10月22日(水)
 

今日は、ドゥニャンのドタバタな日もなんとなく一段落して、ひま〜な日を過ごしてる。
窓から見る空にはかってに雲が浮かんで、お日様が薄いピンク色に染めている。
青空に向かって、小さな鳥が黒い影になって無心に飛んで・・・。ときどき白いおなかを見せている。

広〜くってあかる〜い空を見てたら、あくびが出てきた。
レースを拡げて筋曇が空にふんわかかかってて、下のほうではちょっと重たそうな綿雲が横たわってる。

自動車の通る音が遠くさざなみのように聞こえてくる。

むかしむかし、でもそんなに大昔じゃないむかし。
道路の舗装もない時代。長いスカートのすそをひきづって、往来を行き交っていた頃のこと。
馬車の轍が、今日みたいに天気の悪い日のあとは必ず残ってて・・・。
ロシアのおかあちゃんたちは何をしていたのかなぁ。
市場に行って、何日かかかって食べるほどのボルシチを作って、繕いものをして、週に一回くらいは共同のパン焼き場で、小麦のパンを焼いたのかしら。家には火を絶やさないよう気を配り。
姑さんや近所のおばちゃんたちと他愛もない噂話に興じたり、だけど本人にとってはおおまじめな一日を、な〜んも考えることなく毎日毎日やってたのかしら。
ロシアでは洗濯は年に何度かしかしなかったっていうから。
子どもたちが悪さをしたら、カラピーバっていうさわったらチクチクする葉っぱでお仕置きしたり、亭主の飲んだくれを愚痴ったり。
カメのなかに水を運んでくるのは大仕事。

想像すればするほど、日本のむかしのおかあちゃんたちの毎日とにているじゃあないの。
フランスだってイギリスでだって、み〜んなおんなじように生きてたんじゃあない?

ふと、見ると窓から見える森の木はほとんど裸になっている。
大きな水桶をかかえたかあちゃんたちも、ふと、森の木をみて落ち葉に年を数えたのかな。

それよりさ。スカートのすそが長かったから、裾をまくって泥よけして歩いていたのかしら。
ええーい。ままよ。とばかり、汚れても平気だったかナ。

ドゥニャンのおばあちゃんは明治女。毎日、夕方になると玄関に出て、打ち水の終わった道路を何をすることもなく眺めてたっけ。
「何考えてんの。」
なんて、たずねることもなかったけれど。そして、聞く必要もなかったような気がする。
ボーッと行き交う自動車を見つめた挙げ句、
「こうつと。」(さてと、という意味の奈良言葉)
と、どっかり降ろしてた腰を上げて、重そうに立ち上がった。
何することもない。ただ、立ち上がって別のところによっこいしょ。
横に座ると、
「つっかえ棒はないのになあ、空は落ちてきてくれはらへん。ありがたいこっちゃ。」

明治女は強い!!実感した。
いや、19世紀の女は世界各国強かったか。

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