Back still growing up

  2000年6月10日(土)13:00キックオフ
於 新潟市陸上競技場
アルビレックス新潟 対 浦和レッドダイアモンズ
 
 上空には厚い雲が立ち込め、ときおりぱらぱらと小雨がちらついている。ほとんど風は吹いてないが、気温が低く半袖ではすこし肌寒い。いつもは空席の目立つこのスタジアムも今日ばかりはメインスタンドの両端を除き、ほぼ満席となっている。席が見つからず立往生している観客、通常の倍以上の警備員、そして真っ赤なアウエースタンド、あきらかにいつもと違う雰囲気がスタジアムを包んでいた。
 浦和レッズはアウエー(といっても浦和サポーターの数の方が多い)とはいえ、相手は現在10位に低迷するアルビレックス。前回の駒場での対戦では5ー1と大勝している。前節2位札幌にホームで敗戦を喫している以上、今日は絶対負けられない、勝利が義務づけられている試合のはずだった。
 アルビは当然守備重視のスタメンを組む。3バックから4バックに戻し、ボランチも2人、前線は服部のワントップである。
 浦和のサポーターの声量は仙台、東京とは比較にならない。まさにJ1クラス。いや日本一かもしれない。このサポーターの数と声援の大きさはあきらかにJ2レベルではない。数千人が飛び跳ねながらの大声援。アルビのサポーターですら見入ってしまっている。
 選手が入場してくる。アルビレックスのサポーターの声はほとんどレッズの大声援にかきけされる。そして主審のホイッスルとともに試合が始まった。
 さっそく最終ラインでボールを持ったピクンに服部が激しいチャージ。服部に限らず、アルビの選手は激しくチェックにいき、奪ったボールは簡単に前線に蹴り込む。運よく前線の服部につながればチャンスになるが、つながることはほとんどない。限りなく可能性の低い攻撃方法だが、リスクを避けることを最優先した戦術をとる。
 浦和は全体的に運動量は少ないものの、個人技を活かし巧みにボールをキープ、だがパスコースがないため、簡単に囲まれる場面が目立つ。
 囲まれるとDFラインに戻し、クビツァの頭めがけて放り込む。だが高橋、柴が体をはって競り勝ち、なかなか攻めの形ができない。
 だが最初に決定的なチャンスをつかんだのは浦和。クビツァの足元から右サイドにはたき、中央ややファーサイドにセンタリング。福田が完全にフリーで走り込むが、福田はシュートせずに中央へ頭で折り返す。そこに浦和の選手はおらず、アルビはピンチを脱する。
 浦和は中盤を中心に運動量が非常に少ない。ボール保持者にプレッシャーをなかなか与えてこないので、アルビの選手はフリーでボールをつなぐことができる。少ないタッチでボールを回すことで攻撃にリズムがでてくる。さらに4バックに戻したことで後ろにパスコースが増え、そこから逆サイドへ展開もできる。
 アルビがボールキープする時間帯が増えると自然に攻め込む場面も増えてくる。鳴尾が前線に上がり、服部と2トップになる。サイドチェンジを繰り返し、センタリングをクリアされてもすぐに戻ってディフェンス。こぼれ球への寄りも早く、選手全員が非常に集中しているのが分かる。
 右サイドで服部がボールキープ。センタリングがピクンにあたり、スローインとなる。鳴尾がロングスローを投げるために助走をとるとレッズサポーターは地鳴りのような大ブーイングを浴びせる。鳴尾の投げたボールは簡単にクリアされてしまう。
 右サイドでCKを得る。キッカーはシンゴ。中央へ送り込んだボールはDFにクリアされるが、そのボールをアルビの選手が拾う。浦和はオフサイドトラップをかけようとDFラインを押し上げるが、ボール保持者にまったくプレッシャーをかけてない。タイミングを計って前線に飛び出す本間にパスが通る。絶好のシュートチャンスだが、本間は一瞬迷いを見せ、戻ってきたDFにボールをクリアされてしまう。積極的にシュートを打つように服部が本間に激を飛ばしている。
 浦和は中盤からDFラインの裏へ走り込んだ福田にパスがでてシュート。ボールはネットに突き刺さるが、飛び出すのが一瞬早くオフサイド。福田の表情にはかなり焦りの色が見られる。
 今度はアルビがゴール近くまで攻め込むが、ボールを奪われる。中盤につながれ、速攻をかけられそうになるが、高橋がスライディングタックルでボールを奪い返すと素早く右サイドの寺川にパス。寺川はルックアップし、中央へ走り込む鳴尾へセンタリング。鳴尾がつまさきで合わせるとボールはゴール左スミに突き刺ささった。一瞬の静寂の後、スタジアムから大歓声があがる。両手を広げ、喜びを爆発させる鳴尾。その鳴尾をアルビの選手が取り囲み、もみくちゃにして喜びをわかち合う。
 信じられないという表情でさっさとキックオフの準備をする浦和の選手達。
 アルビの激しいチェックとまったく攻めにならない攻撃にどんどん浦和の選手達がストレスをためこんでいるのが分かる。自然とラフプレーが多くなり、警告もだされる。
 ゴール前で細かいパスをつながれ、木寺と1対1になるが、木寺が左足でファインセーブ。今度はゴールキックを木寺がミスキックし、クビツァにシュートを打たれるが、高橋の必死のスライディングでピンチをしのぐ。
 クピツァへの放り込みも柴、高橋にほとんど競り勝てず、オフサイドにひっかかる場面も多い。
 中盤で足元にボールを受けたクビツァに寺川が後ろからチェックにいき、ファールとなる。そのプレーに激怒した永井がボールを拾い上げ、寺川に投げつける。このプレーに主審は永井にレッドカードをつきつけ、退場となる。
 ただでさえ運動量が少なく、中盤でのチェックがルーズだったのが1人減ったことで完全にアルビがペースをつかむ。浦和の選手達は浮き足立ち、自分達への怒りで我を失っている選手もいる。
 今度は浦和ゴール前の阿部の不用意なドリブルをシンゴがカット。中央へ折り返すが浦和のDFが足を伸ばしてかろうじてコースを変える。コースがかわったことで体勢を崩し、転倒したアルビの選手の後ろで服部が左足でシュート。浦和のGKの足に当たったボールはそのままネットに吸い込まれる。右拳を握りしめガッツポースをしながらチームメイトのところへダッシュする服部。
 うつむきながらネットからボールをかきだす浦和のGK。選手もみな下を向き、首を振っている選手もいる。
 浦和はゴール前で細かいパスをつなぎ、福田が右足で豪快にシュート。しかしこれもオフサイド。焦りからか、それとも連携不足か、チャンスらしいチャンスが作れない。
 うなだれる浦和に対し、アルビは攻めの姿勢を崩さない。秋葉、寺川を中心に正確なロングパスで左右に展開し、右からは木沢、左からはシンゴ、
 中央からは本間が好パスを連発。浦和は中盤のチェックがバラバラなのでDFラインもバラバラ。DFラインの裏へ走り込んだ鳴尾に木沢がスルーパス。思い切り良く打ったシュートはGKが手に当てるものもそのままゴールイン。3ー0。
 さらに左サイドから本間のセンタリングを鳴尾が頭で落とし、走り込んだ寺川がボレーシュート。これで4点目。レッズのサポーターからはまったく応援が聞こえなくなった。
 アルビのサポーターからは声高らかに「やりたい放題!」コールがスタジアムに響く。
 ここで前半が終了。誰がこのスコアで前半を終えることができると予想しただろうか。まさに誰も信じられないといわんばかりにハーフタイムでもスタンドが騒々しい。アウエースタンドを除いては。
 後半、内館に代え、宮沢を投入し、攻撃的にいく姿勢をみせる浦和。だが選手達の表情は暗く、目はうつろだ。
 後半に入っても状況はまったく代わらず。むしろ悪化している。全員がボールサイドに寄ってしまうので、逆サイドがガラ空きになる。前線に人を集めすぎているので、逆にスペースを消し合ってしまう。この分、中盤が薄くなりクリアされるとすぐに決定的なカウンターとなってしまう。
 後半早々服部が抜け出して、GKと1対1になるが、シュートはゴール右に外れてしまう。今度はフリーの木沢が右サイドを独走、ニアサイドで鳴尾が競ったボールがファーにこぼれ、フリーの服部がシュート。GKに弾かれる。リバウンドを服部がシュート。さらに弾かれる。今度は渾身の力を振り絞って右足を振り抜くとボールは空高く飛んでいった。頭を抱える服部。
 試合が進むにつれて浦和の運動量はますます低下していく。集中力を欠いたプレーを繰り返し、ミスパスのオンパレード。ペナルティエリア正面でシンゴがドリブルで1人かわし、右足でミドルシュート。5点目が入った瞬間。浦和のサポーターは横断幕を外し始めた。
 まさにやりたい放題。特に木沢がフリーになる場面が多く、簡単に右サイドを切り込んでいく。さらにフェイントで相手をおちょくるなど余裕を見せる木沢。
 クビツァに代えて、大柴投入。大柴は最終ラインでボールを持った柴に突進していく。柴は簡単に切り返してかわし、高橋にパス。勢い余って転倒する大柴。
 しかし大柴がダッシュを続けることでちょっとづつレッズがペースをつかみ始める。中盤でパスがまわり始め、抜け出した福田がシュート。しかし三たびオフサイド。怒ったような表情の福田。
 さらにゴール前の混戦から福田がシュート。ゴールライン上で高橋が体でブロック。福田がゴールをアピールするが認められず。
 ようやく右サイドでキープした福田が中央に折り返し、走り込んだ西野がゴールを決める。ネットの中のボールをすぐに奪い返し、ボールをもってセンターまでダッシュする西野。
 さらにペナルティエリアの中で大柴に高橋がファールしてしまいPK。キッカーは福永。腕組みをして仏頂面をした数千人のレッズのサポーターの前で福永の蹴ったボールは大きくバーを越える。頭を抱える福永。
 これでレッズの反撃は終わった。あとはピクンが2枚目の警告で退場。さらに攻め込まれ続け、ロスタイムに本間からのパスを受けた鳴尾が右足でハットトリックとなる3点目を蹴り込み、試合終了。6ー1。
 まさに夢のようなスコアでホームでの久々の勝利。今までの得点力不足が信じられないほどシュートがワクに飛んだ。まさに笑いが止まらない90分間だった。これからも大量点が取れる保証なんてどこにもない。しかし間違いなく今日の勝利は選手達に大きな自信を与えたに違いない。これだからアルビレックスはやめられない。

〒〒〒
ご意見、ご感想がある方は アルビサポ まで