水泳プールにおける濁度検査について

 

 「学校環境衛生の基準」の改正及び「愛知県プール条例」の一部改正に伴うプール水の水質及び循環ろ過器の処理水水質の濁度検査について、その改正点及び検査方法について考えます。

 今までろ過器については、プール水を1日当たり4回以上循環させるように運転すると、プール水中の汚濁物質の98%以上を取り除くことができることから1日4回以上プール水を循環させるようにするとされていただけで、はっきりとした基準が設けられていたわけではありませんでした。 しかし今回の改正により、浄化後の循環水は、濁度が0.1度以下を目標に、0.5度以下になるように浄化設備(ろ過器)の維持管理を行う必要が生じてきたといえます。

改正では、

1. プール水の水質基準について

 標準系列透視比濁法又はそれと同等以上の精度を有する検査方法により測定し、その濁度は2度以下であることとされています。 (検査回数:月1回以上)
これについては従来の比色管を使った標準液(カオリン)との比色法で(0.5度が十分確認できる)測定可能と思われますので詳細は省きます。

2. 循環ろ過装置の処理水水質について

循環ろ過装置の出口における処理水の濁度は、0.5度以下であること(0.1度以下が望ましいこと)とされました。(検査回数:年1回以上)

このためこの処理水の濁度検査については0.1度が十分確認できる方法により測定する必要があります。
(ただし、愛知県プール条例では平成15年5月31日まで摘用を猶予するとされました。)
ここで、水道法で定められた濁度の検査方法としては、

 A:比濁法

 B:透過光測定法

 C:積分球式光電光度法

 D:散乱光測定法又は透過散乱法


の4つがありますが、0.1度が確認できる測定法としてはC、Dの方法になると考えられます。

そこで、今回はDの散乱光測定法又は透過散乱法を用いたラボ用濁度計2100N(ハック社)とポータブルな携帯用濁度計2100P型(ハック社)について実際に測定し比較してみることにしました。
この2機種を選択したのは、

  ア、0.1度以下を測定できる濁度計は非常に高価であるため、できるだけ安価なものを選択したい。

  イ、同一測定原理でかつ上位クラスの機種がそろっていることで比較検討ができるものがいい。

  ウ、今までの納入先使用実績等も考慮して選択したい。


の3点を目安に選んでみました。


<積分球式濁度計> < 左から 2100N、携帯型2100P、濁度・色度計 >

【使用機器】
<濁度計2100N型(ハック社)>
(原理)


90%散乱光、透過光、前方散乱光を検出、または90%散乱光のみを検出

   (レンジ)

       NTUモードで0〜0.999(手動)、0〜9.999、

0〜99.9、0〜4000(自動)
   (分解能)

       最低レンジで 0.001NTU

<携帯用濁度計2100P型(ハック社)>
(原理)


90%散乱光、透過光を検出

   (レンジ)

       0〜1000NTU(オートレンジ)

       0〜9.99、0〜99.9、0〜1000NTU(マニュアルレンジ)

   (分解能)

       最低レンジで 0.01NTU
 

NTU濁度単位
 NTUは比濁計濁度単位(Nephelometric Turbidity Unit)の略で、投射光と直角方向へ散乱された光量を光電管などを検出器とする測定器を使用して測定した場合の単位です。ホルマジン濃度(FTU)にNTUを対応させて、計器目盛りNTU=FTUとしています。なお、標準物質にカオリンを使用した場合にはカオリン濁度(度)にNTUを対応できます。(カオリン標準液は安定性が悪いことからNTU(FTU)が用いられています)


【検査水の採水】
今回、下記写真のような採水栓が設置されましたので、ここから100〜200mlポリ瓶に採水します。
<室内にあるろ過器>
 
<採水用蛇口>
 
<50mプールでろ過器が2基>
 
<採水用蛇口も2つ、それぞれ採水>
 
<外にあるろ過器と採水用蛇口>
 
<濁度検査の様子>
 
  ※ 注 意!
   採水時には十分水を流した上で採水するよう心がける必要あり! 後から無理に蛇口をつけたためか不十分だと濁度の数値が大きくなる恐れがあります。

【測定結果】
 
2100N型濁度計 携帯型2100P濁度計
検査値(NTU) 補正値(NTU) 濁 度 (度) 検査値(NTU) 補正値(NTU) 濁 度 (度)
S1 T1 U1 S2 T2 U2
(B1=0.045) (S1−B1) (T1×0.8) (B2=0.08) (S2-B2) (T2×0.8)
0.235 0.190 0.15 0.30 0.22 0.17
0.534 0.489 0.39 0.55 0.47 0.37
0.402 0.357 0.28 0.45 0.37 0.29
2.200 2.155 1.72 2.24 2.45 1.96
0.130 0.085 0.06 0.26 0.18 0.14
0.497 0.452 0.36 0.53 0.45 0.36
4.260 4.215 3.36 4.23 4.15 3.32
1.150 1.105 0.88 1.16 1.08 0.86
1.040 0.995 0.79 1.11 1.03 0.82
0.415 0.370 0.29 0.46 0.38 0.30
0.260 0.215 0.17 0.34 0.26 0.20
2.430 2.385 1.90 2.51 2.43 1.94
0.415 0.370 0.29 0.51 0.43 0.34
0.281 0.236 0.18 0.36 0.28 0.22
0.919 0.874 0.69 1.07 0.99 0.79
2.310 2.265 1.81 2.09 2.01 1.60
3.780 3.735 2.98 3.86 3.78 3.02
0.546 0.501 0.40 0.66 0.58 0.46
0.904 0.859 0.68 1.04 0.96 0.76
0.075 0.030 0.02 0.15 0.07 0.05
0.189 0.144 0.11 0.24 0.16 0.12
10.500 10.455 8.36 10.80 10.72 8.57
2.560 2.515 2.01 2.88 2.80 2.24
1.160 1.115 0.89 1.37 1.29 1.03
0.093 0.048 0.03 0.20 0.12 0.09
0.328 0.283 0.22 0.49 0.41 0.32
0.954 0.909 0.72 1.19 1.11 0.88
0.280 0.235 0.18 0.38 0.30 0.24
(B3=0.042) (B4=0.06)
エ’ 1.950 1.908 1.52 2.09 2.03 1.62
キ’ 0.740 0.698 0.55 0.82 0.76 0.60
ク’ 0.275 0.233 0.18 0.32 0.26 0.20
ケ’ 0.363 0.321 0.25 0.38 0.32 0.25
シ’ 1.470 1.420 1.14 1.48 1.42 1.13
ソ’ 0.770 0.728 0.58 0.91 0.85 0.68
タ’ 0.411 0.369 0.29 0.57 0.51 0.40
チ’ 0.415 0.373 0.29 0.41 0.35 0.28
テ’ 0.350 0.308 0.24 0.35 0.29 0.23
ニ’ 0.132 0.090 0.07 0.15 0.09 0.07
ヌ’ 0.257 0.215 0.17 0.25 0.19 0.15
ネ’ 0.212 0.170 0.13 0.26 0.20 0.16
ノ’ 0.060 0.018 0.01 0.12 0.06 0.04
ノ’’ 0.062 0.020 0.01 0.09 0.03 0.02
ヒ’ 0.415 0.373 0.29 0.49 0.43 0.34
※U1,U2の値については少数点以下3桁は切り捨て
※Bは蒸留水によるブランク値

 
<測定例グラフ T
<測定例グラフ U
【考 察】
 0.1度以下が測定できる濁度計は非常に高価であり、そうした意味で今回、ラボ用濁度計である2100N型を対照としてポータブル濁度計である2100P型を比較し上記のような結果となった。

測定例グラフTのア〜フについては、採水時に十分水を流してから採水するよう徹底ができなかったことから高い数値となりレンジが高くなったことから差が大きくなった検水があった。しかし全体としては良好な結果であった。
〜ヌについては0.5度以上だったものを、翌日再採水し検査したもので濁度計の取り扱いにもなれてきたためかより良好な結果となった。

測定例グラフUは7月中旬以降の2回目プール水検査において再調査を実施した結果であるが採水時に5分以上の放水を行ったこと、濁度計の操作にも慣れてきたためか問題のない相関を示した。測定精度を良くするためには、やはり慣れが必要であるとともに、特に低濃度の測定においてはセルの微細な傷が大きな影響を与えることからセルへのシリコンオイル塗布を頻繁に行う必要があると思われます。こうした点では、2100N型ではフロー・セル・キットを使用するのも良いかと考えます。なお、低濁度域での測定ではサンプルセルのガラス厚差による誤差も生じると思われるので、今回は1本のセルを用いて測定を行いました。なお、最初に蒸留水を入れて測定しこれをブランクとしました。

上記の結果より携帯用濁度計2100P型が今回の改訂による浄化後の循環水の濁度検査に十分使用できることが確認できた。

2100N型(2100Pも同様)については、検査水の浮遊粒子の状態によっては測定値が安定しない場合があります。シグナル平均化機能があるとはいえ低濁度の測定ではそれで大丈夫とはいえず、光源にかざしての検査水の確認等で問題があれば再検査をできるだけ行うように心がけたい。検査所に出した場合、再検査は費用的にできるかどうか分からない場合もありますが、こうしたとき価格が相対的に安い2100P型で再検査を行うようにするのも1つの方法ではないかと思われます。

採水については、今回投薬用ポリ瓶を使用し、十分洗浄して、採水栓より必ず5分以上流水後、流水のまま栓を閉めることなく採水。その後、光にかざして錆等の微粒子が入っていないかを確認後持ってきていただきました。採水栓をあとから取り付けたためこうした心配も考える必要があると同時に、今年度採水栓を取り付けたところは来年度、1年放置された状態での採水になりますのでより放水等をしっかり行う必要があると思われます。

今回再調査の結果で0.5度を越えたろ過器については点検・改善等の依頼をしましたが、その折りプールの管理担当者(学校)・設置担当者(教育委員会)と事前に連絡を取りろ過器の状態についてできれば話し合っておいていただきたいものです。普段何の支障もない状態なのに異常値がでた場合、分析機器等に問題が無くても、採水等に問題があるといった場合もあると考えるからです。そして、でてきた数値をそのまま報告するのではなく異常が生じた場合は再検査を行い原因を話し合うといった習慣を普段から心がけてゆきたいと考えます。
今回のろ過器については担当者自体が少々問題があると考えていた様子で改善をしていただけるとのことでした。


 なお、NTU濁度単位から濁度(度)への変換は参考資料中の換算計数(1NTU=0.8(度))を用いて換算しました。

【参考資料】

濁度計実験結果
 HACH社製濁度計2100AN型(透過散乱光式:2100Nと同)をホルマジン標準液で校正後、カオリン濁度標準液を測定する。


2100AN濁度計

     カオリン標準液 :1000度

     ホルマジン標準液:4000NTU

標準液濃度(度)

2100AN測定値(NTU)

0.00

0.000

0.01

0.012

0.02

0.024

0.03

0.038

0.04

0.051

0.05

0.055

0.10

0.125

0.20

0.245

0.30

0.356

0.40

0.473

0.50

0.587

1.00

1.186


      上表より直線の近似式を求めると  y=1.1826x+0.0015

                    

                       R=0.9999

      よって、 0.1 NTU 0.08

      として換算する。