貝がら山遊園

プジョー307XS(T5型)

<所有時期:2005年2月〜2009年11月>

東京港にて。手放す最終日、ディーラーに向かう途中

 22のとき中古のサニーを買ってはじめてクルマのオーナーになって以降、16年目にしてようやく3代目となったぎむぎむ号。2005年2月に、2年半落ち、走行2万5千kmのものを購入しました。

 その前に乗っていた2台目ぎむぎむ号は、ミラージュの「RS」という、競技用モデルでした。92年に購入し2005年まで18万km走ってなお元気は衰えていませんでしたが、ぎむぎむ家にも家族(ぽん介)が増えることになり、さすがに3ドアの競技用ミラージュでは使い勝手が悪かろう、しかし比較的小柄なクルマが欲しいとのことで5ドアのハッチバックを検討。トランスミッションはやっぱマニュアルが欲しい。

 が、既に国産の5ドアハッチバックでは、トヨタのオーリスオーテックバージョンなどごく一部の特殊な車しか残っていません。そこで欧州車に目を向けました。フォルクスワーゲンのゴルフ・・・ではそこらへんに走っててつまらない。そこで以前から気になっていたプジョーに着目して探したのが、この車です。

 この車、5速MTなんですよ。




総評・デザイン

RFN型2リッターDOHCエンジン

 総じて見ると、とても素直で使いやすいクルマで、いわゆる大衆車とか実用車とはこういうものを言うのだと思います。但し工業品質では昭和50年代前半の日本車程度で頻繁に故障します。

 デザイン、特に色のセンスは、国産車がどう転んでも追いつけない領域ではないでしょうか。私の307は「エーゲブルー」という、307のイメージカラーで割りとポピュラーですが、他のカラーバリエーションを見渡してみると、国産車には無い美しい色(たいていは微妙な中間色)が多いものです。フランス人は「クルマは道具」と割りきりごくごく普通の実用車として設計していながら、デザインだけはお金も手間もかけてじっくり煮詰めているという感覚が、日本人と違っておもしろいところです。

 車体寸法は4210×1760×1530mm。2015年からの4代目プリウスが4580×1760×1470なのでプリウスとだいたい同じ大きさで全長が30cm短い感覚です。

 カドの丸っこさなど全体のプロポーションやタイヤの位置関係などが、それまで乗っ ていたミラージュに似ていることもあって、クラッチタイミングの違いはあるものの ドラポジ以外はすんなり運転できました。

 ホントに、クラッチのつなぎとアクセルの関係がとっても自然で、ディーラー店の玄 関から出て初めて運転した時にも、いきなり自然に運転できたことに驚きました。

動力

RFN型2リッターDOHCエンジン

 2リッターDOHCエンジン。特に良いところも、悪いところも感じません。そうい う意味で、ファミリーカーとしては及第点なのでしょう。トルクの出かたも馬力の出か たも「ごく普通」で、山道の登坂や高速道路の追越し加速も、実用にはじゅうぶんだが それ以上ではない、といった感じです。ただしそれは、盛り上がる加速感や勇ましい排 気音が感じられないからそう思うのかもしれません。高速道路の追越し加速では、いつ のまにかスピードが出ているといったふうにきわめてスムーズなので、エンジンの「包 容力」は大きいように思えます。



足まわり

 このクルマの、「(日本の道路事情では)最大の落第点」に感じている部分です。  プジョーではこの307で従来の柔らかい足から方向転換し、フォルクスワーゲンや 日本車のような固めなゴツゴツした感じにセッティグしています。これは307を世界 戦略車と位置づけ、世界でシェアを持つフォルクスワーゲンや日本メーカーのフィーリ ングを「世界標準」とし、それに倣ったのだとか(プジョーディーラーの社員に聞いた 話)。

 でもそれ、なんだか形だけマネしたようで、煮詰め不足甚だしく思います。バネでは なくショックが硬い感じで、さらに大型化したタイヤ/ホイールによりバネ下重量もか さみ、路面の凹凸を吸収してくれません。「ネコ足」と言われたプジョーどこへやら、 という感じです。

 実際307を購入するにあたり、実車を見たときから「タイヤ大きすぎ!これではバ ネ下重量が重すぎ!」と直感し、やはりそのとおりでした。

 車を選んだとき、1.6リッターの「Style」の履く195/60R15でちょう ど良さそうですが1.6ではちょっとパワー不足っぽい。でも2リッターのXSiの20 5/50R17ではバネ下加重が大きすぎるのではないか?との考察から、XSにした 経緯があります。

(他のオーナーさんの意見では、MTなら195/60R15を履く「Style」が  1.6リッターと非力ながらいちばん気持ち良い、らしい)

 ただし高速道路を走ると評価は180度ひっくり返ります。とくかくフラットで、継 ぎ目なども気持ち良くいなしてくれます。車重が倍ぐらいある高級車のように気持ち良 くしかも極めてどっしりと安定している感があり、スピードを上げても恐怖を感じない という別の意味での恐怖があるほどです。

 高速道路の段差と似たような環境として、低速ながら小刻みに凹凸がある路面も気持 ち良く走ります。なるほど欧州の石畳の道路や、アウトバーンなどを気持ち良く走るよ うにできているのですね。つまりサスペンションへの入力がとても速いスピードに良く 追従するように出来ている模様で、逆に、マンホールの段差やアスファルトのしわなど の段差がドンと来るような環境は苦手のようです。

運転装置

東京ドイツ村にて

 全体的に「重い」です。ただ、悪い意味ではなく「制御を入れていない」という 感じで、良く言えば極めてニュートラル、悪く言えば昔のクルマ。

 ただ、シフトレバーの重さはけっこうしんどいものがあります。カクカクと素直に入 りますが、渋いのではなくとにかく「重くて固い」んです。

 ドラポジとペダル配置はかなりヘンテコです。ペダルが必要以上 にやたら手前側に出ている(わざわざレバーを手前側に曲げてまで手前側に上げて ある)ので、ステアリングのテレスコピックを手前側いっぱいに伸ばし、シートを後ろ に下げ、シートバック(背もたれ)をいちばん前まで倒して、ちょうどいいという感じ です。で、そのペダルがこれまた日本の360cc時代の軽自動車並みに間隔が狭く小 さく、靴底が大きな革靴などではひっかかって危険なほどです。

 最初は右ハンドル化でムリしてるのかと思いましたが、聞けば左ハンドルバージョ ンも同じだとか。フランス人は足が細くて短く、手が長いんでしょうか?(どうもそう らしいです)

 例えば日本車では、右ハンドルでも左ハンドルでもセンターコンソールの運転席側を 大きく切り欠いて足もとのスペースを確保していますが、307ではそれが見られませ ん。そういう細かい努力が、日本車には在るのですが・・・


 アクセル、ブレーキ、クラッチは、どれも極めてリニアで、踏んだ量と効き方が完全 に一致します。

 ブレーキはちょっとクイックかな?ただ、ミラージュRSのブレーキの素晴らしさ (踏む量と効き具合が完全に比例していてしかもストロークが長い)に馴染んでいた ために感じるのかもしれません。最近の日本の小型車に比べればずっと運転しやすいで す(笑)。

 またこのブレーキは、とにかくよく効きます。いえ決してドンと止まる、というので はなく、重い車を短距離で止める力持ち、という感じです。下り坂、前方に急カーブ! ちょっとスピード出すぎてるな!・・という時でも、スムーズに減速してくれますか ら、安心感があります。

 クラッチはちゃんと「ミートした」感覚が、ズズズズッと足に伝わりわかりやすく、 かつ半クラッチのストロークが長いので、初めて運転したときもエンストなど全く起こ さず、いきなり普通に運転できました。一般的に油圧クラッチではこの感覚がわかりづ らいのですが、307はよくできています。

 さらに、ステアリングのニュートラルさはイイですね。極めて素直です。変な制御 を入れていないのと、油圧ポンプの容量が大きいのだと思います。加えて、サスペン ションも含めどんな状況でもほんの少しのアンダーステア、という理想にかなり近い チューンがされていて、ワインディングのような場所もスイスイ走れます。

 家族を乗せているとなかなか峠を攻めることはできませんが、ときおり(例えばキャ ンプ場に家族を残して買い出しに行くときとか笑)本気走りすると、タイムはとても遅 いものの、とっても楽しいです!数値では計れませんが「スポーツ走行を楽しむ」とい う点では国産のスポーツ車よりよほど楽しいかもしれません。


アクセサリ装置

 ワイパーとウィンカーが日本車と逆なのはご愛嬌。ちなみにワイパーは、上に上げ るとオンなので、全体が180度ひっくり返ってる感じです。実はISO規格では右ハ ンドルでも左ハンドルでもこの向きだと定められています。もしかしたら、昔の日本車 メーカーは欧米から輸入した装置をそのままひっくり返して装着したのかもしれませ ん。

 ウインカーレバーもシフトレバーも左にあることから、ネットの掲示板などでよく 「マニュアル車では左手が忙しすぎる」という書き込みを目にしますが、実際使ってみ ると全く問題ありません。それどころか、むしろ右手が常にステアリングを握っている ので安心感さえあります。

 これは日本が進んでいるところの現れだと思いますが、307はとにかくスイッチ 類の操作感が悪いです。いちばん顕著なのがハザードスイッチで、ボタンのストロー クが1ミリぐらいしかなくしかもクリック感が無いので、よく失敗します。別の307 を試乗する機会があったので操作したところ、こっちではハザードスイッチの操作感は 良好なのに、エアコンスイッチの操作感はバツでした。こういうバラつきを感じるぐら いに国産車は進んでいるのでしょう。

 左右逆という点では、ワイパーが左ハンドル仕様のままなのがNGです。このため 助手席側のワイパーはきちんとAピラーぎりぎりまで届くのですが、運転席側は数cm 拭き残しができてしまいます。ではワイパーアームごと左右ひっくり返したら良いので は?と思いますが、よくよく考えてみると、たとえ左右ひっくり返しても結果は同じに なるようなアームの形状なのです(泣)。

 雪の日は運転席ドアポケットに小さな雪かきを入れておき、信号で停車すると窓から 手を伸ばして拭き残し部分の雪を払う、という原始的な対策をしてます(笑)

 あと細かい話ですが、どうも日本の夏、つまり暑くて湿気があるという気候は想定し ていないようです。夏場にクーラーをかけていると、フロントのデフォッガーから漏れ た冷気が傾斜が寝たフロントウィンドウにガンガンあたり、ウィンドウの外側下半分が 曇ってきます。


燃費

千葉のキャンプ場にて

 ぎむぎむ家では307とムーブがあり、平日にまーじが買い物するなど ちょい乗りはムーブ、週末にショッピングモールに行ったり遠くへドライブしたりは私 が運転し307と、使い分けています。このことを前提に以下を考えてください。

 まず感覚的には、普通に運転していると、燃費は町中で9km/L、長距離ドライブ で13km/Lぐらいです。但し最近わかったことですが、この車、というかマニュアル車全般に言えることですが、運転のしかた次第 (つまり気づかいするか気を抜くか)で、燃費が相当大きく変わります。いわゆる「エ コドライブ」を徹底すると、町中で12km/L、長距離で14km/Lぐらいに改善 されます。が、ちょっと気を抜くと9km/Lぐらいに落ちます。

 手放す少し前での車のドライブコンピュータが表示した燃費は、平均8.2L/100km。 日本式に表すとリッター12kmといったところです。満タン法で確認したところほぼ 同じ数値なので、計測は信用して良いと思います。

 なお上記は前回リセット時から約5000km走っていたときの数値なので、私の使い方での平均燃費だと言えると想います。



日本人の目から見た不具合

 日本車ではとうの昔に改善されているような不具合・・・しかしおそらく日本人以外 は不具合とは思わないであろうことが、いろいろ起こります。

あちこちから異音

 ちいさな段差などを乗り越えると、車体のどこからか「グキッ!」「ボキッ!」と、 何かが折れたような音が聞こえることがあります。どうやら内装やエンジンカバーなど 構造に関係ない樹脂パーツの組みつけ精度が悪く、その突き合わせ部分がズレたり擦れ たりして大きな音を出しているようです。

 ちなみに運転席と助手席に備え付けられたサンシェードを倒したときも、その接合部 から「バキン!バッキン!!」と、樹脂が折れたような怖い音がします。

ランプ類がすぐ切れる

 日本製のランプに交換しても同じ具合です。どうやらランプに電流を流すための金属 接点が原因のようです。

 日本の工業製品なら、例えば懐中電灯のフタを開ければわかるように、接点の部分に はりん青銅板など電気抵抗が低く(電気を流しやすい)しかもバネのような弾力性のあ る金属を使うのが普通です。さらには接点がより密着するように形状も工夫されていま す。

 ところが307では、亜鉛メッキされた単なる鉄板が使われていて、指で押すとあっ さり折れ曲がってしまいます。電気接点の材質や構造は、日本人の目には安いプラモデ ル以下だ、と断言できます。このため、走行中の振動で目にはわからないほどにオン・ オフが繰り返され、電球の寿命が縮んでしまうのではないか?と思います。 推察ですが・・・

ブレーキダスト

 これは日本と欧州の設計思想の違いですが、とにかくブレーキダスト(ブレーキパッ ドやブレーキローターが削れたカス)が多く出ます。つまりそれだけ早く削れます。

 さらに日本車ではブレーキパッドは削れて減っても、ローターはあまり減らない、と いうのが普通ですが、307ではローターもいっしょに減り、私の実績では5万kmで 交換しました。

ブレーキが鳴く

 鳴くといってもキーッ!と耳障りなほど鳴くわけではありません。ただ後席に座って いると、お尻の下から「ゴーッ・・」と、ブレーキがかかる音がします。

 これら「ダストが出る」「音が出る」というのは、欧州人と日本人の思想の違いによ るところが大きいようです。日本人なら音が出ることに不安感を覚えますが、欧州人は 逆で、音が出ることがあたりまえで音がしないほうが不安、という考え方だそうです。


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