのかもしれません。


懐メロのプリンス?

 そんなわけで、ここ10年ほどは新作が出ればCDを買うけれど、プリンスはもう過去の人という気持ちでいたので、今回の来日も最初は行く気がありませんでした。
 プロモーターのJECインターナショナルのサイトによれば「音楽界No.1のカリスマが約10年ぶりに自身のアーティスト名をプリンス名義に戻し、ファン待望のクラシック・ヒットを含むワールドツアーを敢行!」ということだそうで、これを読むとなんか嫌な予感しませんか? 懐かしのヒット曲で盛り上がるなんて、あの孤高の天才、戦慄の貴公子プリンスがやることではないですよ。そんなプリンスなんて見たくない、と思ったのですが、公演日程の中にZepp仙台があるじゃないですか。ライブハウスでプリンスを観れるなんて2度とないかもと思い、新潟から仙台まで行って参りました。


殿下まで10メートル

 会場のZepp仙台は、2階の椅子席と1階のスタンディングフロアというZepp東京と同じ構成ですが、1階のフロアが結構狭い。全体で1000人入るかどうかという感じでした。急遽仙台に行くことにしたので、予約したチケットは当日券売り場での引き換えとなりましたが、通常の当日券も普通に売ってました。1000人程度のキャパの会場でソールドアウトにならないとは、う〜む・・・
 整理番号順での入場で、会場内は前後の2ブロックに柵で分かれていましたが、場内でチケットチェックがあるわけでもなく、遅く会場入りした私も前のブロックに潜入成功。ステージまでの推定距離は約10メートル。「目の前に殿下が・・・」と想像するだけで、気持ちが盛り上がってきます。
 ステージ左後方にずっとローディーがいるなぁと思っていたら、なんとステージ上にDJブースがあって、開演前の音楽を流しています。このDJは、そのままバンドのメンバーとして演奏にも参加。あのプリンスがDJを加えるなんて、なんだか時流に流されているような気もしますが、なかなか効果的にスクラッチやSEを加えていました。
 バンドの編成は、中央にドラム、左手にDJキーボードベース、右手にホーン隊3人プリンス用のキーボード。10年前の豪華なステージからはすっかり様変わりで、バンドも舞台も超シンプル。しかし、ホーン隊は超豪華メンバーで、メイシオ・パーカー、P-FUNKのグレッグ・ボイヤー、Revolution時代からの仲間エリック・リーズ。
 まずはドラマーが登場し、DJプレイに合わせて肩慣らし。キーボードが加わって、ノイジーなアナログ・シンセ音(NordLead2を使用)で、音響系、エレクトロニカとも言える空間を作っていきます。やがて、ベースとホーン隊が加わり、新作“Rainbow Children”系の4ビート・ジャズに突入。しかし、さすがはプリンスのバンド、つまらないジャズになるはずはなく、切れ味鋭いファンクを感じさせ、DJもスクラッチをビシビシ決める。
 そして、ついにプリンス登場! 目の前に殿下が!!
 殿下は全身白の衣装ですが、かつての宝塚みたいなフリフリの服(笑)ではなく、ダボダボのセーターみたいなカジュアルな感じで、名前通りの「王子様」ルック。
 途中で衣装替えした後は、黒のタンクトップ。生で見る殿下のワキ毛に妙に興奮した私でした(笑)。もう40歳を過ぎているはずなのに、殿下は全然老けませんねぇ。昔に比べると小綺麗(笑)になり、むしろ若返ったような印象でした。


プリンスとは音楽そのものである

 殿下を間近に観た時点で、私の心は昇天していた(笑)ので、覚えている範囲で演奏した曲を書きたいと思いますが、“Rainbow Children”はあまり聴いてないので、分かるのは昔の曲ばかり。なんだよ、俺の方が懐メロモードじゃねーか(笑)。
Bambi(from 愛のペガサス)
Take Me With Tou(from Purple Rain)
Purple Rain(from Purple Rain)
Housequake(from Sign Of The Times)
Strange Relationship(from Sign Of The Times)
Sign Of The Times(from Sign Of The Times)
Pop Life(from Around The World In A Day)
 カバー曲は、メイシオ・パーカー参加ということで、PASS THE PEAS(JB's)、あと、演奏中は気づきませんでしたが、WHOLE LOTTA LOVE(LED ZEPPELIN)も演っていたようです。
 前半は“Rainbow Children”の曲を結構やっていたようですが、かなり即興的で、いわゆるジャム・バンドに近い感じ。今回のプリンスはダンスは無しで、ギターを弾くことが多く、「ミュージシャンとしてのプリンス」の姿を見せてくれました。ギターを弾いても、ピアノを弾いても超一流、ボーカルももちろん完璧で、特にファルセットは鳥肌ものの美しさ。
 普通のミュージシャンは、楽器を弾いたり、歌を唄って音楽を奏でるわけですが、プリンスは違う。プリンスが発する音の全てが音楽になる。いや、プリンスという存在が音楽そのもの。だから、プリンスにはミストーンが存在しない。ギターのノイズもシャウトも、そして顔の表情、手先の仕草まで、全てがプリンスの音楽そのものなのだ。


下界に降りた貴公子

 かつてのプリンスのバンドは、無名だけど有能なミュージシャンを集め、場合によってはプリンスのプロデュースでソロ・デビューさせていくような場でした。James Brownのようなキング的な立場を好む人だと思っていたので、プリンスのライブにメイシオやグレッグ・ボイヤーのような既に地位を確立しているミュージシャンが参加しているのは、非常に違和感がありました。しかし、最近はチャカ・カーンラリー・グラハムと一緒にツアーしていたとか。殿下も人間が丸くなったということなのでしょうか? ヨーロッパ・ツアーではキャンディー・ダルファーが参加しているそうですが、それは殿下の個人的なスケベ趣味だろう(笑)。
 メイシオがサックスを吹きながら上目遣いでプリンスを見ている姿を見ると、「かつてはJames Brownがいたメイシオの視線の先に、今はプリンスがいる」という事実に私はグッと来ました。JBのメイシオ、P-FUNKのグレッグ・ボイヤーというファンクの歴史そのもののプレイヤー達がプリンスと一緒に演奏しているというのは、今のプリンスの立ち位置を象徴しているように思います。かつては黒人も白人も関係ない孤高の天才だったプリンスは、今はバンドのメンバーと一体となって、超弩級のファンクを演奏しているのです。
 そして、プリンスの変化を最も感じたのが、本編ラストで、フロアから観客数人をステージに上げ、ダンスさせたシーン。かつての完璧主義者のプリンスなら、決して素人をステージに上げるようなマネはしなかっただろう。あのプリンスが「会場と一体化」的な演出をすること自体が驚きですよね。殿下本人が「次はおまえがダンス!」と指名するのだからビックリです。しかし、見事に会場を盛り上げるあたり、エンターテイナーとしてもやはり殿下は超一流。
 実はステージに上げられたのは仕込まれたサクラだったという話も聞きましたが、面白かったので文句は言いません。殿下本人に替わって股割りダンスを披露した男性、最高でした。(ま、そんな人がただの素人のわけないわな。)あと、盆踊りみたいなフリで、殿下から「おいおい、待て」と突っ込まれていた男性にも笑わせてもらいました。


パープル・レインで感涙

 MCも非常にフレンドリーな殿下。第1声は「I wanna be your DJ 」でした。「センダーイ!」も連発し、「This song for you」と言って、ピアノで弾き始めたのが“Purple Rain”。「懐メロのプリンスなんて見たくない」なんて言いながら、パープルレインで涙を流していた私はただのアホです。
 しかしですね、私のようにプリンスによって黒人音楽への眼を開かれ、学生時代にバンドで“Purple Rain”をコピーしたこともある人間にとっては、あの最後のコーラスを自分達が唄い、それをバックに殿下が目の前でギターソロを弾く場面で、ジーンとこないはずがないのだ。「俺は今、プリンスと一緒にパープル・レインを演奏している・・・」これが泣かずにいられるか!


本物のアンコール

 最初のアンコールラストでは、ギターをハウリングさせたままステージに置き、ノイズの渦の中を退場していくという、最近のロックバンドみたいな終わり方でしたが、本当のハプニングはこれから。客電が点いてからもアンコールの拍手は止まないものの、スタッフと大量のバイト君達が出てきて機材をバラし始めてしまい、「しょーがない帰るか」と思った瞬間! 殿下がアコースティック・ギターを1本抱えてステージに出てきたのです! 一部の観客から歓声が上がったので、何が起こったのかとステージを見ても、殿下は背が小さいから(笑)、スタッフに紛れていて最初は気づかなかったよ。
 ギターの音も最初は出なくて、スタッフが慌ててワイヤレスを繋いでいたので、本当に予定外のアンコールだったのだと思います。弾き語りで1曲演奏してくれました。曲名は分からんけど(笑)。殿下、本当はイイ奴だったんだなぁ。
 客層はやはり30代が中心で、ロックやヒップホップ系の若者がいないのが残念でした。これからの音楽を担う若者達にこそ、プリンスを聴いてほしいと思う。確かにプリンスは時代のカリスマではなくなってしまったけれど、その演奏技術、音楽性は現在の黒人ファンク界ではトップだろう。JBもP-FUNKも新しいものを生み出す力は既にないと思うけど、プリンスはバリバリの現役である。勝手に「プリンスは終わった」なんて思っていた私が間違っていた。今のプリンスの凄さはライブで体験しなければ分かりませんよ。

 



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