仁清の雉香炉 

 若い頃、切手収集に凝っていたことがある。(仁清の雉香炉)が記念切手で売り出されたときのことだ。未だ勤めていたので、おいそれと買いに行けない。
昼休みにすっ飛んで行った。「一枚だけあります」「良かった、良かった。一枚で結構、ラッキー!」だが・・・・・私の後ろの少年は、一足違いで可哀そうに・・・・・・
二枚あったのなら分けても上げようが、一枚じゃぁそうはいかない。「ラッキー!」でも沈みがちであった。あの時のあの光景を思い出すと、今でも妙に悲しいというか割り切れない気持ちになるのだ。

後になって金沢へ行った際、本物とご対面。その美しさに圧倒された。広い空間、永い時間、静寂の中に美しいものが目の前にあった。美しいものが其処にあり、自分が其処にいるのが不思議だった。訳も無くとにかく不思議だった。息を呑み、時間の経つのを忘れて見入っていた。と言うか其処にいたかったのだと思う。
永劫・・・・・と言う言葉が浮かぶ。何故か、川端康成を、三島由紀夫を思う。
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