魅力の源泉を探る
WORE/SICA; Preview


永遠の刹那、一瞬の永劫。

『時(Time)』には限りが有る。

そう、『時』は たゆたうように流れ、『悠久』という言葉の修飾対象となる。 しかしそれは俯瞰視点での事。

主観視点では『時』は 非情なまでに終焉を迎える。

『それ』は決して「突然に」ではなく、予め確約された中での予定調和。
『それ』は脈々と、そして視点の主(あるじ)を変えながら永遠に繰り返される既成事実。

だが、『それ』は必ずしも同じ道程を辿る訳ではない。 無限の繰り返しと思われる(ミクロな)一歩が、 そしてやがては全く新たな(マクロな)地平を切り開く為に必要であるという事に気づく事だろう。

1999年6月17日発売予定のプレイステーションソフト、 『俺の屍を越えてゆけ』をプレイしてみてほしい。

先達の屍を乗り越え、ただ一つの目的を果たす為に。


「何故」と「どうして」

…と、まぁ堅苦しい出だしになりましたが。

所詮はゲームな訳です(★)。 どれだけ楽しめるか、が最大にして唯一の絶対必須要素なんです。 結論から言うと、僕はテストプレイ時に肩肘はらずにとても楽しむ事ができました。

「何故そんなに楽しめたの?」という問いに、 僕は『常に考える事』が要求されているから、 と現段階では結論付けました。

なんか面倒臭そうだなぁ…
考えろって強要されてもなぁ…
ごもっとも。

でも大丈夫。
「さぁ考えろ」とは強制してきませんから。
確かに、常に考える事が必要なんですが、 その強要感は巧みにプレイヤーの思考外に追い出されています。 要するに、「考えねば」というプレイヤーの自発意志を誘発する環境の構築が巧妙なんですね。

この面白さを実装する為の最も重要な部分を、僕は「時間の管理」と見ました。

(★) …とは言うものの、ゲームを甘く見ちゃいけません。 ゲームとは「或るルールに乗っ取って遊ぶ・楽しむ・優劣を競う」為の娯楽です。 目的なんてのは、その為に用意された飴に過ぎない訳で。

ちなみに、目的を果たす為に手段を選ばないのであれば、それは、 その過程を楽しむ(ゲームプレイング)事を放棄している訳で、 既にゲームと呼ぶべきではないでしょう。 その過程にゲーム的な要素が含まれていても、 その最中に「ゲームをプレイしていた」訳では無いんですから。

戦争やスポーツ、出世競争など世の中にはゲーム的な要素が氾濫してます。 でも、「本当にゲームである」ものとは一体何だと思いますか? そして、「コンピュータゲーム」と分類される娯楽は、何を提供してくれるものだと思いますか? 他の娯楽と異なる「何」をその中に見出しますか?

その部分を僕は大事にしたいんですよ。


時を駆ける一族

プレイヤーには、ロングディスタンスの遠大な最終目的を達成する事のみが予め示唆されますが、 プレイヤー自身が自由に組立てられるミドルレンジ毎の目標設定ができる為、 ショートスパンの判断を行う必要が生じます。

つまり、プレイヤーが今くだした判断は、 常に有形無形の結果として必ず反映され、 その積み重ねが最終的な目的を達成する為に必要となる訳です。 ここには判断の自由という、プレイヤーが介在する最大の理由が存在しています。 無駄な事をしても良い。必要な事だけをしても良い。 良い結果をうむかもしれないし、その逆もありうるだろう。 でも、それはプレイヤーの自由な訳です。

表1:時の形成
長期 中期 短期 極短期 (補足)
歴史(一族) 一生(個人) 一ヶ月 出陣 探索フィールド リアルタイムで月内時間を消費
戦闘シーン ターン毎に月内時間を消費
御前試合 該当者のみが一月消費
休養
教育
交神 一族全員が一月消費
上記からの任意選択 * およそ二十ヶ月
( 上記の任意組み合わせ * 人数分 ) * 世代数

上記した表1において、短・中期では特に健康度(個人の寿命を左右する)が、 中・長期では奉納点(一族の潜在能力に影響を与える)が各プレイヤーの判断の指針となり、 かつ、くだした判断に敏感に反応します。

体力が減った状態で時間が経過すれば 〜 これは月を越える事だけではなく、 フィールドを歩く事や、あまつさえ戦闘ターンが経過する事でさえも 〜 健康度は減りますし、 健康度が低ければ天寿を全うする事が難しくなります。 しかし、健康を優先しすぎてリスクチャレンジを怠ると奉納点が稼げない為に、 より上位の遺伝子を持つ神と交わる事が難しくなり、一族全体の底力アップが見込めなくなります。

この密接な関係にある二つの要素は、どちらか一方だけに固執する訳にはいきません。 だからこそ、判断の自由というジレンマが有り、面白さが有る訳です。

限られた時間というルールを予め提示されているが故に、 その時間をどう使うかが(嬉しい)悩み所です。
そして、[一ヶ月]というスパンでの判断を更に悩ませて(楽しませて)くれるのが歳時記の存在です。

表2:月固有のイベント
季節 出陣先 御前試合 大売出 強化月間
1月 ランダム
2月
3月 選抜
4月
5月
6月 白骨城
出現
7月
8月 自由参加
9月
10月
11月 大江山
入山可能
12月

この表2に示されるように、その月でしか選べない出陣先、 などが用意されているのも見逃せません。 各個人の人生は非常に短く(それも生年月が異なる為に幼青壮老年期が同時期に入り乱れる)、 一族を束ねる当主として「いつ」「誰に」「何を」させるのかという判断が非常に重要になります。

例えば、最終目的とする大江山侵攻の際には、 一族のベストメンバーをベストコンディションに持っていく為に、 何世代もの試行錯誤が必要になる事でしょう。 主軸と期待したキャラクターが老衰で衰えてしまったり、 期待した若手に無理をさせて健康度が下がってしまったり。 そして達成できなかった目標は翌年に、との決意も新たに次世代に夢を託す訳です。

このようなシステムの構築こそが、 殆ど全てを支配下におけるゲームプレイヤー微妙に思うにまかせないジレンマを与え、 そうであるが故に目的を達成した時の充実感を提供する、 その為の巧妙な手口だと思う訳です。


命短し恋せよ子孫

もう一つ非常に重要な点が有ります。

それは、時間経過の基本単位を「月」とし、 これを非常に短く設定してあるという部分です。 この、短い単位(期間)の設定こそが、 このゲームのプレイ意欲を促進させる為に非常に重要なファクターとなっています。 プレイヤーに「短い単位での物足りなさ」を感じさせる事によって、 結果的に「長い期間における満足感」を得させる、と。

イベントやストーリーの流れなどをプレイヤーによる判断の支配下におき、 そして判断結果がもたらす影響(結果)を必ず数ヶ月以内にプレイヤーにフィードバックするというシステムそのものが、 判断を済ませたプレイヤーに「結果を知りたい」という欲求を抱かせます。

この時に延々とプレイしなければならないのであれば、「また次の機会に」となってしまうのですが、 「もっと先へ進めたい」「早く知りたい」という衝動に直ぐ応えてくれる訳です。

物足りなさを感じさせる程に一単位時間が(プレイヤーにとって)短く、かつ、 自分が下した判断が次(やその次)の単位時間におけるプレイ内容に重要な影響を与えるゲーム、と言えば、 『仙窟活龍大戦 カオスシード』(以後CSと記載)が記憶に新しい所です。 無論、俺屍と同じ企画者・開発会社でリリースされている『ネクストキング 恋の千年王国』(以後NKと記載)も同様です。

そう、表現からシステムからストーリーから、何から何まで違いますが、 面白さの根っこの部分は(表面的には)同様の手法によってもたらされている訳です。 プレイヤーは(CS:主人公/NK:王子/俺屍:当主とそのパーティ)を操作しながら育成対象(CS:仙窟/NK:国民の恋愛感情/俺屍:一族)をよりクオリティアップする、 その為に非常に短いスパンで育成対象に自らの意志を投影できると。

ゲーム、という自らが参加する事に意義のあるメディアに求められる真の意味での面白さが充分に備わった上で、 プレイ意欲を促進させるメリハリのあるゲーム展開にするのはなかなか難しい筈なんですよ。 でも、この短期間フィードバック型システムというデコレーション無しには面白さが伝わらない訳で、 実に見事だと言うより他ありませんね。


越えてゆけ

…実際の所、どうまとめようか本当に悩んだんですよ(§)。

大きく分けて、「時の管理の巧みさ」と「絶妙なジレンマの美学」の二つが面白さのバックボーンだと僕は感じたんですね。 しかし、この二つの面白さを魅力にまで昇華させているのは、実は、 細々としたありとあらゆる部分が有機的に連携しあうバランスにあると思うんです。

あちらを立てればこちらが立たず。
これを行えばこうなる。

システムを、ぽーん、とプレイヤーに投げておいて自由にしてくれ、としておきながら、 その上でそうするとこうなるよという部分まで具体的にプレイヤーに示してある訳です。 しかも、それが殆ど全ての部分で互いにリンクしあっている、と。

いや、ホントに凄いですよ、このゲーム。

で。
これが一番大事な事なんだけど、 実は此処に書いた事なんか全然気にしなくても大丈夫なんですわ。

遊ぶ上では、全然むずかしくない。
単純にすっと入っていける。

頭でっかちにならずに、バァーンとォ!遊べるんだな、これが。

さ、遊ぼうぜ、みんな!

(§) …細かい事を一つづつ挙げていく事も出来るんですよ。面倒だけど(笑)。 例えば、「世代交代システムを採用したが故にスーパーキャラによるダンジョン序盤の無効化を回避している」とか、 「戦闘勝利時取得アイテムが戦闘突入時に確定するが、敵大将が一定HP以下でアイテム持ち逃げ(マニュアル記載済)。 しかもターン数=経過時間なので、無駄ターンを挟むか否かの戦略性が高い」とかね。 ただ、この方法で書いていくとキリがない(笑)。

そこで、今回は主に『時間』に関して書いてみたんですが、 途中でどうしても「あれも」「これも」と考えてしまって難しかったです。 後半どんどん文章にまとまりが無くなってしまった事は反省してます... (_o_)

(99/06/10)