動機(動因)
人間は、ある目的を持って何かをしようとすると、その目的を成し遂げようとする力、つまり能
力は同一でありません。お互いに違うばかりでなく、やり遂げようとする気持ちの持ち方や、その
目的を立てた動機などを強くもってるかどうかが、能力に関係してきます。
動機は個人個人の心の中にある欲求や、心理的な物足りなさ、あるいはやらなければならな
いと駆り立てられる気持ち、そして、前後を考えないで行動を起こすこと、というようにハッ
キリと言い表すことができます。
動機は、ある目標に向けられてはいますが、その目標は必ずしも自覚して行動を起こすとは
限りません。動機を抜き出してその内容を調べようとするのは、行為の根拠となるわけがある
からです。
動機が個々の人間のなにかをやろうとする気持ちを芽生えさせたり、その気持ちをいつまでも
持ち続け、そして、ごく当たり前に見える方向性を決めています。動機つまり欲求は、何かを
やろうとする根本です。
説明をすすめるについて、動機とか、動因、欲求という用語は、行動科学では同意語と理解
しています。ですから、欲求という言葉を心理的に切迫した気持ち、あるいは止むに止まれな
い願望といったニュアンスを抜きにして、単に個人の心の底にある行為へのきっかけ、いわゆ
る何かをやりたい要素というように考えて下さい。
動機の種類
動機にはいろいろな特徴があると考えられますが、大きく分けると二種類に分類することが
できます。一つは、自分を中心にして、身体的・心理的に自己維持を求めようとするもの。も
う一つは、成長、自己実現等、自分の身の回りを豊かな満足に向上させようとするものです。
前者を、生存動機、後者を生成動機と呼ぶ人もいます。
これらを追い求めて成功するということは、どんな文化であろうと、特定の生理的および
心理的欲求、ようするに心の中にある願望を満たさなければならないことを意味します。
しかし、それだけではありません。他の人たちとの生存と生成の追求、それから、自分
が所属する集団自体の生存と生成の追求も考えなければなりませんから、その目的を果た
すために、集団の目標と、集団行動するときの考え方などを、自分のものとして受け入れ
る傾向があります。
このように動機にはそれぞれの特質があるところから、マズローは、人間の基本的欲求
を五つにわけ、それらは、階層をなしていると見解を主張しました。
つまり、もっとも基本的なものが身体的欲求です。その上に段階的に、安全欲求、愛と帰
属の欲求、自尊と自己向上の欲求、そして、最後に自己実現の欲求というジョン所で順序
で層をなしているとしています。
動機は、それぞれの欲求に相互関係があり密着しているので単独に動くことはありませ
ん。一つの動機が多くの行為の中にあらわれることもあれば、一つの行為が複数の動機の
現れであることもあります。
例えば、ある人が資格試験を受験するという行為は、給料を増やすためでもあり、転職や
就職に有利なように、所属企業が倒産しても自分を安全にすることにもなります。また時
によっては、仲間に負けたくない競争意識があるかもしれません。
非常に困難な生活環境であるとか、力関係による脅威にさらされている場合などでは、
自己維持とか生存に関する動機が優位を占める傾向がありますが、恵まれた条件の下で
は、なんらかの物事を生成させようとする意欲の動機が有力になる傾向があります。
動機と個性などの関係
一般的に多くの人々は、それぞれに、終生を通じ同じ考えや目的を持って、生活のため
の何かをおこなう動機のフォームを作り上げる傾向があります。
このフォームが、その人の特長となって、その人のライフスタイルの一部となっていま
す。
しかし、不足感や不満感が充足されるに従って、動機の形、つまり欲求のフォーム
は変わってきます。
生理的・心理的欲求を満たす新しいやり方を、習得するにごとに、また環境が新しい
要請をすると次の願望が生まれるのでフォームには長期的な変化が起こります。
動機は、知覚・推理・学習を統括しているので、動機の影響によって、なんらかの
形にまとまって安定しているものが、変化を生じ形を歪めます。自我に関係すると
か、脅威が知覚されるとこの傾向は強くなります。一般的に、自我に関与するケース
が大きくなると、パーソナリティ要因が行動を決めますから、その人のライフ・スタ
イルと一致してくるようになります。
ようするに、個性が強く出るような行動は、その人の自我に環境の要請が強く影響
を与えていることになります。
けれども、自我関与が小さいときには、状況要因が行動を決めます。動機は、態度と
考え方の枠組みに影響を及ぼすだけでなく、環境や行動状況からも影響を受けている
ことになります。
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