水泳プールの水質における大腸菌群及び一般細菌の検査方法について


「学校環境衛生の基準」の改正及び「愛知県プール条例施行規則等の一部改正」に伴う大腸菌群の測定方法及び一般細菌の検査についてその改正点及び検査方法について考えます。
今回の改正により大腸菌群及び一般細菌検査は以下の方法により毎月1回以上実施することとされました。
 
< 大 腸 菌 群 >
乳糖ブイヨン-ブリリアントグリーン乳糖胆汁ブイヨン培地(LB-BGLB)法(※1)、又は特定酵素基質培地(MMO-MUG)法(※2)により培養を行うが、大腸菌群は、検出されてはならない。
 
※1 LB-BGLB法
推定試験
検水50mlを3倍濃厚乳糖ブイヨン培地(LB)に加え、孵卵器内で35℃ないし37℃で45ないし51時間培養し、ガスの発生を観察する。この時ガスの発生がなければ大腸菌群陰性である。
確定試験
上の推定試験においてガスの発生を観察したときは、直ちに当該発酵管中の菌液1白金耳量をブリリアントグリーン乳糖胆汁ブイヨン培地(BGLB)に移植し、孵卵器内で45ないし51時間培養しガスの発生を観察する。このときガスの発生がなければ大腸菌群陰性である。
 
※2 MMO-MUG法
ネジ口試験管に(乾燥滅菌済)MMO-MUG培地を分注し検水50mlを加え、直ちにネジ口栓を堅く締め、試験管を上下に激しく振って培地を溶かした後、孵卵器内で24時間培養し、黄変の有無を観察する。このとき、検水の色が比色液より薄いときは大腸菌群陰性です。検査が短時間で実施できるのが特徴です。
比色液はO-ニトロフェノール4mg、ヘベス6.9g、ヘベスナトリウム塩5.3gを混合し、精製水を加えて1℃とし、ネジ口試験管に分注して作る。
 
< 一 般 細 菌 数 >
標準寒天培地法により培養を行うが、一般細菌数は1ml中200コロニー以下であること。
※検水をメスピペットにより2枚以上のペトリ皿に1mlずつ採り、これにあらかじめ加熱溶解させた45ないし50℃に保った標準寒天培地を薬15ml加えて混和し、培地が固まるまで静置する。次にペトリ皿を逆さにして孵卵器内で35℃ないし37℃で22ないし26時間培養する。培養後、各ペトリ皿の集落数を数え、その値を平均して菌数とする。
 
 ここで注意すべきは水道法、上水試験法等で多少検査方法及び使用できる培地等に差があることです。上水試験等では認められたものでも水道法ではまだ取り上げられていないといったことがあるのです。このため愛知県プール条例においてプール水の大腸菌群の検査方法は水道法水質基準に定める方法とされたことから(この方法が一般的と思われる)この方法についての詳細を以下に述べることにします。
 ただ、今までLB−BGLB法で検査されていたところが多かったと思いますが、今回の改正によってLB−BGLBよりMMO−MUG法で行う方が比較的検査がやりやすいと考えられます。
 
< 大 腸 菌 群 >
速やかに検査する。速やかに検査できない場合は1から5℃の冷暗所に保存し12時間以内に検査すること
1. LB−BGLB法
(乳糖ブイヨン−ブリリアントグリーン乳糖胆汁ブイヨン培地法

 【試薬・器具等】
3倍濃厚LB発酵管
 
 
  

 
 
 
市販のLB培地を用い、使用法の3倍濃度となるように平底フラスコなどにとり加熱溶解する。容量25ml及び75mlの位置に刻線を付けた大試験管(外径約30mm)にダーラム管(参考 内径約6mm×高さ50mm)を入れ、加熱溶解した3倍濃厚LB培地を25mlの刻線まで入れ、メタルキャップをして、121℃15分間高圧滅菌後、流水などで急冷する。
BGLB発酵管
 
 

 
 
市販のBGLB培地を用い、使用法に従って平底フラスコなどで加熱溶解し、ダーラム管(参考 内径約6mm×高さ30mm)を入れた中試験管に10mlずつ分注し、メタルキャップをして、121℃15分間高圧滅菌後、流水などで急冷する。
EMB平板培地
 
 

 
 
市販のEMB培地を用い、使用法に従って平底フラスコなどで加熱溶解し、121℃15分間高圧滅菌後、滅菌ペトリ皿に約15mlずつ分注し、静置して固まらせ、孵卵器に倒置し、蓋をずらして30分間表面を乾燥する。(用事調整)
普通寒天培地
 
 

 
 
市販の普通寒天培地を用い、使用法に従って平底フラスコなどで加熱溶解し、中試験管に5〜10mlずつ分注し、メタルキャップをして121℃15分間高圧滅菌し、試験管を斜めに静置して培地を固まらせる。
LB発酵管
 
 

 
市販のLB培地を用い、使用法に従って平底フラスコなどで加熱溶解し、ダーラム管(参考 内径6mm×高さ30mm)を入れた中試験管に10mlずつ分注し、メタルキャップをして、121℃15分間高圧滅菌後、流水などで急冷する。
グラム染色液 市販品あり

 
 【注意・参考事項】
@
 
 
 
残留塩素を含まない試料は、栓と首部をアルミ箔で覆い、乾熱滅菌(170℃1時間)した共栓ガラス瓶の肩まで採取する。(市販のガス滅菌したポリ瓶でもよい。)残留塩素を含む試料にあっては、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3・H2O)の0.02〜0.05gを入れ、栓と首部をアルミ箔で覆い121℃20分間高圧滅菌した100〜120mlの共栓ガラス瓶の肩まで採取する。
A 検水50mlを傾斜法で発酵管に入れる。
B 発酵管を軽く振ったとき、泡状のガスが認められた場合もガス発生と判定する。
C 菌液1白金耳量をBGLB発酵管に移植する。
D
 
EMB平板上に独立集落が発生するように、1白金耳量を画線塗布する。(塗り始めは狭い範囲を往復して平板に強くこすりつけ菌液を薄めるようにする。)
E
 
定型的集落(緑色金属光沢を示し、透過光線でさび色を呈する円形集落)及び亜定型的集落の形、色などは上水試験方法のカラー写真を参考にする。
F 集落を白金耳で採り、LB発酵管と普通寒天斜面培地に移植する。
G LB発酵管にてガスの発生を観察したときは、同一集落の普通寒天斜面培養菌についてグラム染色を行う。
H
 
グラム染色はHuckerの変法を用いる。常に対照として、同一スライドグラス上にブドウ球菌(グラム陽性)と大腸菌(グラム陰性)を塗末染色し検鏡する。ここに用いるブドウ球菌及び大腸菌は必ず新鮮培養菌を使用する。

 【操 作】
 【成績書記載】   陰性、陽性のいずれかを○で囲む。
 【水質基準】    検出されないこと。
 
 
※Huckerの変法
 【注意・参考事項】
Huckerの液
 
 

 
 
A液 クリスタルバイオレット0.3gを95%エタノール20mlに溶解させたもの。

B液 シュウ酸アンモニウム0.8gを精製水80mlに溶解させたもの。
A液とB液を混合、翌日ろ過し染色ビンに貯える。

ルゴール液

ヨウ素1g及びヨウ化カリウム2gを精製水300mlに溶解させたもの。

サフラニン液 サフラニン約2.3gを純エタノール100mlに溶解させ、使用時これを精製水で5〜10倍に希釈した液。
 【注意・参考事項】
 1) A液を精製水で10倍に希釈し、その20mlとB液80mlとを混合した液を用いてもよい。
 
 
 
2. MMO−MUG法
 (特定酵素基質培地法)

 【試薬等】
大腸菌群検査用試薬 市販品あり(参考 コリラート)
ピペット、ネジ口試験管 滅菌済みのもの。(50mlの遠心管でも可)
恒温器 35℃〜37℃で制御できるもの
比色管 市販品あり。(コリラート比色管等)
紫外線ランプ 長波長(360nm)紫外線照射ランプ

 【注意・参考事項】
@ 水中の大腸菌群の検出並びに大腸菌の同定を行うことができる。
A 操作はすべて無菌的に行う。
B
 
 
 
試薬の組成(コリラート50P/Aの場合)は、特異的に大腸菌群に利用される塩類、窒素源及び炭素源からなり、大腸菌群並びに大腸菌のそれぞれに特異的な酵素基質としてONPG(o-Nitrophenyl-β-D-Galactopyranoside)及びMUG(4-Methylumbelliferyl-β-D-Glucuronide)を含んでいる。ONPGが代謝され黄色の色素が遊離した場合、大腸菌群の存在を示し、MUGが代謝され蛍光色素が遊離した場合は大腸菌の存在を示す。
C 容器を激しく振り、転倒混和を繰り返し、試薬を溶解させる。ごく少量の溶け残りがあっても培養中に溶解される。
D
 
腐食土由来などの物質が含まれている検水では最初から色が付いている場合があるが、この場合は反応後同一試料をコントロールブランクとして比較する。
E
 
試験管から約13cm離して暗所で紫外線照射を行う。ポータブル型の紫外線ランプ(長波長360nm)を使用する場合は、約5cmの距離から照射する。
F 大腸菌の100mlあたりの菌数を算出するためには、この方法とは別に菌数測定用検査を行う。

 ポリプロピレン製滅菌遠心管
 (50ml)とコリラート50P/A
遠沈管立てにたてたところ
孵卵器に入れて35〜37℃で24時間培養

 【操 作】
<陽性と判定する黄色濃度の下限を示す比色液> <大腸菌陽性の場合の例>

 【成績書記載】
陰性、陽性いずれかを○で囲む。

 【水質基準】
検出されないこと。


< 一 般 細 菌 >
 
速やかに検査する。速やかに検査できない場合は1から5℃の冷暗所に保存し12時間以内に検査すること

 【操 作】
 【成績書記載】
菌数  0 ・・・・・
菌数 99以下 ・・・・・ 小数点以下は切り捨て
菌数100以上
 
・・・・・
 
四捨五入し、上位より2桁を有効数とする
  (例:142は140)
菌数300以上 ・・・・・ 300以上

 
 【水質基準】
1mlの検水で形成される集落数が100以下であること。
 【試薬等】
標準寒天培地
 
 
 

 
 
 
市販の標準寒天培地を用い、使用法に従って平底フラスコなどで加熱溶解し、121℃ 15分間高圧滅菌する。50℃前後に保っておくこと。
 (市販品によっては121℃ 20分高圧滅菌もあるので確認すること)
 なお、培地は変質の恐れがあるので、加熱溶解を繰り返して用いないこと
滅菌シャーレ
(ペトリ皿)

 
深型、1検体につき2枚。
 
メスピペット 2ml用を用意し乾熱滅菌しておく。

 
 【注意・参考事項】
@
 
 
 
残留塩素を含まない試料は、栓と首部をアルミ箔で覆い、乾熱滅菌(170℃1時間)した共栓ガラス瓶の肩まで採取する。(市販のガス滅菌したポリ瓶でもよい。)残留塩素を含む試料にあっては、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3・H2O)の0.02〜0.05gを入れ、栓と首部をアルミ箔で覆い121℃20分間高圧滅菌した100〜120mlの共栓ガラス瓶の肩まで採取する。
A
 
乾熱滅菌した2mlのメスピペットを用いて検水を採り、2枚の滅菌ペトリ皿(蓋に試料名をつける)にそれぞれペトリ皿の蓋をわずかに開けて1mlずつ入れる。
B
 
 
標準寒天培地を約15mlずつ加えた後、ペトリ皿の蓋に付着しないように注意してよく混合する。(落下細菌等の混入にも注意!対照として滅菌ペトリ皿に培地のみを注加、培養してペトリ皿・培地の無菌及び操作が完全か否かを確認する。
C ペトリ皿は蓋についた凝固水が平板上に落ちないように逆さにして培養する。
D
 
培養後集落数を数え、その値を平均して菌数とする。
1.5倍率のルーペを用いると便利である

<乾熱滅菌器とホットプレートスターラー> <ウオーターバス> <高圧蒸気滅菌器>
<24時間培養後の培地と集落>


< 操 作 手 順 の 図 解 >

※ 注 意 !!
  最初の準備段階として標準寒天培地を精製水で溶かして、高圧蒸気滅菌器にかけること。
(かなり時間がかかるので最初に準備する)
その後、45〜50℃程度にさますとともに、ウオーターバス(恒温漕)で45〜50℃で保温し培地が固まらないようにする。
準備が終わったら以下の操作手順にしたがって培養(倒置)をおこなう。
倒置培養の意味??
  落下細菌の影響を防ぐ意味と、培地が固まるときシャーレの蓋の内側に蒸気が付着し、これが冷める過程で水滴となり、そのままで放置すると培地表面に落ち、培養した集落が重なり1つの巨大コロニーを形成してしまうことを防ぐ意味があります。


 @ ペトリ皿を取り出す  A 消毒  B ピペットで検水をとる
 C 1ml入れる  D 消毒  E 寒天培地
 F 口をバーナーであぶる  G Fと同  H 約15mlほど入れる
 I 十分混合する。口をバーナーであぶる。  J 蓋(アルミ箔)をする。  K Fと同

※培養後コロニーの数を数える。