Back still growing up

  2000年4月29日(土)14:00キックオフ
於 山形県総合運動公園陸上競技場
モンテディオ山形 対 アルビレックス新潟
 
 天童市の中心部を抜け、山に向かって車で20分くらい走ると、楕円形の照明スタンドが見えて来る。そこが山形県スタジアムである。個人的に気に入っているスタジアムのひとつだ。スタジアム脇にはもうひとつスタジアムが作れそうなくらい広大な無料駐車場がある。そしてここにはあの有名な念仏応援がある。サッカーの応援として良いか悪いかは別として、なぜかあの曲が好きなのだ。この大自然に囲まれたスタジアムに非常に合っていると思う。
 珍しく試合開始1時間前に到着。メインの中段に席を決め、メイン裏の通路でボールを蹴って時間をつぶす。30分ほどたってちょっと汗をかいてきたところで、席に戻る。売店でモスチキンとジュースを買い、軽い食事をとりながらアルビの練習を眺める。サイドからセンタリングを上げ、中央に走り込んだ選手がシュートを打つ。だがワクにいかない。プレッシャーのない状態で入らないのでは、試合で点が取れるわけがない。
 「あれは下がりながらセンタリングをクリアする練習に違いない。」友達が自虐的につぶやく。
 ようやくワクにシュートがいったのは見始めてから5人目の寺川のヘディングシュートだった。次はポストシュート。これもほとんど入らない。ことごとくワクを外れ、GKの吉原が退屈そうである。軽く山形のシュート練習を見ると当然のようにワクにいっている。早くも苦戦が予想してしまう。5月は1週間に2試合のペースでリーグが進む。このスケジュールでは切り替えることができない。5月になるのが怖い。
 試合開始時間が近付き、選手紹介が始まる。ケガで欠場の中野、セルジオの代役は神田、柴。ボランチには寺川が入り、シンゴと鳴尾の2トップだ。そして無駄にCGを多用した山形の選手紹介が始まる。昨年のエース真下がベンチで甲府から移籍してきた堀井がスタメンらしい。
 選手が入場してくる。山形のユニは白を基調としているため、アルビの選手はオレンジのユニを着ている。
 アルビのキックオフで試合が始まる。フォーメーションは鳴尾が1トップの4ー5ー1のようだ。中盤を厚くし、数的有利を作り、早めにボールを奪う作戦らしい。奪ったボールはすぐに前線の鳴尾にパスするが、中盤の押し上げが遅く、ボールを奪われてしまう。
 DFに限らず、全員が必要以上に失点をおそれ、ポジショニングが下がり目になっている。ダブルボランチがDFラインに吸収され、2列目の選手がさらに下がり、鳴尾との距離が広がってしまい、なかなか攻めにつなげることができない。さらに悪いことにボールを奪ってからの動き出しが遅く、パスコースがないため、寺川はせっかく奪ったボールを吉原にまで下げざるをえない。吉原が蹴ったボールはラインを割り、再び山形のボールとなってしまう。
 山形の攻撃の中心選手は堀井だ。だが右足に痛々しいテーピングをまき、昨年みせたスピードにのったドリブルは見ることはできない。簡単に神田がボールを奪う。そのままスピードにのって神田がドリブルを始めると、全体の布陣が変わった。秋葉が下がり、木沢が一気にオーバーラップを仕掛ける。その木沢へ神田から長いパスが出る。完全にフリーの状態でサイドをドリブルで攻め上がる木沢。ニアサイドにナシメントが走り込む。DFに詰められる前に木沢がセンタリングを上げる。ナシメントの頭上を越え、ファーサイドでフリーの鳴尾を狙ったセンタリングにあわててナシメントのマークをしていた山形のDFが鳴尾にチェックにいく。しかし、鳴尾はこのボールをトラップミス。ボールは鳴尾の体から大きく離れる。だが幸運なことにボールは中央でフリーになっていたナシメントの前に転がった。ナシメントはGKの動きを見ながら冷静にシュート。丁寧に打ったシュートは右スミに決まった。思いもよらぬ早い時間の先制点に喜ぶ。
 ゴールを決めたナシメントはちょっと遅れたタイミングでサポーターのナシメントコールに応えるようにメインスタンドに走ってきた。そのぎこちない喜び方に思わず、微笑みがこぼれる。ナシメント、記念すべき日本初ゴールである。
 だが、喜んでばかりはいられない。残り時間はまだ充分過ぎるほど残っている。早い時間に先制したことで守備の意識はさらに強くなり、中盤の選手のほとんどがDFラインに吸収される場面もでてきた。当然、中盤には大きなスペースが広がり、こぼれ球を山形の選手に拾われ、波状攻撃を受ける。センタリングをクリアしたボールはゴールラインを割り、山形のCKとなる。キッカーは吉田。スピードこそないものの吉原が飛び出せないところへ正確に蹴ってくる。なんとかDFがクリアしたが、CKは確実にピンチとなる。
 守備面でのバランスが崩れると、攻撃面でもほころびがでてくる。ボールを奪うと、鳴尾、ナシメントに加え、シンゴ、式田まで前線に上がってしまい、2列目がなくなる。ボランチ、DFラインから長いボールを出さざるをえなくなり、あまり精度の良くないロングキックは簡単に跳ね返されてしまう。ただでさえ空中戦に強い選手がいないのに、これでは追加点は望めそうにない。かといってこの1点を守りきれる自信もない。現在リーグトップの失点数が頭をよぎる。
 山形の攻撃も決して効果的ではない。堀井、西山がドリブルで突破をはかる以外、攻め手は見られない。エドウィン、ジェフェルソンはあまり恐さが感じられず、吉田もCK以外はほとんど目立たない。
 試合前から今日の主審はかなり評判の悪い審判だと聞いていたが、前半を越えたあたりから、評判通りのジャッジが増えてくる。寺川の警告はともかく、センターサークル付近にいながら、ペナルティエリアの中で倒されたシンゴをダイビングと判断し、警告をだす。かと思えば目の前で鳴尾がどんなにユニをつかまれてもファールをとらない。
 山形の速攻から堀井がシュートを打つが、高橋がブロック。ボールはラインを割ってCKとなる。今日は珍しく吉原がハイボールの処理をミスする場面が目立つ。吉田の蹴ったボールに吉原が飛び出す、しかし触れない。ファーサイドのジェフェルソンが頭で合わせ、同点とされる。ポストを蹴り、悔しさを露わにする吉原。
 このまま逃げきれるとは思ってなかったが、実際同点にされるとかなり落ち込む。また負けてしまうんじゃないか、悪い予想が頭をよぎる。
 同点にされ、さらにプレーが消極的になる。DFラインから寺川、秋葉に出たボールはダイレクトでDFに戻してしまい、前線につなげられない。シンゴもダイブの判定を受けてから、ドリブル突破が見られない。ナシメントもキープできない。鳴尾がボールキープしてもフォローがいない。DFに倒されるがファールはなし。珍しく声を荒げて怒る鳴尾。
 山形も決定的なチャンスは作れない。ゴール前を固めるアルビに攻め手を見つけられないようだ。このまま、前半終了。
 選手がピッチにでてきて後半が始まる。選手交代はなし。決して良いリズムではないが、このままいくらしい。サブに流れを変えられる選手がいないのは辛い。
 後半もお互いに攻め手がない。山形が真下を、アルビは高道を投入するが、状況は変わらない。
 だがひとつのプレーで流れが大きく変わった。サポーターの木沢コールに木沢がオーバーラップ。だがパスは精度を欠き、ラインを割る。このプレーに木沢がきれた。
 木沢は完全にふてくされた。守備に参加せずに、前線でボールを待つ。速攻を仕掛けられても戻らない。自陣深い位置でボールがラインを割る。木沢がスローインを投げる位置まで来るが、数メートル先のボールを取りにいかない。柴が走ってきてボールを拾い、木沢に渡す。
 こっちの右サイドを山形が狙って攻めてくる。式田が懸命にDFラインまで下がって守備をする。だが守備があまり得意でない式田がドリブルでかわされる。さらにパスをつながれ、GKと1対1になるが吉原がファインセーブでピンチをしのぐ。
 木沢がベンチに交代を指示している。井上がベンチに呼ばれ、あわててユニに着替える。
 アルビも少ないながらもチャンスを作る。鳴尾がキープしてこぼれ球をナシメントがシュート。しかし、ジャストミートせず。ほとんど空振りに近い。
 木沢に代わって井上が入る。だが状況は変わらない。井上はなかなか相手に詰めないので、簡単にセンタリングを上げられてしまう。なんとか柴、高橋がクリアし、シュートまではもっていかせない。
 後半30分が過ぎ、お互いに疲労の色が濃くなり、ファールが増えてくる。大きく間延びした中盤で式田だけが運動量が落ちない。交代で入った高道よりはるかに走りまわってボールを拾う。速攻を仕掛けられても全速力で戻って守備に参加する。そうかと思えば鳴尾が落としたボールに走り込んでボレーシュートを放つ。シュートは惜しくもワクをそれる。
 山形は堀井も交代し、2トップを入れ替えてきた。寺川のミスパスを奪った岩元がそのままスピードにのってペナルティエリアに入り、シュートを放つ。吉原がかろうじて触ったボールはバーに当たってなんとかピンチをしのぐ。
 今度は右サイドのカバーに入った柴がペナルティエリア近くでファールを犯し、FK。吉田の蹴ったボールは秋葉が頭でクリアする。
 アルビも終了間際に大きなチャンスを作る。ナシメントがうまいトラップでDFと体を入れ替え、GKと1対1となる。しかし大きく体勢を崩す。なんとか右足でシュートを放つが、かろうじて足の裏に当たったボールを力なくワクを外れる。
 ナシメントに代わって、服部が交代で入る。さっそく神田からのセンタリングにDFと競り合いながらヘディングシュートを放つが、シュートはワクをそれる。
 そして2分のロスタイムでもゴールは決まらずに勝負は延長戦に入る。
 延長に入ると完全にアルビのペースとなる。完全にスタミナ切れをおこした山形の選手は攻めの形を作れない。アルビは左サイドの神田からセンタリングでチャンスを作る。
 だが1トップに入った服部があいかわらずの不調でなかなかシュートまでもっていけない。とにかく連携が悪い。足元に欲しいのか、スペースに走り込んでボールを受けたいのかがまわりの選手に伝わらない。
 さらに交代出場なのに守備に参加しない。前線でずっとボールを待つ。鳴尾はDFラインにまで戻って守備をしている。
 お互いにチャンスを作れないまま、延長後半に入る。
 後半に入ると山形の選手は完全に足が止まってしまっている。アルビも疲れているが、鳴尾と式田がなんとか攻めの形を作ろうとしている。
 鳴尾についていけない山形DFがユニをつかんで鳴尾を倒す。しかしファールをとらない。だがアルビの選手がつかむと途端にファール。さらにこっちがつかまれても山形のFKのなることすらある。
 中盤でドリブルする秋葉に山形の選手がユニをつかみ、引き倒す。そしてボールを奪って独走する。主審はなぜか両手を前に突き出し、アドバンテージのジェスチャーをしている。秋葉が倒されたのだから、アルビのFKになるべきでアドバンテージは適用されないはずだ。秋葉は立ち上がることができない。
 柴がボールを奪って外に蹴り出し、一旦試合が止められ、秋葉がタンカにのってピッチの外に出る。すでに3人の選手が交代しており、もう交代はできない。だが秋葉のケガはあきらかに重傷だ。
 秋葉はピッチに戻った。足を引きづり、右手で肩を押さえながらゆっくりとピッチの中央まで歩く。誰がどう見ても試合に出れる状態じゃない。ボールが秋葉の前に転がり、ボールをドリブルしようとするがまったくスピードにのることができない。走ることもできない。簡単にボールを奪われる。でも足をひきづりながら相手を追いかけようとする秋葉。涙がでそうになる。
 完全に主審にリズムを狂わされつつある。延長後半10分を過ぎ、引き分けを覚悟しかけたそのとき、右サイドの式田が上げたボールを山形DFがクリア、しかしクリアボールを小さく、寺川がペナルティエリアのすぐ外でボールを拾い、シュートを打つ。だがDFがブロック。そのこぼれ球が鳴尾の前にこぼれる。丁寧にそして確実に押し込んだボールはネットを揺らす。Vゴール。そして連敗脱出。
 気がつくと両拳を突き上げ、叫んでいた。永井監督以下スタッフも皆抱き合って喜んでいる。吉原がダッシュしてきて式田に抱きつく。GKコーチのジェルソンが踊りながら喜びを全身で表している。こんなに勝つことが嬉しいなんて。去年は感じることができなかった1勝の重み。こんなに喜んだのは去年の開幕戦以来かもしれない。あのときも感じたまるで優勝したかの喜びが全身を包む。
 選手がベンチに引き上げていく。いつもはクールな吉原のこぼれんばかりの笑顔が今までの苦悩を物語っている。
 「これですべてが終る、これですべてが変わる、これですべてが報われる♪」帰りの車で流れていた曲の歌詞に思わず笑ってしまった。まだ「すべてが」変わったわけじゃないし、もちろん終ったわけじゃないが、なにかがふっ切れたような気がする。久しぶりに気分のいい週末を過ごすことが出来た。5月は週に2回ペースで試合がある。今から楽しみで楽しみでしょうがない。

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