Back still growing up

  2000年4月16日(日)17:00キックオフ
於 駒場陸上競技場
浦和レッドダイアモンズ 対 アルビレックス新潟
 
 急いでアウエースタンドの階段を上がる。もう試合は始まっていた。息をととのえることよりも、まずはスタメンを確認する。神田とセルジオが故障したという話しを聞いたが、2人とも出場している。シンゴが左の中盤にいる。ということは鳴尾のワントップか?いやナシメントがいる。ナシメントと鳴尾の2トップだ。早くも力が抜ける。最も得点力のあるシンゴをなぜFWに起用しないのか?
 レッズは長身のクピツァをCFにおき、その周りの岡野、永井、福永が攻めにからんでくる。小野も路木もピクンもいない。水曜のナビスコではフロンターレに3ー0の完敗を喫している。ひょっとしたら・・・。この時点ではまだかすかな希望を抱いていた。
 4ヵ月前の天皇杯の頃に比べるとスタジアムの雰囲気はずいぶん変わっていた。浦和のサポーターも新潟のサポーターも。天皇杯のときは2階席にはかなり空席が目立ち、スタンドの雰囲気も降格のショックから抜け切れないのか、カップ戦では気合いが入らないのか、なんとなく「怖さ」が感じられなかった。しかし今日は違う。どこにも空席は見当たらない。四方から力強い歌声が聞こえてくる。彼らは本気だ。
 アウエースタンドの様子も4ヵ月前とは大きく変わっていた。ここまでの経緯は書かない。正確な事実を知らない以上、推測で書くことはできない。ただ事実だけ書こうと思う。4ヵ月前は翼の会のコールリーダーが指揮を取り、数十人のサポーターが大きな声で白鳥を歌っていた。よくまとまっていたし、声もでていた。結果はともあれ、選手をサポートしようという意識がはっきりと感じられた。
 しかし、今日は違った。拡声器を持ったコールリーダーについていく人は非常に少なかったし、あきらかにコールによって声をだす人の数が違った。選手のコールも少なく、アドリブであろういくつかのコールはふざけ半分と受け取られかねないものだった。非常にまとまりに欠け、サポートというには程遠いものだった。
 ようやくスタメンを確認し、カバンからタオルマフラーを取り出す。再びピッチに目を移すと、ペナルティエリアのすぐ外でセルジオが両手を広げ、異議をアピールしていた。主審は腕を叩き、ハンドの反則があったというジェスチャーをしている。位置は中央やや左、木寺が懸命に壁に入る選手に指示をだしている。まだ始まって3、4分のはずだが、駒場スタジアムの時計とオーロラビジョンはアウエースタンドの真横にあり、いま何分なのか見ることがでいない。できれば早い段階での失点は避けたい。
 しかし願いは通じなかった。福永の蹴ったボールは壁に当たってコースが変わり、木寺は逆をつかれてボールがネットに突きささった。すさまじい歓声が上がる。あまりにも早い先制点に、思わず鳥栖スタでのサガンの惨敗(0ー7)が頭をよぎる。
 しかしアルビの選手はあまりショックを受けていないようだ。まだ始まってすぐ、逆転するには十分な時間が残っているとうまく気持ちを切り替えている。
 浦和はクピツァの頭を狙ってハイボールを放りこんでくるが、クピツァには高さには絶対の自信をもつセルジオがマンマークでついている。クピツァは満足に競ることすらできないうえ、ボールのないところでのセルジオの激しいチェックにポジションをとることすらできない。
 岡野には高橋がついている。高橋も鋭い読みで岡野の速さにうまくついていき、独走を許さない。福永はあまり運動量がなく、精彩を欠いていたが、問題は永井である。長身ながら柔らかいタッチで果敢にドリブルで突破を狙ってくる。リーチが長いのでうかつに飛び込むとかわされてしまう。必然的にズルズルとDFラインは下がっていく。
 左サイドで鳴尾がボールを受けるが、浦和のDFにバックチャージを受け、FKを得る。キッカーは式田。ニアに走り込んだナシメントがGKの前でヘディングシュートを放つ。わずかにバーの上を越す。アウエースタンド全体から大きなため息がもれる。
 鳴尾がポストプレーを狙ってDFを背にしてボールを受けるがフォローがなく、DFに倒される場面が非常に多い。ナシメントはあまりボールに触れないが、献身的にチェックを続ける。攻撃の起点となる神田が左に流れていく傾向があり、攻撃は自然と左に偏る。ここで誰か右の木沢へサイドチェンジできれば大きなチャンスになるだろうが、サイドチェンジを狙っている選手はいない。
 レッズは全体的に運動量に乏しく、特に中盤は何人かの選手があきらかに集中を欠いている場面が目立った。しかし個人能力を活かし、少ないフォローでもうまくボールをまわしてくる。
 アルビは回数こそ少ないがナシメントやシンゴのドリブル突破で相手ゴールに迫る。しかしシュートまでもっていけない。ラストパスをレッズのDFに大きくクリアされてしまう。
 中盤でのこぼれ球が拾えずにカウンターをうけてしまう場面が目立つ。両チームとも攻めも守りも個人の力に頼ることが多い。ダイレクトでパスが3本以上つながる場面は見られない。単独突破を狙う場面が多く、見ていて楽しさが感じられない。
 どちらかというと左サイドの中野のところから崩される場面が多い。秋葉がフォローに入るのが遅れ、簡単に数的有利を作られてしまう。ライン際まで切れ込んだ山田にフリーでセンタリングを上げられるが中央の岡野は合わせられないうえにボールを腕で叩いてしまい、警告を受ける。
 アルビが攻め込んだ際、浦和のクリアボールを最終ラインの高橋はつなごうという意識がまったく感じられず、リスクを恐れ、ボールを単純にヘディングで前線にクリアしてしまっているため、攻めに厚みがでない。
 秋葉はボールを持ってからのミスパスが多く、今日もこぼれ球を拾ってからの横パスを簡単にカットされ、あわてて後ろからチェックにいってしまい、ファール。警告となる。
 レッズにときおり訪れるチャンスもクピツァがことごとくワクを外し、1ー0で前半を終える。
 噂に聞いていた通り、レッズの状態は決してよくない。だけど、アルビの状態も非常に悪い。いまだに連携が良くなる兆しは感じられない。2トップと中盤のからみはおろか、ナシメントと鳴尾がパス交換する場面が一度も見られなかった。
 しかしアルビは後半から調子が上がってくるはず。なんとか同点においつくことができればなんとかなるかもしれない。追加点を取られなかったことで後半へ望みをつなぐ。
 両チームともハーフタイムでの選手交代はない。レッズはさらに運動量が落ち、攻められていても中盤の選手が歩いて戻る場面すら見える。アルビも悪いなりにペースをつかみつつある。右CKからのシンゴのボレーシュートはわずかにワクを外れる。
 レッズは攻めるときも中盤の押し上げが遅く、波状攻撃はなんとか避けることができた。焦りからだろうか、永井が中野に真後ろからスライディングを仕掛け、警告をもらう。
 後半に入り、10分ぐらいたった頃だろうか。浦和ベンチが先に動いた。完全にセルジオに抑え込まれたクピツァがベンチに下がり、大柴が交代でピッチに入る。速さに難のあるセルジオにとって大柴はマークしにくい相手である。しかし、速さを生かすにしても中盤からいいパスが来ないので、ピンチにはならない。無理にスピードで抜こうとしても高橋が速い出足でブロックする。
 ナシメントが何度もドリブルで突破をはかろうと試みるが、1人目はかわせても2人目、3人目でボールを奪われてしまいシュートまでもっていけない。だが唯一とも言える現在アルビの攻めの形である。
 昨年は攻めの起点となっていた木沢だが、今年はまったく攻撃にからめない。スピードに乗ったオーバーラップからのドリブル突破はほとんど見られない。たまにしか見られないセンタリングも精度が非常に低い。今年はまったく「怖さ」が感じられない。
 神田からのロングパスも攻めの形だが、試合が進むにしたがって明らかに運動量が減ってきている。ある程度キープはできるが、フォローがないので神田への負担が増大していく。
 25分過ぎだろうか。センターサークル付近でアルビの選手が倒れている。ナシメントのようだ。アップをしていた服部が交代で入るらしい。ダッシュでベンチに走っていく。ナシメントがピッチの外にでて、フィールドにアルビの選手が10人しかいない。ようやく服部がピッチに入ったと同時にCKから室井に追加点を奪われる。
 この1点は大きい。残り時間も決して長くない。同点にするのにあと2点取らなくてはならない。
 その直後のCKからの服部のヘディングシュートはわずかにワクをそれる。服部の見せ場はこれだけだった。運動量は悲しいくらいに少なく、ゴールへの意欲はまったく感じられなかった。苦悩というより、割り切ったような表情に怒りが倍増した。
 しかし集中が切れてしまったのだろうか、高橋がペトロビッチを倒し、PKとなる。キッカーは岡野。木寺はコースを読んでいたが、わずかに届かず。決定的な3点目を奪われる。
 今度は左サイドをシンゴがDFを引き連れながら、ペナルティエリアの中までドリブル突破。深く切り込み過ぎてシュートを打つには角度がなくなってきたところで、シンゴが不自然な倒れ方をする。ダイブと判断する主審。こぼれ球を拾った服部がゴールを背にボールをキープしたところ、レッズのDFが真後ろからスライディングタックル。当然PKかと思いきやなんとこれもダイブとの判定。
 さらに縦パスを受けた岡野にとてつもないファインゴールを決められ、4ー0。
 「ニイガタ、ニイガタ、ガタガタガタガタ〜♪」強化ガラスをはさんだオーロラビジョン下のレッズサポーターからこんな野次が聞こえてくる。「ひねりがねえなぁ。そのままじゃねぇか。」精一杯の強がりをつぶやく。
 足をひきずっていた木沢と疲労困憊の神田に代わって、井上と堂森がピッチに入る。
 その堂森からDFラインの裏に走り込む式田にスルーパスがでたが、なぜか服部がそのパスをブロック。怒りを露わにする堂森。服部の胸に当たったボールはレッズの選手のところにこぼれ、縦へフィード。パスを受けた福永がドリブルシュートを決め、5ー0。
 涙がでた。
 そのあと、FKから室井のクリアミスで1点を返すがそれで試合終了。もう怒りも悔しさも悲しみさえもなかった。タオルマフラーをカバンにしまい、帰り支度をする。アウエーとはいえ1ー5で負けた試合で選手に拍手なんて絶対できない。ブーイングどころか選手の顔を見ることすらイヤだった。
 最下位決定。水曜に感じた手応えは完全な幻だったらしい。スポーツ新聞には主将の「機能していた。」というコメントと監督の「積極サッカーは崩さない。」というコメントが載っていた。
 アルビレックスの迷走はまだまだ終りそうにない。

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