ムーティ/ミラノスカラ座オーケストラ演奏会


2000年6月2日(金)

演目
ヴェルディ:「運命の力」序曲
エルガー:序曲「南国で」
シューベルト:第九交響曲

指揮:リッカルド・ムーティ

場所:モスクワ音楽院大ホール


空港からの楽器搬入にトラブルがあり、一時間半遅れての開演。

指揮者登場の後、拍手が終わりいざ!というところで、ムーティはもう一度客席を向き、「スクーズィ(遅れてゴメンネ)。」
その次の瞬間、運命の力を暗示する金管の出だし。
この曲は、スカラ座で何度もやっている「おはこ」だし、演奏会でもアンコールとして演奏されるのを聞いたことがあるが
(フィラデルフィア管だったか)、 弦のトレモロに細かい表情をつけたり、テンポを微妙に動かしたりなど、入魂の演奏が
とても印象的。 ただ、序曲が終わると幕があいてオペラがはじまる、という感じより、序曲として独立完結した曲として
演奏しており、ある程度の盛り上がりの後には「まとめ」にはいっちゃったのが物足りなかった。

二曲目はエルガー。イタリアの美しい印象をもとに書かれた曲らしいが、スコットランドのきれいな湖を想像させるような
静けさや涼しさがとてもきれい。

三曲めがメインのシューベルト。出だしのホルンがおそるおそる音を出しているようで野暮ったく、音程も綱渡りでぎりぎ
り保っているような感じだったが、ヴィーンフィルのホルンを南国的に明るくした、といえばよいのか音色の輝き、なめらか
さは極上。控えめな出だしはこの曲にぴったり。
弦楽群は洗練されていて、輝きには欠けるがきめの細かさというか、中味に芯がつまっていて、第一楽章のはじめの方
で管が少しずつ変えながら主題を変奏していく時にヴァイオリンが伴奏をするところがあるけれど、そこではヴァイオリンの
「きざみ」がどんどん前にでてきていた。
ムーティは、しゃがむわ、ジャンプはするわ、指揮台をところ狭しとフル活用。
でもそれが「演技」ではなく、心からのものなので目につくどころかとても自然。
左手を上に挙げることはめったになく、それをするときはまさに曲の頂点で、オーケ ストラが反応するのが目に見えてわかり
「魔法の手」、と呼びたいくらい。
その手はもちろんフォルテシモのクライマックスだけでなく、その逆に静かなところでも発揮され、第二楽章の後半、ゲネラル
パウゼ(小休止)があってチェロとオーボエで回想風になったのち、第二主題にもどるところの寂寥感、郷愁とそれへのなぐさ
めの表現のなんとうまいこと!この日の演奏会の頂点はここにあったような気がする。
その後は、スカラ座オケの醍醐味を味あわせてくれる、シューベルトの歌の世界。

弦楽群は、第一、第二ヴァイオリンと、ヴィオラ・チェロ・コントラバスがちょうど半々の力。低弦は弾力性をもちつつ、ベルリンフィル
のように安心してもたれかかれる「壁」となって全体をささえているのはさすが。
管はホルンに前述のような特徴があるのを除いて、とくにめだったところはないが、 どこもすきなく合奏しているのが特徴か。弦、
管ともに、イタリアの明るさと、ミラノ(北イタリア)の渋さうまく融合していて、その洗練された響きが豪華。
もちろんムーティの役割は大きい。彼もフィラデルフィア管やヴィーンフィルを振る時には自分も集中しながら引き締め、操るという
面が大きく、その緊張からすばらしい音楽をつくっていくが、スカラ座オケは自分の手中にあるからか、とても開放的、自由に振っ
ていた。遊びをする瞬間さえままあった。

アンコールはジュゼッペ・マルトゥッチの夜想曲。これは弦楽群のゴージャスさをもう一度味わわせてくれる曲。

7月24日にボリショイ劇場でムーティ&スカラ座オケ&ボリショイ劇場合唱団による、ベートーヴェンの
第九があるということは前から予定で知っていたが、今回はマリインスキーの音楽監督ゲルギエフによるモスクワへの贈り物公演。
彼がスカラ座でシーズンを締める代わりにモスクワではムーティが振るという交換条件で成り立った演奏会。
(マリインスキーとボリショイの共通総裁職を創設し、その座を狙ってのパフォーマンスという見方もある。)
チェルノムィルジン元首相が社長をつとめるガスプロム社の飛行機で一行はモスクワ入りし、翌日はペテルブルクの白夜祭へ。
プーチン大統領が来るため金属探知器をくぐって会場へ。
モスクワでは記録となるほど高い公演でもあり、最高額の席は4600ルーブル(18400円)、最低は150ルーブル(600円)。二階中央
三列目(日本だとS席)で4500円、私たちの二階の後ろの方、音色がやや薄く聞こえる席は450ルーブル(1800円)。


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