1月19日(火)

どうもいけない。どうも調子が出ない。
バルセロナに行ったあと、ドゥニャンの調子が上がらないのだ。

マドンナの調子が上がらなかったのも、PCの調子が悪かったのも、影響しているが、何より悪いのは、バルセロナへ行って、自動車がスムーズに軽くのびのびと、交通法規を守りながら、歩行者を大切にして走っていたことだ。

モスクワでは、自動車は絶大な力を持っている。自動車には人間にない馬力がある。
速く走れるし、人を殺すことも出来る。
なにせ持っているものがエバれるお国柄だ。。
持つ者こそ、勝者である。

だから、勢い自動車は、力の有らん限り走る。90キロ100キロ。それ以上。
道路はカーチェイスの場所となり、ドライバーはに一台でも多くの自動車を我先に追い抜くため、ハンドルを切りまくる。



そうなのよ。そーそー。
で、もって、しょっちゅう、交通事故が起こる。
一日に何回見ることやら。



外へ出たら、自動車とふいにぶつからないために緊張する。
大きな道路を渡る時など、髪の毛が全部アンテナになってしまうくらい・・・。


で、もって、ドゥニャンは疲れる。
バルセロナへ行ってわかったことその1である。


バルセロナへ行ってわかったことその2。
人の表情が豊かで明るい。
ちょっと、すれ違ってコートの裾がこすれ合ったら、
「あら、ごめんなさいね。大丈夫?」
それも笑顔付きだ。

「オラ〜。」(こんにちは。と、言う意味。すぐ覚えた。)
目と目が合えば、皆あいさつを交わしてくれる。
ホっとする。相手は危険人物でないことを、あいさつによって知ることができるからだ。
スペインは泥棒の活躍する国だと聞いてはいた。だからちょっとだけ持ち物に注意をした。
でも、モスクワでは、同じアパートの入り口の人でも、決してあいさつは向こうからはしない。
押し殺したような、無表情の視線が、突き刺さるようにこちらをみつめている。
だから、誰がいい人なのか、誰を注意しなければならないのか、皆目見当がつかない。
アパートの暗い、いつ壊れてもおかしくないような、犬のおしっこの臭いがするエレベーターに、子どもたちだけでは、今でも乗せられない。
どんなことが起こるか、わからないからだ。

この緊張は一体何なのだろう。どこから来るものだろう。
それほど、モスクワは殺伐としているのか。

すれ違った人たちは、お互いに興味を持ちながら、決してそれをしらない人の前では表わさない。それに他人に関わらない。

驚いたことに、以前住んでいたアパートは全部で60世帯が住んでいた。もうこのアパートが建ってから40年以上経つので、2世代にわたって住んでいる家族も多い。
わたしの知り合いは、べつの知り合いを全く知っていなかった。
入り口は4つ。2番目と4番目の入り口に双方とも30年以上住んでいる家族である。しかも、同い年の女の子がいる。

これはまれなケースではない。

ご近所付き合いというものは、ほとんどしない。
ダーチャ付き合いというのが、親密らしいが、わたしたちはダーチャを持たないので知らない。


人の笑顔というものがこれほどにも、安心感と安らかさをもたらし、リラックスさせてくれるものだとはしらなかった。

バルセロナへ行ってから、ドゥニャンはとても日本が恋しくなってしまった。
なぜなら、ここで神経を尖らせて、暮している自分にハっと気づいてしまったのだ。
自動車を外に置いても、心配だ。巨大アパートの入り口でどんな人がどんな風に振る舞うか、外へ出るたびに怪しい人が、後ろを着けてきていないかどうか、確認していた。

ロシア人ドームの中の日本人だから余計に気を使う。
ほとんどのロシア人が日本人は金持ちだと思っている。
子どもの誘拐にも気を付けなければならない。中学生になった娘を、毎朝、毎夕、必ず学校まで送り迎えする。一重に、このロシアを信用していないから。そして、出来ないから。

一人で歩く時には催涙ガスの小さな瓶を持ち運んでいる。
警察や交通警察はしょちゅう町中で立っているが、人々を守るためではなく、何か悪いことをしていないか、疑うために立っている。
けれども、事件が起こっても、決して調べに来たり、助けたりはしてはくれない。

ねえ、これのどこが一体全体、良い国なのですか。
どうしてヘンヘンや娘たちはここが好きなんだろう。

ドゥニャンにはわからない。
バルセロナへ帰りた〜〜〜〜〜い。

もう一つ、言わせてもらうけど、病気になっても安心してかかれる病院はほとんどない。
予防を盛んに奨励するけれど、皆病院にかかりたくないからだ。
良い医師のいる病院は、日本より医療費が嵩む。


とにかく、ドゥニャンはロシアに疲れた。

外を見ると、いつまで経っても、同じモノトーンの景色。
そろそろ明るくなってもらいたいというのは、気が早すぎるのだろうか。

やっぱり、ロシアの冬はきらいだ。


次へ
モスクワ日記の表紙へ
ホームへ戻る