ディスク・レビュー 98年11月


artist

ASTOR PIAZZOLLA

title

Tango : Zero Hour

label

american clave (1986)

 巷で「ピアソラ・ブーム」が起きているとは知ってはいたものの、「タンゴねぇ?」という感じで今まで聴こうとは思わなかったのですが、私が間違ってました。ピアソラ、凄すぎます。ピアソラを聴かないのは全ての音楽ファンにとって大きな損失だと断言できます。
 この作品はプロデュースがキップ・ハンラハンで、タンゴ云々というよりも、ノイズ・エクスペリメンタル系と同列に聴くことも可能です。ピアソラのバンドネオン、バイオリン、ピアノ、コントラバス、E.ギターによる五重奏団のアンサンブルは素晴らしく、緊張感はタダ事ではない。ドラムレスなのに強烈なリズムが感じられます。
 演奏者としてのピアソラもいいですが、作曲者としても本当に凄い。その曲からは、生と死、希望と絶対的な闇が同時に立ち昇ってくる。人生のドラマが目の前で展開されるようです。
 これこそ正真正銘の必聴盤。


artist

SPEED

title

All My True Love

label

TOY'S FACTORY (1998)

 ピアソラの後にスピードというのもどうかとは思うけど(笑)。
 今回の注目はやはり寛子と絵里子のソロ曲でしょう。“hiro”名義での寛子の曲“見つめていたい”は伊秩弘将の美メロ・メーカーぶりが爆発した名曲。“Steady”以来の久々のヒップホップ・ソウル系の曲で、Misia が好きな人なら必聴です。
 Eriko with Crunch の“冷たくしないで”は、MAXももうやらないようなユーロビート。日本の歌謡界でダンス・ミュージックと言えば、黒人系、ユーロ系、小室系(笑)しかないわけで、絵里子にはユーロビートしか残っていなかったということですかね? これはさすがにカッコ悪いと思うぞ。


artist

COLDCUT

title

LET US REPLAY

label

NINJA TUNE (1998)

 昨年リリースされた“LET US PLAY”のリミックス盤。日本向けの内容らしく、コーネリアスや砂原良徳など日本人によるリミックスが中心で、坂本龍一、細野晴臣、高橋幸宏の3人が揃って参加しているのも話題になっています。
 思わず笑ってしまうネタ使いのコーネリアス・ミックスがイチオシですが、教授のリミックスもアバンギャルドで意外なサウンド。コールド・カット自身によるライブ音源も2曲収録されており、これがまた強力です。こんなサウンドをライブでリアルタイムで組み立てるんだから、やはりコールド・カットはただ者ではない。
 今回もCD-ROM付きの2枚組で、彼らが開発した“VJamm”という映像ソフトのデモ版がで付いているんですが、残念ながらPC専用で私は使えません(涙)。ついにコールド・カットもWindowsに乗り換えてしまうようです。


artist

CORNELIUS

title

FM

CM

label

Trattoia (1998)

 マネー・マークやブラーのデーモンによる“Fantasma”のリミックス“FM”とコーネリアスが手がけたリミックス集の“CM”の同時リリース。当然2枚セットで買わざるを得ない。
 リミックスという言葉が一般化して随分経ちますが、現在のリミックス・ワークが本来の「リミックス」とは全く違う次元にまで到達していることが良く分かる企画ですね。本来は別のアーティストの曲を小山田がリミックスした“CM”の方がコーネリアスの作品として成立してます。ある意味無責任に制作できるリミックスの方が色々実験できるようで、通常のコーネリアスの作品よりも面白い(笑える)サウンドが聴けます。


artist

MISIA

title

THE GLORY DAY

label

BMG JAPAN (1998)

 MISIAのクリスマス向けミニ・アルバム。「MISIA+クリスマス=ゴスペル」という予想どうりの内容ですが、やはりいいですね。曲自体は黒人音楽よりも歌謡曲的な印象の方が強いですが、アーティスト・イメージと企画の意図がきっちりリンクしている好盤。


artist

BECK

title

MUTATIONS

label

GEFFEN (1998)

 あの“ODELAY”以来の新作ということで、どんなサウンドでくるのか期待していましたが、意外にも完全にレイド・バックした内容。コンピューター類は全く無しのリラックスした歌と演奏ですが、やはりただのポップスとはならない辺りがさすが。テクノロジーを駆使する才能とギター一本でも勝負できる才能が同居している人はやっぱり強いね。
 元々はインディーでリリースするために制作した作品のようで、ベックがゲフィンから与えられている制作の自由度にはビックリです。


artist

砂原良徳

title

THE SOUND OF '70s

label

Ki/oon Records (1998)

 電気グルーヴのまりんのソロ第3弾。「パンナム航空へ捧げる」という非常にモンドなコンセプトで、前作“TAKE OFF AND LANDING”と同じような内容。エレピや生ストリングスの甘い響きをフィーチャーした70年代的なサウンドを90年代のリズムを使って再生した、という感じ。前作からわずか半年でのリリースなので、ちょっと飽きる。音はカッコいいんだけどね。


artist

MOUSE ON MARS

title

autoditacker

label

too pure (1997)

 ドイツの電子音楽ユニット、マウス・オン・マーズの出世作。もっとエクスペリメンタルな音響系かと思ってましたが、音はクラフトワークに近いかな(やっぱりドイツ)。宅録マニアによるテクノ・ポップという感じで、好き嫌いがはっきりと分かれるタイプでしょう。ステレオ・ラブ辺りのモンド物が好きな人にはオススメですね。


artist

VA

title

BATUCADA CAPOEIRA

label

SOUL JAZZ RECORDS (1998)

 ブラジル物の企画盤で、サンバのリズム隊「バトゥカーダ」の演奏と、格闘技兼ダンスの「カポエイラ」の伴奏音楽を収録。SOUL JAZZ RECORDS というのは良質なコンピレーションを沢山リリースしている非常に信頼度の高いレーベルです。Mr.Bongoというレーベルからも同じようなバトゥカーダ物がリリースされていますが、ま、DJ向けというか、サンプル素材という感じですね。普通の人が普通に聴こうと思って買ったら、メチャメチャ損した気分を味わうでしょう(笑)。


artist

CHICO SCIENCE & NACAO ZUNBI

title

CSNZ

label

SONY MUSIC (1998)

 惜しくも交通事故死してしまったシコ・サイエンスの未発表曲集かと思ったら、なんと残されたナサォン・ズンビによる新曲も収録されているじゃないですか! これがまたカッコいいですよ。シコ・サイエンスのボーカルはないけれども、あの爆裂グルーヴは健在。
 シコ生前のライブ・テイクも大迫力だし、マジで最高です。ブラジル・ファンは必聴でしょう。


artist

CAETANO VELOSO

title

CAETANO VELOSO

label

PolyGram do Brazil (1968)

 カエターノが68年に発表したファースト・アルバム。トロピカリズモの誕生宣言となった“Tropicalia”を収録。30年前の作品とはいえ、その革新性は全く風化していません。カエターノの旧作が日本盤として一気に再発されたので、買うなら今です。


artist

DUB SYNDICATE

title

MELLOW & COLLY

label

LION AND ROOTS (1998)

 エイドリアン・シャーウッドのミックスが聴きたくて買ったんだけど、ミキサーは全然違う人でした。あれぇ、ダブ・シンジケートって、ON-U レーベルのバンドだったよなぁ? よく見たらレーベルも違うしなぁ(笑)。確かに内容はダブなんだけど、謎のCDです。


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