Back still growing up

 1999年10月6日(水)19:00キックオフ
於 国立競技場
FC東京 対 鹿島アントラーズ (ナビスコ杯準決勝)
 
今回はめずらしくアルビ以外の試合の観戦記。書こうか、書くまいか迷ったけど、書いたところで怒られるわけではなし、たまには第3者的な立場で書いてみるのもいいかなと書いてみました。はやい話しがアルビの観戦記とは別物として読んでみてください。
行きたいとは思ってたものの、チケなし、バイトありで完全にあきらめていたナビスコ杯準決勝。それがちょっとした偶然と東京ソシオの女の子のご好意でチケを譲ってもらえるとのこと。この試合、しかもタダでみれるならと半ば強引にバイトを変更。第1戦は鹿島が2ー0で勝っているが、2点差ならまだ分からないし、何より東京の応援が聞きたい。
J2開幕直後は嫌いなクラブ、負けたくないクラブはと聞かれれば迷わずFC東京と答えていた。ゴール裏は野次がすごいって話しだし、去年JFL優勝してて強いだろうし、サポーターも極悪非道な人間の集まりに違いない。いまから考えればとんでもない勘違いをしていたものだ。
それがいまではアルビの次は東京。選手名が11人以上言えるのもアルビ以外じゃ東京だけ。かわったなぁとつくづく思う。
国立に行くのは2週間ぶり。前は市原ー鹿島の試合を見て久々のJ1に驚き、いまのアルビのサポートをあらためて考えさせられた。たしか、その試合の観客数は1万5千人。今日は前売が完売で、当日券の販売はなし。つまり満員になる可能性があるのだ。しかし、ソシオ間でチケがだぶつてるとの噂もあり、どれくらい入るのかは予想がつかない。待ち合わせ場所の千駄ヶ谷門でしばし時間をつぶしているとやっぱり見当たらない。かれこれ鹿島関係の国立の試合は10試合くらい見てるが、こんなに赤を着てる人が少ないのは初めてだ。しかも人が少ないわけじゃない。
多くの人が歩いているのに、青のフラッグを持ってる人はいても鹿島のレプユニを着てる人は見つからない。ちょっとした期待が膨らむ。国立で鹿島のサポの数を越えられるのかもしれない。
無事にチケを受け取り、席へ向かう。今回はメイン全体をM席、それ以外をB席、指定なしのすべてが自由席という変わった席割り。東京の応援を聞くためにはゴール裏近くに行きたかったが、もらったチケはM。やむなくメイン側のゲートをくぐる。開始20分前にしてはかなり多く入っているのではないだろうか。ぱっと見で2万人くらいは入っている。メインは中央から順にうまってるらしく、ゴール裏の近くに座っているのは僕だけ、サクの向うのB席の人が不思議そうな顔で僕を見てるのが分かる。ダメもとで係員に席の変更を申し出るが、変更はできないとのこと。M席のはじっこで見ることに決めた。
しかし、ホームチームのゴール裏がどうも元気がない。というより声出し部隊らしき人達が見当たらない。おかしいな。人はたくさんいるのに。と、バックスタンドに目をやると、なんとバック中央に陣どっているのが見える。なぜ、今日に限ってメインから1番遠くに。少しでもバックスタンドに近付くために1番前に移動しようかとも考えたが、考えようによってはバック中央の東京サポとアウエーゴール裏の鹿島サポの両方がよく見れる席だと気付く。
選手紹介がはじまる。まずはアウエーチームの鹿島アントラーズ。選手紹介の声はまるでお通夜のように静かに行われる。当然、顔写真などはオーロラビジョンにはうつらず、サブも含めて一括で紹介。まさにアウエーの扱い。
そして声が一転して、FC東京の選手紹介がはじまる。鹿島のゴール裏からブーイングが起きるが、それを打ち消すような拍手。やはり、この観客の多くはFC東京を応援しに来てるんだ。同じJ2のクラブとは思えない。国立で何万人もの観客が集められるなんて。うらやまし過ぎて、悔しくなってくる。さらに観客は増えて3万人を越えただろうか。バックと東京ゴール裏は上まで埋まり、メインと鹿島のゴール裏の一部にしか空席が見えない。
そして選手入場までのわずかな時間。東京の応援を聞きたいが、スピーカーから流れてくる音楽がうるさくて聞こえない。多少、イライラしているとバック中央からウエーブを始めるのが見えた。いくらなんでもそれは無理だろう。代表の試合じゃないんだから。ウエーブって参加したがらない人も多いし。でもウエーブは途切れなかった。バックスタンドからゴール裏を通り、メインを横切るまでウエーブは続いた。これには驚いた。こんなことができるクラブが他にあるだろうか。いまじゃJ1のクラブだって1万人のお客を集めるのに苦労するのに。このクラブと同じリーグにいるのか、アルビは。
幻の3rdユニを来た選手が入場し、記念撮影。そして3rdユニを脱いでキックオフを待つ。鹿島は当然としてこの国立の大観衆にまったく萎縮してない東京の選手達。
キックオフ。試合が始まった。第一戦を0ー2で落としてる東京は最初から攻めるしかない。もし先制点を取られたらトータルで3ー0となり、決勝進出の可能性はとても低くなる。しかし前半で先制できれば、トータルで1ー2となり、主導権を握って試合をすすめることができる。
当然、無理には攻めてこない鹿島。東京がパスをつないでいくところを大きくクリア、もしくはロングパスで前線へ蹴り込むリスクの少ない作戦を取る。東京はいつもの1トップではなく、アマラオ、鏑木の2トップで勝負をかける。何が何でも先制しなくてはいけない以上、かなり前がかりになってるのが分かる。アマラオには秋田がマンマーク。空中戦に絶対の自信を持つ秋田を外につりださないことには点をとることは難しい。
東京が中盤で厳しいプレスをかけるものの鹿島もビスマルクを中心としたパスワークで、東京ゴールに襲いかかる。
鹿島から見れば1点取れば勝ちなのだから。前半、鹿島のCK、フリーの長谷川がヘッド。しかしわずかにワクをそれる。対する東京も速攻から鏑木が抜け出し、GKと1対1になるが、ここは高桑がファインセーブで止める。
両チームの戦い方を比べると、中盤ではあまり手数をかけず、前線に放り込む鹿島に対し、小気味良くサイドチェンジを繰り返し、サイドを切り崩す東京。しかし、センタリングはことごとく秋田にクリアされる。右サイドでの由紀彦が相馬とのマッチアップは面白い。スピードに乗ったドリブルでサイドをきりさく。対して左サイドはなかなか攻めの形が作れないのが分かる。30分過ぎ、早くも大熊監督が動く。左サイドの和田に代えて岡元投入。岡元は和田のいたポジションよりだいぶ高い位置に入った。3トップに近い形だ。さらに攻撃的な布陣をとる東京。3トップでの練習もしていたのだろうか、まったく付け焼き刃の感じがしない、プレスのかけかたもうまく、35分過ぎに取ったオフサイドの場面では前線の3人でうまく追いこみ、前線に蹴らざるを得ない形を作っていた。
アマラオはケガの影響だろうか、ときおりアマラオらしいプレーを見せるかと思えば、凡ミスもしてしまう。そのせいかアウミールが持つ時間が長くなり、相手に引く時間を与えてしまっている。鏑木は前線に飛び出す動きを繰り返し、DFラインとうまく駆け引きしているが、中盤とのタイミングがなかなか合わない。
そして前半終了。キープ率では五分五分といったところだろうか。鹿島はビスマルク以外に危険なパスを出してないので、点をとられそうな気配はない。あとは強烈な飛び出しを見せる名良橋に注意しておけば、守備は問題ないはず。ただ、前半にセットプレーで何回かマークミスでフリーにしてしまってるのが気になる。
ハーフタイムあらためて周りを見回すと、かなりの人数が入ってるのが分かる。4万人くらいはいるのだろうか。いま、4万人呼べるクラブが他にあるだろうか。そしてこのクラブとアルビ、比べることすらおこがましいとまで思ってきた。
後半が始まる。後半20分までに点をとれないと2点取るのは厳しい。選手達も分かってるのだろうか。前半以上に攻めへの意識が強いのが分かる。そしてその分、ひとつのミスが招くピンチが大きいものとなる。強い頃の鹿島はここを見逃さずにトドメをさしてきたのだが、いまは相手のミスで得たボールを点に結びつけられそうな気配はしない。
後半が始まって10分にさしかかるころ、サイドからのセンタリングを鹿島DFのクリアが浅く、ゴール前に流れる。アマラオがキープしようと足を伸ばすがDFとからみあうように倒れ込む。そしてファーサイドに流れたボールを鏑木が蹴り込む。ネットが揺れた。東京が先制。喜ぶ間もなくすぐさまネットからボールをかきだし、自陣へ戻る。この試合だけでは1点リードだが、トータルでは1ー2。もう1点で同点となる。
盛り上がるスタジアム。鹿島ゴール裏からのカシマアントラーズコールを打ち消すくらいの大きな拍手。おもえば東京ゴール裏の人達はまったくと言っていいほど声をださない。メインではすこし声をだしている人がいるくらい。これだけ入ってる以上、全員で声をだせばすごい声援になるはずなのに。
もう、おせおせの状態。この状況、最近見たなぁと苦笑いしつつ、一人、唸ったり、天を仰いだりしながら試合を見る。
鹿島はまさに防戦一方。パニックになってるのが分かる。攻め手が見つからず。唯一のチャンスだったビスマルクからスルーパスを受けた鈴木がGKと1対1になった場面もシュートはGKにセーブされる。前線へのパスはことごとくカットされる。鹿島は鈴木隆行が負傷退場し、マジーニョを投入するものの流れはまったくかわらず、東京が攻める。しかし東京は攻めるもののミドルシュートがない。前半でもアウミールが1本打っただけだった。その分、中盤での守備を必要最小限にし、最終ラインでのDFに力をいれる鹿島。
東京は何回かあるCK、FKを有効につかえていない。キッカーの由紀彦のボールを叩くような蹴り方ではファーに流れる可能性が高く、ファーにはそのボールを待つ選手はおらず、結局サイドラインを割ってしまう場面が多い。
そして流れのなかでのセンタリングはことごとく秋田にクリアされる。攻め手がなかなか見つからない。鏑木のスピードを生かし、前線へ飛び出して倒されて得た中央でのFKも、アウミールが蹴ったボールは壁を直撃し、大きくクリアされる。
浅利に代え、小池が投入される。声高らかに「ペルー小池」コールが聞こえるものの、事態が好転しそうな気配はない。
残り時間は刻々と迫ってきて、焦りの色が見え始める。ここで集中を切らしたら負けだ。それは東京にも鹿島にも言える。
切れたのは東京の方だった。残り時間10分を切っての鹿島のCK。ビスマルクの蹴ったボールに飛び込んだのは秋田。ボールがネットに突き刺さる。マーカーのアマラオが呆然としている。ケガの影響もあったのだろうか、完全にフリーにしてしまった。勝利を確信するかのように喜ぶ鹿島ゴール裏とは対照的に周りからはタメ息がもれる。
その直後にマジーニョに代えて増田を投入。FWに代えて中盤の選手をいれる。完全に逃げ切りの体勢だ。さらにDFラインを下げて守る鹿島になかなかシュートまで持っていけない。アマラオが負傷してピッチの外にでるとサンドロをFWに上げてきた。しかし秋田の高さは崩せない。奇襲を狙ったアウミールのショートコーナーはミスパスになり、そのまま相手の速攻につながる。気持ちばかりが焦ってるのが分かる。梅山にかえて小林投入。しかしDFを崩せない。最後、鏑木がゴール左で絶妙なトラップで3人をかわし、ゴールにせまるがシュートはDFにクリアされる。主審の試合終了のホイッスルが鳴った。1ー1。
トータルスコアは1ー3。鹿島が決勝進出。東京は負けた。
東京の選手がバック、ゴール裏、メインと挨拶にくる。誰もブーイングなんてする人はいない。国立という最高の舞台に恥じない試合をした選手に惜しみない拍手が贈られる。結果では1ー3。でも結果だけで判断する人はいない。精一杯やった選手に贈られた拍手は選手が控室に入ってからもしばらく続いた。
これが昇格するクラブなんだ。アルビにはまだまだ早い。早すぎる。チームの実力も観客の意識もクラブのなにもかもが。でもこれは悲しむことじゃないし、これから変えればいいこと。焦る必要はない。次はいつ、国立での試合の観戦記を書けるのだろうか。そのときは国立で4万人集められるクラブになってると信じたい。

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