オジサンのおむすび

 待つこと三時間、診察十分、その日も八時受付で終ったのはもう、お昼近かった。
昼時の車内は空いている。私はシルバーシートのドア寄りの端に掛けた。連結寄りの端には
オジサン、向かいのシートには、初老の男性、旅行者の様である。
オジサンは包みから、遠慮がちにおむすび一個を出しパクツキだした。車内でおむすび、
何でもないよく見かける風景だ。その大半はきっちりとした三角形、「ここから開いて下さい」
と・・・例のコンビニのおむすびだ。だが、オジサンのは違う。
私は何とはなしに見てしまったのだ。大きなおむすびだった。海苔は巻いてなかった。
具はぎっしりと、多分オカカだろうと思われた。美味しそうにパクつきだした。
奥さんが握ってくれたのだろう。それとも、オッカナイヨメサンに、「これ、持ってイキ!」と
送り出されたのだろうか? とにかくオジサンは必死にぱくついていた。
私は悪いとは思いつつも、チラッ!チラッ!と目が行ってしまう。
オジサンは「吾、関せず」と真直ぐ向いて一生懸命だった。
そしてそれは二駅間で終わってしまった。食べ終わったオジサンは、満足気に、何も無かった
ように、小さなザックを膝に抱え目を瞑った。
私は可笑しくもあり、ほほ笑ましくもあり、何かほっとするものをそのオジサンに感じたのだ。
おむすびを作ってくれる人、持たせてくれる人がいるって、いいなぁ〜。
私は嬉しくなってしまった。
もしこれが、コンビニのおむすびをぱくついていたら・・・・・多分私は、冷めた目でチラッ!と、
(いいおやじが夢中でぱくついているわい・・・)と、あとはこっちが目を瞑っただろう。
通院は疲れるものである。オジサンのお陰で今日は笑顔でご帰宅の私でした。