苫小牧野宿道

次の朝エキスパートは袋から食パンを取り出し食べ始めた。この食パンはパン屋で傷物をただ同然にもらってきたものらしい。
柔らかそうで実に美味そうに見える。少しもらって食べてみたが最高に美味い代物だった。それと一緒にパンの耳もあった。

早速、パン屋を探しに駅を後にした。駅の近くのデパートの地下に食料品売り場があり、そこに入った。少しばかり気がひけたが、
そうもいっていられない。とにかく食料確保だ!「すいません。。パンの耳欲しいんですけど〜」と切り出した。
「えっ!パンの耳ですか?」と店員が返してくる。「はい」とちょっと弱気に答える。「あ〜犬かなんかにあげるんですね」
と言われて思わず「そうなんです」と答えてしまった。10円で山ほどのパンの耳を袋に入れてくれた。僕は複雑な気持ちでその店を出た。

駅に着き、袋を開けるとそこにはレーズンパンの耳やらサンドウィッチを作ったと思われる1センチ弱の
ハムの切れ端もついていたものまであった。もともとのパンがいいものなのか耳でさえなかなかのものだった。
犬にやるのはもったいない気がした。。

パンの耳をボトルの水で流し込み、朝飯が終わった。昨日のエキスパートももう1日ここにいるとのことで、
やはり食料を確保しに行ったらしい。エキスパートは金が無いとというわけでわなくどれだけ金を使わずに旅が出来るか試しているらしかった。

しばらくするとカッパを着込んだエキスパートが帰ってきた。Dパックから大事そうにビニールに入ったパンを取り出した。
どうやら僕の分ももらってきたらしい。嬉しいかぎりだ。好意に甘えることにした。その長さは40センチはあろうかというものだった。
要するにちゃんとした食パンだ。しかも焼きたて。そこのパン屋の人と仲良くなりただで傷物になった焼きたて
食パンをもらってきたらしい。すごい!!

台風は依然太平洋を北上しているようだった。僕はエキスパートに別れを告げフェリーターミナルに向かった。
ターミナルには疲れた顔をした人たちが大勢足止めを食っていた。受付は相変わらずスクリーンが閉まったままだ。
皆はモニターに映し出された台風情報を呆然と眺めている。僕はこの長い旅を一つ一つ振り返り脳裏に焼き付けていった。
出逢い、別れ、そして笑い、涙、出逢った人たちの顔が浮かんでくる。今回も良い旅立ったな。そんなことを考えていた。
そして最後に逢ったエキスパート。彼は野宿は貧乏人の代名詞ではなく、地元の人々や旅人との本当の意味での
出逢いをする為の手段だと教えてくれた。おまけに食料確保術まで。。

今夜もフェリーは欠航だった。パンを少しづつ食べ飢えをしのいだ。次の朝苫小牧発大洗行きのみ出航することが決まった。
ものすごい揺れと戦いながらの北海道脱出になったが、遠くに見える苫小牧の街を見送りながら、「また来るよ。」と心の中でつぶやいた。

終わり。


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