早朝のホームで


 八月に入り、日本列島は連日の猛暑!朝のプラットホーム。幸いベンチが空いている。
この歳になるとすぐ、掛けたくなるものだ。私はベンチに掛け、ぼんやりと電車を待つ。
線路がギラギラと眩しい。今日も暑くなりそうだ。と・・視線を落とした私は、男性の靴が
目に入った。新しくはないが綺麗に磨かれており、すごく丁寧に履いているのが感じられる。
靴に被さるスラックスの裾、チャコールグレイだ。どんな男性?私は視線をだんだんと上に
これまたピンとした折り目、黒のベルト。オフホワイトの縞の半袖、ダウンボタンで
ノーネクタイ。銀縁のメガネ、浅黒い中年であった。所謂サラリーマンスタイル、横顔しか
見えないがその立ち姿は素敵だったし清潔感が感じられる。
(夫にもこんな時があったのだ)と、現役時代が懐かしく思い出された。
  「Mクン、オシャレだったわネェ〜ワイシャツもネクタイも二日続けてはしない。
     毎日換えたし、靴もそう・・・・でもこれはオシャレじゃなく、一日着たら一日休める。
     丁寧だったから靴はいつも綺麗で気持ちよかったわ。よく、言ってたわね〜。
    (男のオシャレは靴だって・・・・) 確かにそうね〜 どんなに素敵なスーツ着ていても
     ピンパイ靴じゃがっかり。一番感じるのは葬儀の時よね。黒一色で身を固め、
     靴はと見れば・・・・・おまけに柄の靴下が覗いてるようでは・・・
不思議ね、素敵な帽子、
     ネクタイを見ても「好いなぁ〜」と思うだけ、それが靴だと「どんな人?」と視線が
     上にいくのよね〜(足元を見るって言うけどほんとね〜)大事なことだわ」

電車がきた。腰を上げてと・・・・・かの男性と同じドアから乗ろうと思っていたら残念!
彼は後ろの車両へと向かって行ったのである。私は階段の近くがいい。折り返しの電車
隣には少々メタボ気味の男性が座り、向かいの端には、座るなり足元に大きなバッグを
直に置き、化粧を始めるバカ女。葉書ぐらいの鏡を出してよくまあパタパタと始まる。
(やってもムダ!〜)解らないのかなぁ〜。全くバカ!と言いたい。発車間際に
駆け込んで来た若い女の子、手にはスマホ、目は釘付けになったまま腰を下ろす。
これが現実とは・・・・・
久しぶり気になる男性を目にし、そこに夫の現役時代の姿、当時の生活を回想したり、
たまにはこんなことあってもいいんじゃない?
入院中の夫のところへ行く朝での事、短いような長いような、一瞬、暑さを忘れた
電車待ちの十数分だった。