Back still growing up

  2000年5月4日(木)13:00キックオフ
於 新潟市陸上競技場
アルビレックス新潟 対 水戸ホーリーホック
 
 これは夢か幻なのか。目の前で起こっていることを簡単に信じていいのか?まるで別のチームのようだ。式田、シンゴ、寺川が良く走ってこぼれ球を拾い続ける。たまに蹴ってくる縦パスには柴、高橋が完璧な処理を施し、シュートすら打たせない。木沢、神田は気持ち良いくらいオーバーラップを仕掛け、流れるような攻撃を繰り返す。水戸は開始直後から完全に圧倒され、パニックにおちいっているのが分かる。ファールスローを繰り返し、簡単なトラップをミス、キックはことごとくラインを割る。
 去年の天皇杯のアマ相手の試合でも、先日のアローズ戦でも見られなかったような戦いぶりだ。山形での勝利がここまで影響を与えるなんて。右サイドで木沢、式田、ナシメントがダイレクトパスを繰り返し、完全に崩しきって、中央に折り返す。鳴尾がワントラップしてからシュート。惜しくもワクをそれるが、完全にペースを握っていることは間違いない。
 さらにナシメントのスルーパスから木沢がオーバーラップ、深く切り込んでから上げたセンタリングは、水戸のGKがかろうじて触れるが、ファンブルしキャッチできない。こぼれ球を蹴り込むが、水戸のDFの足に当たって大きく跳ね返される。
 ゴール裏からは「セクシー木沢」コールが始まり、久々に安心して見てられるという声も聞こえ始めた。
 スタジアム中が大きな勘違いをしてしまっていた。水戸をJFLからの昇格してきたチームとしか考えていなかった。神田がラフプレーで今季3枚目の警告をもらっても、まだ気付かなかった。どっちが格下のチームかということに。
 その幻はたったワンプレーで無惨にも終ってしまった。右サイドで式田が水戸の選手に激しくチェック、倒れるがこぼれ球を水戸の金口が拾ったため主審はアドバンテージをとり、ファールは流される。再び、式田がチェックにいくが、切り返されてかわされてしまう。そして金口がゴール前にクロスを上げる。ゴール前にはニアサイドに長身の水野とファーサイドには笠原がいた。当然ニアサイドにつめてくると思った柴は須藤に体を寄せていった。そしてこぼれ球を拾おうとしてちょっと下がったポジションには高橋がいて、その後ろには吉原がいた。だが須藤は目測を誤ったのか飛ばなかった。タイミングを失った柴もクリアできずにボールはファーサイドに流れる。そこには完全にフリーになっていた笠原がいた。3人とも長身の須藤に対応するためのポジションをとっていたため、笠原は簡単にゴールに蹴り込むだけでよかった。そこで夢は醒めた。
 先制されたチームは「いつものように」足に20kgの重りをつけているようなプレーに徹していた。走らないからフォローがいない。スペースができない。そしてスペースがないから走らない。「いつもの」悪循環が今日も繰り返される。
 足の止まったDF陣の前からミドルシュートを打たれるが、吉原はファインセーブで弾き出す。吉原が手を叩きながら、選手に喝をいれている。
 短いロスタイムがあり、前半が終った。前半は水戸の狙い通りだったのかもしれない。少ないチャンスを活かし、徹底的に守る。多分、後半も同じ戦術でくるだろう。
 得点こそ甲府と同じくリーグ9位(8得点)ながら、失点はわずかに8。
 これは浦和、札幌に続いてリーグ3位である。そして結果として4勝をあげ、勝ち点11をあげている。数字の上では完全に格上の相手なのだ。油断してるヒマはなかった。
 後半が始まる。早速水戸のGKの本間がヤジられる。彼はヴェルディの中沢をさらにエスカレートしたような髪型をしている。「本間ー、しゃがめー、頭でかくて試合が見えないよー。」ゴール裏が湧く。さらに「枝毛多いぞー。」「床屋行けー。」とたたみかけるようにヤジが飛ぶ。あと45分ある。まだ余裕があった。
 後半始まってすぐに秋葉が足をひきづって、堂森と交代する。さらに式田に代わって本間が入る。不満そうにうつむきながらベンチに下がる式田。
 本間のファーストプレーはコーナーキック。蹴ったボールは惜しくも合わなかったが、精度、スピードもなかなかだ。さらに積極的に動き、DFラインからボールを呼び込む。ペナルティエリアのすぐ外でボールを受けると迷わずにシュートを打つ。惜しくもバーの上を越えたが、この積極性は今のチームに感じられなかったものだ。
 だがそこから「いつもの」膠着状態が始まる。ボールをキープしながらもシュートが打てない。足元だけでボールを回しているので当然DFを崩せない。苦し紛れのシュートは力なくワクの外へ転がり、センタリングはDFが大きくクリアする。そしてカウンター。水戸の攻めは単純かつ偶発性に大きく頼ったものだ。大きく縦パス、そして逆サイドへ大きく蹴る。この繰り返しだ。非常にシンプルだが、この攻撃で既に4チームが沈められてきた。非常にミスが多く、決して素晴らしい攻撃とは言えないが戦術が徹底している。
 積極的に木沢が上がるが、なかなかパスが出てこない。トラップに手惑い、ミスパスとなったナシメントに激しく怒る。
 今度は丁寧なパスが木沢に回り、ドリブル突破をはかる。縦にいくとみせかけて、横に流れて左足でセンタリングを上げる。中央でシンゴとナシメントが待っていたが、完全にオフサイドポジション。シンゴが頭で押し込むが、当然ゴールとは認められず間接FKとなる。オフサイドに気付かず、一瞬盛り上がったがすぐに声援はブーイングに代わった。
  その直後、今度は水戸の速い攻めに柴が逆を取られ、吉原と1対1の形を作られる。ここは吉原が鋭い飛び出しをみせ、ブロック。こぼれ球を水戸の選手に拾われるが、DFが体を張ってゴールを守る。
 少し間があくと本間へのヤジが飛ぶ。あげくの果てにはゴール裏から「床屋行け」の大合唱。思わず、本間が呆れたように手を振る。まだ余裕があった。残り時間は20分ある。
 しかし膠着状態はかわらない。早めに2人交代したことが仇となったか、交代でリズムを変えることができない。
 CKからのカウンターで鳴尾が抜け出すが、水戸のDFが後ろから鳴尾をひき倒す。しかし審判はファールをとらない。大きなブーイングが起こる。
 意を決したように残り時間10分のところでナシメントに代えて服部の投入。
 それでもリズムはかわらなかった。神田がFWに上がり、服部と2トップとなるが、ボールを追いかけるのは神田だけ。服部は恐ろしいほど走らない。周りとの連携の悪さもまったく解消されていない。抜ければ神田がシュートまでもっていけるというチャンスも、なぜか服部がブロック。チャンスをつぶしてしまう。
 何回見せられただろう。相手チームが時間稼ぎのために選手交代を行う。時間を少しでも稼ごうとゆっくりとピッチを歩く選手にさかんにヤジが飛ぶが、急ぐ気配はない。
 ギリギリまで時間を稼がれ、たくさんあったCKも結局ゴールに結びつけられず。試合終了。0ー1。
 はっきり言って選手達は負けた気がしないかもしれない。完全に押していたし、チャンスもたくさんあった。でも決められない。それが敗因だ。
 前半に見たあのチームは幻だったのだろうか。シンデレラはガラスの靴をはくことで輝きを取り戻した。アルビレックスは「ガラスの靴」ははけるのだろうか。それとも幻は幻でしかないのだろうか。

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