ディスク・レビュー 98年9月


artist

the brilliant green

title

the brilliant green

label

Sony Music Entertainment (1998)

 日本のチャート物は滅多に買わない私ですが、「これは買った方がいいんじゃない?」と本能的に感じた(笑)ので、ブリグリ買わせていただきました。日本語詩でのシングル2枚が強烈にカッコよかったけど、英語詩も含むアルバムの出来もかなりいい。クーラ・シェイカーばりのグルービィ・ロック。
 数年前なら「渋谷系」というマニアックなシーンで聴かれたはずのこのサウンドが、ヒットチャートでキンキ・キッズやラルク・アン・シエルと互角に戦っているという現象は、果たして望ましいことなのか?という疑問は感じますが、UKギターバンドの影響がついにメインストリームで開花する日が来た、という気がします。
 もしもボーカルの川瀬智子が可愛くなければ、こんなにバカ売れしなかったかも?と思います。才能のあるアーティストにとってルックスが良いということは、もしかすると不幸なことなのかもしれません。メジャーでの活動で彼らが消費されてしまわないよう祈ります。


artist

ORIGINAL LOVE

title

L

label

PONY CANYON (1998)

 田島貴男は終わったな、というのが正直な感想。
 テクノ、ドラムンベースを導入した新作で、かつてのオリジナル・ラブのイメージからすると、「なんのこっちゃ?」というサウンドですが、田島のようなDJ的な感覚があるミュージシャンがドラムンベースを取り入れる、というのはよく分かる。前作から田島は打ち込みを使い始めましたが、プログラミングもかなり細かくなった。
 しかし、1曲目のインスト曲でのマヌケなシンセ音、牧歌的なメロディーは、エイフェックス・ツインを意識しているのだろうと思いますが、エイフェックスのような「狂気」が全く感じられない。“Million Secrets of Jazz” の頃の田島はある種の「狂気」を確実に持っていたはずなのに、年齢とともに丸くなってしまったなぁ。
 ま、私は過去からの流れで一応田島の新譜が出たら買うけど、先入観なしでレコ屋で試聴したら、多分これは買わないな。


artist

ズボンズ

title

LET IT BOMB

label

QUATTRO/RICHTONE (1998)

 田島貴男が失ってしまった「狂気」を感じさせてくれるのが、ズボンズのドン・マツオ。
 私が初めてズボンズを聴いたのは97年のフジ・ロック・フェスだったんですが、いやもうビックリしましたよ。ほとんど予備知識無しで見たライブのあまりの強烈さにノックアウトされました。
 新作は昨年の“Welcome Back,Zoobombs”よりもライブ的な疾走感が出ていて、最高に気持ちいい。その爆裂サウンドの背後には本物のブルースとファンクが見える。世界的にも十分通用するはず。
 余談ですが、このズボンズの新作もブリリアント・グリーンも元サイデラ・マスタリングの小泉由香がマスタリングしています。最近私が購入した邦楽のCDの小泉由香率はかなり高い。要チェック!


artist

UNKLE

title

Psyence Fiction

label

Mo' Wax (1998)

 Mo' Waxのオーナーであるジェームス・ラヴェルがDJシャドウと共に作り上げたアルバム。ヒップ・ホップが示したブレイク・ビーツの可能性を究極的に突き詰めた傑作です。Mo' Waxというとトリップ・ホップのイメージがありましたが、このアルバムで聴ける音響工作のレベルは信じられないほど高い。アメリカのヒップ・ホップが失ってしまった実験精神はイギリスのMo' Waxに受け継がれたのです。
 サンプリングとブレイク・ビーツに興味のある人は必聴です。


artist

grooverider

title

mysteries of funk

label

HIGHER GROUND (1998)

 ドラムンベース・シーンではLTJブケム、ファビオと並ぶ代表的なDJであるグルーヴライダー。自身のレーベルPROTOTYPEのコンピレーションのリリースに続き、ついにメジャーから本人名義のソロ作がリリースされました。しかも2枚組。
 ロニ・サイズやゴールディーの新作もそうですが、ドラムンベース(略してムンベー)の枠を超えていこうとする姿勢がうかがえます。しかし、私はフロア向けのハードなトラックの方が好きですね。最近の私はムンベーは一時期ほど熱心にチェックはしていないんですが、やはり本物のクルーが作るサウンドはカッコいい。ま、2枚続けて聴くとさすがに飽きるけど。


artist

E.U.

title

Make Money

label

ESCAPE RECORDS (1996)

 久しぶりに発見したGO-GOのCD。E.U.が2年前にリリースしていたインディー盤です。配給はGO-GOファンにはお馴染みのLiaison。
 内容はライブではなくスタジオ録音ですが、相変わらずのGO-GOスタイルです。オリジナル曲以外にもホール&オーツの“I Can't Go for That”(原型はとどめてません)やカーティス・メイフィールドの“Feddie's Dead”をカバーしています。
 一般の方には全くお薦めできないCDですが、GO-GOマニアにとっては、GO-GOシーンの健在ぶりが確認できて嬉しい、という1枚ですな。


artist

CAETANO VELOSO

title

ARACA AZUL

label

PolyGram (1973)

 初めて買ったカエターノの昔の作品。実は私はアート・リンゼイと絡んで以降のカエターノしか持っていなかったのでした。
 内容はかなり前衛的というか、正直に言ってよく分からん(笑)。トライバルなサンバとトロピカリズモ的なエレキギター、弾き語りの綺麗なメロディー等々がサウンド・コラージュのように展開される。不思議な作品です。


artist

KRAFTWERK

title

AUTOBAHN

TRANS-EUROPE EXPRESS

label

Philips (1974)

Capital (1977)

 ついに買ってしまったクラフトワーク。実は意識的にこの頃のテクノは避けていたんです。「テクノやってます」と言うと、一般的にはYMOやクラフトワークみたいなイメージを持たれてしまって、それが嫌で。当時のテクノ(テクノ・ポップとも言い換えられるかな)とデトロイト・テクノ以降の現在のダンス・ミュージックとしてのテクノの間には大きな断絶があるような気がしていました。
 まぁ、YMOはともかく、クラフトワークの「ロボット」だの「コンピューターワールド」だのというコンセプトには全然共感できなかったので、今まで聴く気が起きなかったのです。しかし、最近の来日公演のレポートとか読むと「クラフトワークはかなりのキチガイ(放送禁止用語)らしい」ということが分かってきて、ムラムラと聴きたくなってしました。やはり「狂気」というのは重要なポイントだな。
 で、とりあえず全盛期の有名盤を2枚買ってみましたが、くそっ、カッコいいじゃねーか! ミニムーグの豊かな響きがなんとも気持ちいい。電子音なのにとてもヒューマンな感じがするのは何故だ。
 何も知らないで「エイフェックス・ツインの新譜だ」と言って聴かされたら、多分そのまま信じちゃうな。基本的な姿勢は共通しています。真にオリジナルなサウンドを創造できるのは、ほんの一握りの「天才的キチガイ」だけ、ということです。


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