主に乾電池を電源とする事を目的とした定電圧回路
H19/09/16,H22/03/22一部追加訂正
製作の目的
1)デジカメ等、比較的低電圧で使用する小型携帯機器を、
商用交流電源が使えない場所
(山中や海岸はもちろんの事、街中での移動しての利用)
で長時間使用する事を目的とした電源を作る。
2)電源は世界中どこででも入手可能である乾電池とする。
エネルギー効率などを考えて、乾電池十数本直列つなぎを
スイッチングレギュレータで降圧する事とする。
希望仕様
実は汎用スイッチングレギュレータ用ICを利用した定電圧電源を
5年くらい前に作成していた(1号機)。それほど不満なく使っていた
(主に半分使いかけの電池を12本つないで懐中電灯に使っていたけど)。
しかし残念な事にラップランドのど真ん中で事故を起こして紛失してしまった。
ノートパソの充電のために助手席に置いていて、
ノートパソとデジカメは無事だったのに、電源装置は見当たらなかった。
ケースが薄いプラスチックだったので、多分ケースが壊れて、
警察官が壊れたと思い捨てたか放置したものと思う。
中身は壊れていないと思ったが、
事故現場から400km離れた病院まで連れて行かれたので取りに行く事も出来ず、
2号機作成と相成った。
1号機を使っての反省点なども考慮して以下の仕様を想定した。
1)本体との入出力コネクタはP009用スナップとする。
電池用のスナップなのでノートパソ充電など大電流向きではないが、
「入手のしやすさ、互換性のよさ」がなにより一番。
2)出力はノートパソ充電に必要となりそうな、十数ボルト、数アンペアを確保する。
3)1号機にて自動車のシガレットソケットを電源に、ノートパソを充電した際、
結構発熱したので、放熱対策は十分に取る。
4)電圧設定は、DIPスイッチなどで細かく設定出来るようにする。
たとえば(0.25Vの倍数)+3VをDIPスイッチで2進数表示で設定出来るなど。
5)入力(電源)側は、必要電圧を確保出来ているか不確実な事も多いので、
電圧計を入れる。出力側は製作時に調整済みなので不要であるが、
とりあえず測れるようにする。
6)今度は十分に強いケースにする(^^;;)。放熱なども考えてアルミケース等。
7)できれば電流測定用の端子を設ける。
8)できれば負荷直前で電圧測定をしてフィードバック出来る端子を設ける。
実際の設計
とかなんとかいいつつも、大きさを考えるとバラで組むわけにもいかないから、
スイッチングレギュレータ用LSIが確保出来ないと設計が出来ない。
個人だからデータシートを見て自由に発注出来る訳ではない。
かと言って、IC1個のために東京大阪に行くわけにもいかず、
福岡のカホ無線で物色。秋月のキットでそれっぽいのがあったので、
出力電流定格だけ念を押して購入。
HPH12002Mを2個使って4A確保するというキット。
平滑用コイル、ダイオード、放熱器込みのハイブリッドICで、
平滑用コンデンサも入っているセットなので、基本部分はほとんど何もする必要なし。
大きさも特に不満無し。
が、データシートをぱっと見てすぐに仕様7)と8)が出来ない、4)も難しい事が判明。
電解コンデンサを付ければ外部抵抗無しで12Vが標準で出る設計。
つまり電圧設定用の抵抗がIC内に既に組み込まれている。
したがって、ICの中まで手を加えない事には7)と8)は不可能。
さらに外部に抵抗をつなぐ事は、内部の抵抗に並列につなぐ事と同じになる。
よって抵抗値の計算式がかなり複雑になり、4)はかなり難しくなる。
とりあえず内部に組み込まれた電圧設定抵抗とフィードバック点の電圧を求めないといけない。
うちに帰って、付属の可変抵抗器で抵抗値を変えながら数ポイント測定し、計算。
フィードバック点の電圧は5.02Vだった。この時点で5V未満の電圧を抵抗だけで設定するのは不可能。
ほぼ5Vちょうどというのが、定電圧ダイオードだけで実現されるとは思えないし、
データシートの等価回路を見た印象ではOPアンプで調整している様子。
ただ、この「ほぼ5Vちょうど」というのが後で役に立った。
抵抗値は実に細かい数値なので、
ここではフィードバック点と+側の間を A(Ω),
フィードバック点とGND側の間を B(Ω)としておく。
OPアンプで調整しているので実際にこれが内蔵されているとは限らないが、
実用上特に問題は無かった。
これだけ分かれば、出力電圧 E(V)を得るためには、
E を抵抗で分圧してフィードバック点が5.02Vになるようにすればよろしい。
+側のA(Ω)と並列にする抵抗値を X(Ω),GND側のB(Ω)と並列にする抵抗値をY(Ω)とする。
並列の抵抗値の計算式と直列による分圧の式は、昔なら中学校で習ってましたね:-)。
で、3日間ほど悩んだ。必要な各電圧に抵抗値を割り当ててスイッチで切り替えれば
簡単なのは分かっているが、簡単な方法でいろんな電圧を設定出来る方法はないかと。
フィードバック点の5.02Vの0.02Vに気を取られてなかなか気付かなかったが、
これを「ほぼ5V」と考えれば
つまり Y を B の自然数分の1か無限大(並列抵抗無し)にすれば、
E=ほぼ5V+(Xで決まる電圧)×(自然数)
と結構きれいな式になる。「Y を B の自然数分の1にする」というのは、
「B Ωの抵抗器の N 本並列つなぎ」
で実現する。(Xで決まる電圧)をきれいな数字
(たとえば0.5V)にすれば、仕様4)に近い事は出来る。
実装上「抵抗器 N 本つなぎの N を自由に設定する」というのはやや苦しいが、
0.5Vステップで20Vまで設定出来るようにしてもあまり意味がないので、
「ステップの種類を8種類(うち1つは半固定抵抗)、並列抵抗数を8つ(1倍から9倍)」
という事にして、DIPスイッチ(1チップ8組)を2個で構成。電圧ステップは
0V,0.1V,0.2V,0.25V,0.5V,1V,2.5V,半固定抵抗器による可変(0V〜4.8V)
加えてIC内蔵抵抗による7.08Vで、全9種類。
製作
とりあえず「8月28日の皆既月食の前に東京に向かい、この電源装置を作り上げて、
天気予報を見て月食の撮影場所を最終決定」という計画を立てる。
まず部品購入だが、もっとも重要な部品は「電圧設定用抵抗器14本」。
電圧精度を上げるために、1%精度の抵抗器をE96系列で揃える事を前提に計算し、
秋葉原に行った。が、「E96系列はないねー」。
並列つなぎ8本は抵抗アレイがあればE24系列でもよかったのだが、
「1%の抵抗アレイはないねー」。これを5回くらいくらった。
本気でE24系列で計算し直そうかと思っていた所でようやく「E96系列あります」の店を発見。
部品が揃ってしまえば、基盤作製は簡単。出来るだけ小さくしたかったので、
ぎゅうぎゅう詰めに詰め込んだ。
翌日はケース探し。横幅がギリギリのアルミケースを見つけて、電圧計も入るようなのでそれに決定。
2ちゃんねるで聞き出した「加工機材と場所を貸してくれる店」に行った所「今日は無理ですねー」。
仕方なくホテルに帰り、アルミケースに穴位置などを細かく書き込み、
「後は切って穴あけるだけ」状態にして翌日もう1回行くと、「今の時間は無理ですねー」。
大丈夫な時間を聞き出して1時間半だけ確保して、強引に穴開けて金ノコ引いて、
電圧計用の穴はラジオペンチで強引に広げて完成。
翌日の月食当日は知床のつもりだったが、体調を崩して動けなくなった。
で完成品
携帯電話を電池10本直列で充電中。
意外と大きく見えますが、電圧計なければ半分以下です。
カバーはプラ板とプラ角材を瞬間接着剤で貼っただけです。
瞬間接着剤、プラスチックは本当に「あ」という間もなくひっついちゃいますねー。
ヒューズボックスはなかなかつかなかったのに。
カバーの内側に電圧設定表を貼ってます。
操作部分
かなり強引にひとつの基盤に収納してます。
左半分のDIPスイッチ、左が電圧ステップ設定用、右が倍率用。
右半分、大きい方のスイッチが電源スイッチ。
「間違って押して切れる事はあっても入る事はない」配置です。
小さい方のスイッチが電圧計の「入力測定か出力測定か」の切り替え。
30V電圧計で、入力測定時には分圧抵抗を入れて60V計として使ってます。
電圧計の目盛り面に手書きで書き加え。
ヒューズボックスは安全対策というよりも電流測定端子代わり。
スイッチ2個とヒューズボックスは瞬間接着剤で貼り付けてます。
カバーをしたところ
真っ白では寂しいので、そのうちなにか貼ります。
ちなみに、現時点の入力側端子は電池用と自動車のシガレットソケット。
出力側は自分が持ってるデジカメ、携帯電話、ノートパソコン、
それにダミー電池を使った「電池使用製品用端子」です。
その後思ったこと
短期間で確実に作るためにあまり希望通りの仕様とはならなかったので、3号機を検討しているが、
それはともかく、いくつか気になったこと。
(1)しばらく放置していたら、出力側スナップが内部断線していた。
スナップなんて安い物だし強度を求めるのも酷ではあるが、
スナップほど入手しやすく正負を間違えにくいコネクタもないので、どうしたものか。
(2)実際に買った製品ではないが、定格が8.4Vとか19Vとか、妙に細かいデジカメやノートパソコンをいくつか見かけた。
電子部品の電源電圧は、データシート上でも±5%で動く事を保証しているんだから、んな細かい事を気にする必要はないし、
本当に精度が必要な電子部品があったとしても、それなら内部にレギュレータを組み込んであるはずだから、
必要最低限の電圧よりちょっと高ければ多分いいのだが、どの程度許容してくれるのか分からないので実に困る。
これでは「キリのいい電圧をスイッチだけで設定」という前提が壊れてしまうので、どうしたものか。
「キリのいい電圧+可変抵抗で微調整」の方がよいのかの。
(3)上とも関係してくるが、電圧計。今回はすんげーでかい電圧計を組み込んだが、
あれなら安いDMMを裏に貼り付けた方が良かったかもしれない。可変抵抗で細かい電圧設定も出来る。
今回の場合は出力電圧に影響しない形で出力電流を測る事は出来ないが、
レギュレータ手前の電圧電流は測れるから、トータル電力は問題なく測れる。