Back still growing up

  2000年6月4日(日)14:00キックオフ
於 仙台スタジアム
ベガルタ仙台 対 アルビレックス新潟
 
 仙台スタジアムの屋根の間からは青空が見えているが、客席の寒さは尋常ではない。逃げ場を失った風が常に吹き続け、屋根のおかげでスタンドにはまったく日が当たらない。Tシャツ姿の観客が体を震わせながら少しでも暖をとろうと腕をこすっている。
 昨年甲府と最下位争いをしていたベガルタ仙台はここまで5勝1分け8敗で勝ち点16の7位。まさに予想外の快進撃を見せている。
 中盤に鳴尾、左WBにシンゴを起用したことでFW登録の選手4人がスタメンに名を連ねる。少しでも得点力を上げようとする監督の苦悩が見える。
 キックオフから3ー5ー2の布陣を敷いたのは初めてではないだろうか。(浦和戦は百歩譲っても変則的な4ー4ー2にしか見えなかった)今までは試合途中からのオプションのひとつだったが、最初から使えるとの判断したようだ。もちろん中野と神田のケガと無関係とはいえないが。
 仙台のキックオフで試合が始まる。早速アルビの選手が素早い出足でボールをカットするが、すぐに取り返されてしまう。最初のチャンスは仙台。
 右サイドから攻めこみ、ロビング気味のクロスをファーサイドへ送る。フリーになっていた小林がシュートを放つが、ジャストミートせずボールはラインを割る。
 今度は平間が右サイドをドリブル突破、チェックにいったセルジオの足にボールを当ててラインを割る。仙台がCKを得る。
 キッカーは千葉。軽い助走をつけ、右足を振り抜く。ボールはファーサイドへ、そこへフリーで走り込んだリカルドがヘディングシュート。ややロビング気味にゴールに向かってきたボールを木沢がクリアミス。そのままゴールに入ってしまう。うなだれる木沢。
 札幌戦と同じような形で早くも先制を許してしまう。だがまだ残り時間は十分にある。選手のショックもそんなに大きくはないようだ。
 先制点に盛り上がる仙台のサポーター。木沢がボールを持つと早速ブーイングを浴びせる。木沢がDFを抜ききる前にクロスを上げるが、トップに合わない。
 先制したことで仙台の選手の動きが良くなってきている。最終ラインでセルジオがボールを持ち、パスの出しどころを探している。中盤に出したパスはあまりにも不正確なパスで簡単に伊藤に奪われる。そして伊藤は奪ってすぐに吉原が前に出ていることを確認し、ロングシュート。吉原が懸命に戻るが、追い付かない。ボールはギリギリクロスバーの脇を抜け、なんとか追加点をまぬがれる。吉原がセルジオに激を飛ばす。
 アルビは左サイドのシンゴのドリブル突破から攻撃のチャンスを作ることが多い。4ー4ー2のサイドハーフではサイドバックからボールを受けることが多かったため、ターンする時間の分だけDFに詰められてしまい、ドリブルで突破できないことが多かったシンゴだが、WBになってからはボランチから横パスを受けることが多くなり、すぐにドリブル突破に入ることができ、より持ち味を発揮できている。
 だが2トップと中盤の連携が悪く、ほとんどシュートまでもっていけない。ナシメントは持ち過ぎてDFに囲まれ、奪われることが多く、服部にいたってはボールのもらえるポジションにすら入ってこれない。
 中盤のこぼれ球を鳴尾が懸命に拾い、そこから本間を経由してサイドに展開することはできるのだが、そこからシュートまでいかない。
 また本間から木沢に展開し、木沢がドリブル突破を仕掛けたところに千葉がタックル。ファールとなる。ブーイングの後に皮肉を込めた「頑張れ、木沢」コールをする仙台のサポーター。仙台の選手が壁を作っている間に本間が素早いリスタートでペナルティエリアの中の木沢にパスを送るが、主審はこれを認めずやり直しとなる。
 あらためてFK。本間がヒジを伸ばしたヒジを伸ばしたフォームで助走に入り、右足を振り抜く。低く速いボールがゴール前へ入る。そこへセルジオがドンピシャのタイミングで走り込み、ボレーシュート。ボールはネットに突き刺さる。アウエーゴール裏を除き、沈黙する仙台スタジアム。ピッチではセルジオを他の選手が取り囲み、歓喜の輪ができている。
 同点に追い付いたことで俄然チームに勢いがでてきた。仙台のCK、ファーに流れたボールを服部がカットしドリブル。後ろからチェックにくる千葉を弾き飛ばし、30Mほど独走するがシュートは打てず。
 さらにナシメントが中盤からのパスをトリッキーなトラップでボールを2人のDFの間に落とすとドリブルでそのままゴールを狙う。独走状態に入り、シュートを放つが後ろから賀谷の捨て身のタックルでブロックされてしまう。
 仙台ベンチから清水監督がテクニカルエリアギリギリまで出てきて半ば絶叫に近い指示を送っている。
 そして前半終了間際、シンゴからのセンタリングを仙台のDFがクリア。そのボールを鳴尾がダイレクトでボレーシュート。仙台のGKが一歩もうごけないほど強烈なシュートだったが、わずかにボールはポストの左を抜ける。一瞬の静寂の後にスタジアム全体から大きなため息が聞こえる。
 ここで前半が終わる。今まで必ず荒れてきた仙台と新潟の試合だが、今日は珍しくカードも出ない上にファール自体が少ない。木沢への野次、ブーイングも少ない。今までの仙台戦とは少し違う気持ちでハーフタイムを過ごす。
 後半が始まる。仙台は前半精彩を欠いていた伊藤に代え、蓮見を投入。その蓮見が後半早々に大きな仕事をする。
 ドリブル突破する平間を2人がかりで囲んでボールを奪おうとするが、足がかかってしまいファール。ペナルティエリアのすぐ外でFKとなる。
 当然壁を作るアルビの選手、吉原が壁になる選手に指示を出すためにポスト脇に寄っている。主審は壁の位置を下げるためにボールを見ていない。
 蓮見が吉原がポスト脇にいるのを見てすぐにFKを蹴り、ボールはガラ空きのゴールに入る。
 普通はゴール近くのFKは審判が壁を下げるために一旦試合を止め、ホイッスルが吹かれてから試合が再開、そこで初めてFKが有効となる。中盤での素早いリスタートとはまったく意味が違うのだ。
 だが主審はゴールを認めてしまう。セルジオが血相変えて主審に詰め寄る。だが主審は異議を認めない。吉原も主審に猛抗議するが、警告をもらってしまう。ゴールマウスに戻り、ポストを蹴とばし悔しさを露わにする吉原。
 これがミスジャッジにあたることは間違いない。なぜならこのプレーにより「FKは壁を作っている間でも蹴っても良い」という「基準」ができてしまい、これ以降ゴール近くのすべてのFKで守備側は壁ができるまでボールの近くから動こうとしない。当然攻撃側は抗議をする。結果的に「迅速な試合運営」に支障をきたしてしまっている。
 さらに付け加えるならばアルビの1点目のFKの際、壁を作ってる途中の素早いFKを主審は認めていない。これは「基準が統一されていないジャッジ」と言われても仕方がない。
 当然、アウエーゴール裏からは怒号、罵声がピッチの中の主審に向けて飛んでいる。
 アルビのキックオフで試合が再開される。このゴールは逆にアルビの選手達に火をつけた。縦パスを受けた服部が左足で強烈なシュートを放つ。仙台のGKがかろうじて弾いてCKとなる。
 次々とこぼれ球を拾い、波状攻撃を続けるアルビに仙台が思わずファール。ゴール中央、距離にして約30M。当然すぐ蹴られないようにボールの前に立つ仙台の選手。壁に指示を出しながらも頻繁にゴール中央へ戻る仙台のGK。ボールの前に立つ選手と小競り合いになり、さらに時間がかかってしまう。
 FK、ボールの前に木沢と本間が立ち、GKからボールを隠す。少し長めの助走をつけたシンゴが蹴る瞬間、2人は左右に避ける。シンゴが左足のインステップで強くボールを叩くようにキック。ボールは壁を越える。仙台のGKが必死に腕を伸ばすが届かない。ボールはバーに当たって真下に落ち、そして跳ね返ってゴールマウスの天井部分のネットに当たった。同点ゴール。ひざをつきうなだれる仙台GK。シンゴは拳を突き上げながら、ダッシュでベンチに走る。狂喜乱舞するアウエーゴール裏。
 ここからはお互いに一進一退の攻防が続く。シンゴがサイドを突破すると見せかけて中央へ切り込み、右足でシュート。だがGKに弾かれてしまう。右サイドから平間のセンタリングに仙台の選手が頭で合わせるが、ここは吉原がファインセーブでボールをかきだす。
 ここで仙台ベンチが動く。小林に代え、大友を投入。これで流れが変わった。猛烈なダッシュでチェイシングを仕掛けてくる大友にアルビはミスパスを繰り返す。ナシメントを狙った縦パスはことごとくオフサイドにかかる。
 前線の服部がチェイシングにまったく参加しないので、圧倒的に仙台がボールキープする時間帯が長くなってくる。ナシメントも疲労のためか運動量が激減している。
 だが永井監督は動く気配を見せない。頻繁に指示を送る清水監督とは対照的にまったくといっていいほどベンチから出てこない。
 前線からのチェックがないので、最終ラインがずるずると後退していく。3バックが3人ともペナルティエリアに入ってしまっている。仙台の選手がロビング気味のボールをゴール前に送る。そこをセルジオが頭で跳ね返す。しかし、そこはシュートを打たれる可能性のある正面ではなくサイドにクリアするのが定石である。しかしセルジオの頭にジャストミートしなかったボールは正面に力なく飛んでいく。落下点にいた賀谷が頭で押し返す。吉原は一歩前に出た後、後ずさりをしてボールにかろうじて触るが、ボールはバーの下を抜ける。ネットが揺れる。スタジアム全体から歓声が起こる。3ー2。仙台が貴重な勝ち越し点を決める。
 残り時間は10分。もう攻めるしかないアルビ。だがベンチはまだ動く気配はない。サブにはFWの選手こそいないが、攻撃的MFのマルコと堂森、さらにDFの井上を投入して柴を前線に上げるオプションも考えられるはずだが。
 右サイドの木沢はマンマークされていて、パスを受けることすらできない。シンゴはコーナー付近で削られてしまう。そのFKを本間がゴール中央へ蹴り込む。鳴尾が頭で流したボールをナシメントがバックパスしようとするが仙台の選手に奪われる。一気にカウンターになるが、セルジオがイエロー覚悟のタックルで止める。そして警告を受けるセルジオ。
 左サイドからのCK。一度はDFにクリアされるが、もう一度本間がゴール中央にセンタリング、PKスポット付近で柴がフリーでヘディング。だがそれはシュートではなく折り返しだった。折り返したボールは誰にも合わず、大きくクリアされる。
 ロスタイムに入って、ゴール前の混戦から平間にとどめの一発を浴び、4ー2。ここで勝負あった。
 主審のホイッスルで試合終了。うなだれるアルビの選手、抱き合って喜びを爆発させる仙台の選手、大きなプレッシャーから解放されたかのように大の字になって倒れ込む仙台GK。そして言葉も出ないアウエーゴール裏。
 今日こそ監督の差を痛感した試合はなかった。うるさいくらいに指示を出し、適切な選手交代で流れを変えた清水監督。指示はおろか交代も行わずあえて敗北を選んだ永井監督。
 次は浦和戦。苦悩はまだまだ続きそうだ。

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