「水泳プールの水質管理」について

総トリハロメタンの検査を中心とした注意点


 厚生労働省における遊泳用プールに係わる衛生基準の改訂等に伴う措置として、平成13年8月28
日付けで「学校環境衛生の基準」の一部改訂が通知され、これに基づき、水泳プールに関する定期環境
検査、日常点検及びそれらに基づく事後措置の徹底を図るとともに、改訂の内容及び留意事項に留意の
上、水泳プールにおける適切な衛生管理の実施をすることとされました。

この改正によって新たに追加された項目も多いことから、主立った改正項目について以下に説明と解説
を加えます。

(1)水質基準

  @ 総トリハロメタン
          ●プールの使用期間中に1回以上適切な時期に検査を行う
      ●濃度は0.2mg/L以下であることが望ましい(水道水質では0.1mg/L以下)
      ●測定法
        PT-GC-MS法(パージ・トラップ-ガスクロマトグラフ-質量分析法)
        HS-GC-MS法(ヘッドスペース-ガスクロマトグラフ-質量分析法)
        PT-GC法(パージ・トラップ-ガスクロマトグラフ法)

                

          ヘッドスペース法    パージ&トラップ法

<総トリハロメタンとは>

 総トリハロメタンは発ガン性を考慮して水道水質に関する基準に初めて入れられた水質項目
で、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルムの4つの総和
のことをいい、消毒用の塩素と水中のフミン質などの微量有機物質が反応することによって生じ、
水温が高いほど、塩素処理後の時間が長いほど生成量が大きくなります

   クロロホルム   ジブロモクロロメタン   ブロモジクロロメタン   ブロモホルム



 
<検査方法について>

 今回の改正で検査方法についても具体的に上記3方式が明示されたため、愛知県学校薬剤師会と
しては(社)愛知県薬剤師会 生活科学センターに総トリハロメタンの分析を依頼したいと考えて
おります。そのため分析にあたっての試料採取方法について以下に述べます。

<用意するもの>
 ●トリハロメタン測定用ガラス容器(センター専用容器)・・・センターで用意
 ●添加試薬(アスコルビン酸)       ・・・・・・・・センターで用意
  ●採水容器(500mL又は1Lのフタ付きポリビン)・・・・自分で用意
 ●クーラーボックス等           ・・・・・・・・自分で用意

トリハロメタン測定用ガラス容器 (以下、トリハロ容器)
容器は事前処理が施してあるため注水時まで栓を開けないでください。また、容器中には極少量の塩酸が入っているので注意してください。
@ 採水容器(ポリビン)はプール水にて2回ほど洗浄する。
A 採水地点は、プール中央の水面下20pとする。
B
 
 
採水容器(ポリビン)を、フタを閉めたまま水中に沈め、水面下20pのところでフタを開けプール水を採水し、満水で空気が出なくなったら水中でフタを閉め取り出す。
C トリハロ容器の栓をはずす。
D
 
 
トリハロ容器を傾け、採水容器(ポリビン)中のプール水をトリハロ容器の壁面に沿わせて気泡ができないように注意して容器の7分目程度まで入れる。
E
 
添加試薬をトリハロ容器中に加え、容器を2〜3回ゆっくりと振って溶かす。(この時、完全に試薬が溶け切らなくてもよい)
F
 
再び、採水容器(ポリビン)中のプール水を注水してトリハロ容器のすりあわせガラスの上部まで入れる。
G
 
トリハロ容器中に気泡が入っているといけないので、気泡が浮いてこないことを確認する。
H 静かに栓をする。
I
 
 
人差し指と中指でトリハロ容器の首をはさみ、親指で栓の頭を押さえて反転させトリハロ容器の受けに溜まっている水を捨てる。
J 移動等を含め、必ず冷蔵庫(クーラー等)に冷所保存する。
K
 
できるだけ地区学校薬剤師会等で検体をまとめる。
     (この時も必ず冷所保存)
L 回収・分析・分析結果の連絡等





センターで用意する容器等は実施予定日が決まり次第、生活科学センターから各支部長又は窓口の
先生宛に配送いたします。



前項のフローチャートを写真で紹介する



< 手 順 A〜C > < 添加試薬(アスコルビン酸)>
< 手 順 D > < 手 順 E >
※カプセル内の試薬のみを入れること
< 手 順 F > < 手 順 G > < 手 順 H >
※Hは栓をしたときに外に水があふれ出る様子
手順I以下は次ページのトリハロ容器の扱い方を参照してください!


注 意 (冷所保存)
検体採取後のトリハロ容器の移動あるいは保管等では、必ずクーラーボックス等を使用して冷所
保存をすること!

トリハロメタン測定用ガラス容器

(上)
(正面   栓) (正面) (斜め上方)

<トリハロ容器の扱い方>

 
人差し指と中指でトリハロ容器の首を挟み、親指で栓の頭を押さえて反転させ、
トリハロ
容器の受けに溜まっている水を捨てる。



<参考: 一般細菌検査>
   


   A 濁 度

標準系列透視比濁法又はそれと同等以上の精度を有する検査方法により濁度は、2度以下である
こと。


   B水素イオン濃度(pH)

 比色法又はそれと同等以上の精度を有する検査方法により、pH値5.8以上、8.6以下であ
ること。

<日常点検>

水素イオン濃度はプール使用前1回測定しpH値が基準値程度に保たれていることを確認す
ること。


   C遊離残留塩素濃度の測定

 ジエチル-p-フェニレンジアミン法(DPD法)又はそれと同等以上の精度を有する検査方
 法により、プールの対角線上3点以上を選び、表面及び中層の水について測定し、すべての点
 で0.4mg/L以上であること。また、1.0mg/L以下であることが望ましい。


   D大腸菌群の測定方法及び一般細菌数の検査について

<大腸菌群>

乳糖ブイヨン-ブリリアントグリーン乳糖胆汁ブイヨン培地(LB-BGLB)法(※1)、又
は特定酵素基質培地(MMO
-MUG)法(※2)により培養を行うが、大腸菌群は、検出さ
れてはならない。


     ※1 LB
-BGLB法
           ● 推定試験
             検水50mlを3倍濃厚乳糖ブイヨン培地(LB)に加え、孵卵器内で35℃ない
         し37℃で45ないし51時間培養し、ガスの発生を観察する。この時ガスの発生
         がなければ大腸菌群陰性である。

           ●確定試験
             上の推定試験においてガスの発生を観察したときは、直ちに当該発酵管中の菌液1
         白金耳量をブリリアントグリーン乳糖胆汁ブイヨン培地(BGLB)に移植し、孵
         卵器内で45ないし51時間培養しガスの発生を観察する。このときガスの発生が
         なければ大腸菌群陰性である。


※2 MMO-MUG法

ネジ口試験管に(乾燥滅菌済)MMO-MUG培地を分注し検水50mlを加え、直ち
にネジ口栓を堅く締め、試験管を上下に激しく振って培地を溶かした後、孵卵器内で
24時間培養し、黄変の有無を観察する。このとき、検水の色が比色液より薄いとき
は大腸菌群陰性です。検査が短時間で実施できるのが特徴です。

比色液はO-ニトロフェノール4mg、ヘベス6.9g、ヘベスナトリウム塩5.3gを混合
し、精製水を加えて1℃とし、ネジ口試験管に分注して作る。

<一般細菌数>
       標準寒天培地法により培養を行うが、一般細菌数は1ml中200コロニー以下であること。

     ※検水をメスピペットにより2枚以上のペトリ皿に1mlずつ採り、これにあらかじめ加熱
      溶解させた45ないし50℃に保った標準寒天培地を薬15ml加えて混和し、培地が固
      まるまで静置する。次にペトリ皿を逆さにして孵卵器内で35℃ないし37℃で22ない
      し26時間培養する。培養後、各ペトリ皿の集落数を数え、その値を平均して菌数とする。


(2)施設基準

  @屋内プールにおける照度・換気及び塩素ガス

屋内プールにあっては照度、換気設備の使用状況及びその管理状況等について調べる。

    ●プール照度

          屋内プール水平面照度は、200ルクス以上であることが望ましい。
    ●屋内プールの空気中二酸化炭素濃度
          屋内プールの空気中二酸化炭素濃度は、0.15%以下であることが望ましい。
    ●屋内プールの空気中塩素ガス濃度
       屋内プールの空気中塩素ガス濃度は、0.5ppm以下であることが望ましい。


    A排水口の安全管理
      排水口及び循環水の取り入れ口には、堅固な格子鉄蓋や金網を設けてネジ・ボルト等で固定
     させる。(蓋の重量のみによる固定は不可)とともに、吸い込み防止金具等を設置すること。
     また、蓋等の欠損、変形、ボルト等の固定部品の欠落・変形等がないか確認すること。


    日常点検においても入泳前に必ずこれらの安全確認をするとともにその結果を記録すること。


   B「浄化消毒設備」を「浄化設備」、「消毒設備」と別項目立てとする


   C
専用便所、専用の薬品保管庫を明示する


    Dろ過器出口の濁度
      プール水の濁度は2度以下とされたが、循環ろ過装置の処理水質は、その出口における濁度が、
    0.5度以下
であること(0.1度以下であることが望ましいこと)。また、循環ろ過装置の出
     口に検査のための採水栓等を設けること。

循環ろ過装置の概要

   Eレジオネラ菌の基準
      学校プールで気泡浴槽や採暖槽が設置されているところはないと思われる。