A・Tさんにいたい 


 時に触れ思うことがある。もう一度逢いたい人。連絡して逢える人ではない。
今、どこにどうしているのか、もしかして・・・・・とも思う。逢いたいからにはそれなりの
思い出がある人だ。
母の用で、U先生のお宅に伺った時、先生が「そうだ!この人がいいよ!」それで決まり!
丁度、日展に出品する作品の相談にみえていたTさん。数日後から私は、U先生とTさんの
彫刻、所謂『首』のモデルになった。・・・・・略・・・・・ 勿論入選
見に行った作品には『Nさんの首』となっていた。私のイニシャルは(E・N)だ。
そんなこんなでその後は、美術はじめ、本、音楽、映画のことなどよく話し合った。
(モジリアニの女性はどうとか、ジェラールフィリップの肉体の悪魔は良かった・・・)とか。
当時の彼はデザイン関係の会社に勤めながらの作品製作であった。話し合うのは私の家
展覧会以外、外で会った事はなかった。彼は字も上手かった。読んだ本の感想を書き綴ったり
手紙はお互いによく書いたものだ。
月日は経ち、彼は会社をやめ制作一本に、私も社会人となり、勤め始めた頃からだんだんと
疎遠になったのか?・・・・・としか思えない。
あの頃は、彼が差し出す握手にさえも応えられなかった私。
あれから五十年ほど経っただろうか? 金沢へ行ったとき、県立美術館でU先生と彼の作品に
出会う。不思議ではない。U先生は金沢、Tさんは富山の出身、共に金沢美校の出だ。
U先生は奥様共々亡くなられたのは知っている。Tさんは?・・・・・
それ以来気になって仕方がない。出来ることならもう一度、いや、もしお会いできたら
この先ず〜っと又、話し合って行きたいお人。Tさん!何処にどうしていますか????